[市場動向]

“デジタルの渦”に飲まれるか、巻き返すか─必要なのは「デジタル日本」への改造論

安易なバラマキ公約なんて要らない─新政権発足と衆院解散・総選挙で思うこと

2021年10月11日(月)佃 均(ITジャーナリスト)

2021年10月4日に岸田文雄自民党総裁が第100代内閣総理大臣に就任、14日に衆議院解散、19日に総選挙告示、31日投開票──。岸田新首相が政策指針に掲げる「新しい資本主義」が具体的にどのようなものなのか未知数だが、避けて通れないのは地球規模で進展しているデジタル化への対応だ。同時並行で進展する超高齢化と少子化を視野に入れたとき、今回の総選挙、集票を当て込んだバラマキ公約を並べ立てることは許されない。今、必要なのは「デジタル日本」への列島改造論ではないか。

 一連のドタバタが始まったのは2021年9月3日だった。この日、当時の菅義偉首相が自民党総裁選への不出馬を表明した。以後、自民党総裁選を経て菅内閣が総辞職、岸田文雄氏が第100代内閣総理大臣に就任、そして組閣(画面1)。通常なら新内閣のお手並み拝見となるところだが、衆院の任期満了が控えている。衆院解散・総選挙で自民・公明の連立与党が半数割れとなれば、世襲血族の陰謀術策を得意とする政治評論家やテレビのワイドショーは大喜びかもしれない。だが、人気商売・視聴率が命とあればやむをえないにしても、せめてゴシップネタや身の上ネタに終始することがないように願いたい。

画面1:自民党総裁選に勝利した岸田文雄氏が第100代内閣総理大臣に就任した。2021年9月29日付けBBCの記事より。

 何を言いたいか。新政権ばかりでなく、総選挙を闘う与野党に限らず、忘れてならないのは、ただいま現在、国民は時代の転換に直面しているということだ。社会・経済の動力源が石炭から石油に代わり、さらに電力が加わった。そのたびに産業界では入れ替え戦が起こり、雇用が流動化した。いま直面している変化はかつてなく早く、激しく、かつ地球規模で起こっている。「デジタルの渦(Digital Vortex)」(図1)がそれだ。

図1:IMDが示すデジタルの渦(Digital Vortex)。ここでは2015年の初版と2017年の2版を並べている(出典:IMD「The Digital Vortex in 2017: It's not a question of "when"」)
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デジタルの渦──変革は常に破壊と混乱と共に起こる

 「デジタルの渦」を言い出したのは、スイスのローザンヌに本部を置くIMDだ。正式名称はInternational Institute for Management Developmentで、国際経営開発研究所と訳される。年次で発表される「IMD世界競争力ランキング」の調査・発行元でもある(関連記事IMD世界競争力ランキング34位─日本が抱える最大の課題は「ビジネスの効率性」

 デジタルの渦は、2016年5月発行の同研究所のレポート『Digital Vortex:How Today's Market Leaders Can Beat Disruptive Competitors at Their Own Game』で公開し、またたく間に先覚的な企業経営者や研究者の知るところとなった。いずれにせよ、昨日や今日のバズワードではない。

 「テクノロジー、メディア/エンターテインメント、小売、金融サービスと、ありとあらゆる産業がデジタルの渦に吸い込まれていく」(同レポート)。人によって「不動産」「輸送・物流」を加えたり、吸い込まれる順番が異なるのだが、基本的な考え方は変わらない。「デジタル化が産業を変革していく」ということだ。ただしその変革は常人が想像する範囲にとどまるものではない。

 変革を意味する英単語は「innovation」、近年は「transformation」といったところだが、IMDは「disrupt」を使っている。直訳は崩壊、混乱。ビジネスの世界では「破壊的イノベーション(Disruptive Innovation)」が有名だ。

 というより政治家や経営層がしばしば口にする改革の少なからずは、おおむね「改変」(change)にとどまっていて、本当の改革は既存の構造やモデル、組織や体制、さらには習慣や常識の崩壊、それによる一時的な混乱がつきまとう。デジタルの渦がもたらすのはそれほど深刻なもの、というわけだ。

納得できる解を1つずつ見つけていく

 デジタルの渦の破壊と新市場の創出が真っ先に表れたとIMDが指摘するのが、メディア/エンターテインメント業界である。

 楽曲がデジタル化され、ネットで配信されるようになった結果、CD(コンパクトディスク)が市場から消えようとしている。CDの版元であるレコード会社やCDの再生機器メーカー、販売店は転身を余儀なくされ、楽曲のヒットチャートの根拠も変わらざるをえなくなった(余談だか、CDの前のプラットフォームだったレコード盤やカセットテープが近年マニアから一般層に再び広がり始めているのは興味深いが、市場としては微々たるものだ)。

 デジタルの渦のインパクトは、昨今のコロナ禍でも強く意識されることとなった。対面や接触を回避するのに、ECやデジタルコンテンツ販売は飛躍的な成長を遂げ、電子決済やネット預金・送金は当たり前になった。仕事の環境では、対面のやり取りと書類・押印からなかなか離れられない日本企業もこぞってテレワークを導入し、ペーパーレス化を進めた。オンライン診療やオンライン授業もようやく突破口が開かれたかたちだ。

 もちろん、プラス面があればマイナス面もある。コロナ給付金を普及のきっかけにしたマイナンバーがさまざまな個人情報とリンクすれば、行政手続ばかりか資金決済や契約業務も簡素化できるだろう。しかし同時に情報漏洩や国家による個人監視のリスクも増す。監視カメラとAIを組み合わせれば、特定個人の行動追跡が容易になり、犯人の追跡・割出しには便利だが、デッチ上げを生むかもしれない。こうしてデジタルの渦には光と影がつきまとう。それこそが一時的な混乱と考えて、納得できる解を1つずつ見つけていかなければならないだろう。

●Next:蔓延するDXへの大きな誤解──個社の取り組みだけではDXは進まない

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