[ザ・プロジェクト]

Real Data Platformを基軸に次世代事業を創出─SOMPOホールディングスのデータドリブン経営

2021年8月18日(水)奥平 等(ITジャーナリスト/コンセプト・プランナー)

損害保険ジャパン、SOMPOひまわり生命保険、SOMPOリスクマネジメント、SOMPOケアなどを傘下に、日本の「3メガ損保」の一角を占めるSOMPOホールディングス。「安心・安全・健康のテーマパーク」というグループブランドスローガンの下、高付加価値サービス業/ソリューションプロバイダーへの転換を目指したデジタルトランスフォーメーション(DX)に邁進している。急激なビジネス環境の変化の中で、競争優位性を高めながら成長を続けるために、SOMPOはどんなアクションを起こしているのか。グループ全社のデータドリブン経営の全貌に迫ってみたい。

 SOMPOホールディングスは2021年5月26日、グループの新しい中期経営計画(2021~2023年度)を発表した。前の中期経営計画(2016~2020年度)で、「安心・安全・健康のテーマパーク」という企業スローガンを打ち出し、高付加価値サービス業への転換に舵を切った同社が、次の5年間でどのような成長戦略を描くのか──。そのカギを握る取り組みは、新しい中期経営計画に記されている。既存事業を通じて自社が独自に収集・蓄積・構築するリアルデータをアドバンテージに、新たなイノベーションや顧客接点・価値を創出する「Real Data Platform(RDP)」である。

 RDPは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を具現化し、ビジネス変革を生み出すのみならず、SOMPOの将来を担う新事業の創出に向けた「推進エンジン」を自ら手中に収める戦略でもある。このRDPを原動力にSOMPOは、保険・介護といった既存事業の成長・レジリエンスの向上を果たすと共に、既存事業との親和性の高い重点領域(健康・ウェルネス、モビリティ・プロパティ、デジタル)での新事業開発に注力し、ソリューションプロバイダーへの歩みをスタートさせている。

 新しい中計は、まさにその礎を築くべく3カ年となる。そこでSOMPOはDXの取り組みをどのように経営とシンクロさせ、昇華させてようとしているのか。また、同社をRDPの発想へと向かわせたけブレークスルーとは──。デジタル戦略部部長 兼 データ統括室室長として、RDPの具現化をリードする的野仁氏(写真1)に戦略・方針とアクションについて聞いた。

写真1:SOMPOホールディングス デジタル戦略部部長 兼 データ統括室室長の的野仁氏

“安心・安全・健康のテーマパーク”─コンセプトがグループ経営の柱に

 SOMPOの新中計は、「安心・安全・健康」を基軸にさまざまな社会課題に向き合い、それらの課題解決を通じて持続可能な社会に貢献するという「SOMPOのパーパス」を根幹に策定されている(図1)。

図1:中期経営計画(2021~2023年度)の全体像(出典:SOMPOホールディングス)
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 その実現に向けて、新中計には以下の3つの基本戦略が掲げられている。

①既存事業の収益性を高めて利益の安定化を図る「規模と分散の追求」
②リアルデータの活用を踏まえた「新たな顧客価値の創造」
③3つのコアバリュー(ミッション・ドリブン、プロフェッショナリズム、ダイバーシティ&インクルージョン)の共有を目指す「働き方改革」

 また、以下の3つのグループ経営基盤をもって、ゴールに「安心・安全・健康のテーマパークの具現化」を見据えている。

①資本政策・ERM(Enterprise Risk Management:統合リスク管理)
②SDGs経営
③ガバナンス

 冒頭でも触れた「安心・安全・健康のテーマパーク」は前中計において初めて示されたもので、当初は抽象的、コンセプチュアルなものであったという。それが2019年10月より正式なグループブランドスローガンとなり、DXの推進に伴い、新中計では具現化に向けた明確な方針が打ち出されている。経営企画部門で同スローガンのコンセプト作りに携わった経験も持つ的野氏は次のように振り返る。

 「当初は私自身にも戸惑いがありました。雲を掴むようなあまりにも壮大なテーマだと感じ、どのように具現化していけばよいのか自問自答する毎日でした。それが、同時期(2016年)にデジタル戦略部が設立され、デジタルやデータに対する認識が部門横断的に変化していく中で、少しずつ具現化の兆しが見えていった気がしました。というのも、当社のDXに対するスタンスは『バズワード(流行り言葉)では動かない』を貫いており、常に知見や目利き力といった基礎体力を養うことに注力していたからです」

 そうしてSOMPOは、コンセプトの具現化に向けて積極的に実証実験やPoC(Proof of Concept:概念実証)に取り組み、多くの失敗を重ねながら、事業グループ単位で1つ1つ道筋を切り拓いていったという。「新しい中計はまさに、これまでの取り組みの成果を、事業としてのチャレンジへと転換させるタイミングになったことを物語っています」(的野氏)

RDPを基軸にグループ売上高5000億円を目指す

 新中計では、デジタル技術を駆使したサービス事業を今後の柱に据えるという方針が明確に示されている。そのカギを握るのがReal Data Platform(RDP)であり、これを機軸にしたデジタル時代のサービス事業を多数創出し、新たな顧客価値の創造を目指す。

 図2は、新中計に示された事業別主要KPIである。最下部の「新たな顧客価値の創造」という項目が上記に該当するが、2023年度計画として「RDP活用商品・サービスの外販・収益化」を「2事業以上」、中長期目標として「RDP活用によって創出するグループの売上高5000億円」という数字が掲げられた。

図2:中期経営計画における事業別主要KPI(出典:SOMPOホールディングス)
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 「時間軸と利益率についてはこれから詰めていくところではありますが、RDPを基軸にしデジタルを駆使した新たなビジネス展開の材料は揃いつつあります。当初は潜在市場が見込まれる分野からのスタートとなり、進めているテーマは介護、防災・減災、モビリティ、農業、ヘルシーエイジングなど多岐にわたります。将来的には、保険事業をはじめとする既存ビジネスを補完・代替する大きな柱になる──経営トップ自らがそう位置づけています」(的野氏)

 経営ビジョンとして、RDPを基軸にDXを推進していくことが明確に示された形だが、これだけではない。既存の事業もデジタルで新たな価値を創出していくのが、新中計に示された同社の方針だ。例えば、国内損保事業では「マーケティング強化およびDXや新たなビジネスモデルの創造を推進」、国内生保事業では「Insurhealth(注1)を原動力に、デジタルやデータを活用した商品・販売戦略によりさらなる成長加速を実現」するとしている。

 また、介護・シニア事業では「テクノロジーを駆使した介護品質や生産性の向上に取り組むと共に、リアルデータやリアルサービスを活用した他の介護事業者や医療・ヘルスケア事業者との連携によるエコシステム構築を推進」、ヘルスケア事業では「健康増進や医療の生産性・品質向上を支える予防・未病や、診断・治療領域をカバーする事業を開発し、社内外との共創やリアルな事業基盤とデジタル活用により新たな価値を創造」するとしている。こうして、あらゆる事業領域にわたってDXやデータの高度活用を戦略・方針に位置づけており、新中計から、その本気度と自信がうかがえる。

注1:Insurhealth(インシュアヘルス)は同社の造語。保険本来の機能(Insurance)に健康を応援する機能 (Healthcare)を組み合わせた、従来にない新たな価値としてInsurhealthを提供する、としている)

ターニングポイントにデータ統合・分析プラットフォーム「Palantir」の存在

 上述のように、SOMPOが推進するDXの特徴は、効率化・生産性向上といった内向きにとどまらず、 デジタルそのものをビジネス化し、新たな価値を創出・提供するという外向きのスタンスを顕著にしている。それでは、同社はなぜ、ここまで自信を持ってDXによるサービス化・ビジネス化を宣言できるのであろうか。

 的野氏によれば、そこには大きなターニングポイントがあったという。「安心・安全・健康のリアルデータプラットフォーム」の立ち上げを目的に、2019年11月にビッグデータ分析を専門とする米国のソフトウェア企業、Palantir Technologies(パランティアテクノロジーズ)とのジョイントベンチャーにより設立した「Palantir Technologies Japan株式会社」の存在だ。

●Next:「Palantirは、他に類を見ないアプローチのデータ統合・分析基盤だった」

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