[DX/イノベーションの推進者へ、未来に向けての提言─DBICビジョンペーパー]
IMD世界競争力ランキング34位─日本が抱える最大の課題は「ビジネスの効率性」:第2回
2020年9月11日(金)デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)
企業の幹部教育に特化し、世界トップクラスのランキングを誇るスイスのビジネススクール、IMD(International Institute for Management Development)。毎年5月から6月にかけて発表する「IMD世界競争力ランキング」において、日本は2019年で30位、2020年は34位と低迷している。ここから見える日本の弱みと強みとは。データを仔細に分析し、解説していく。
世界競争力、「日本34位」の衝撃と真因
IMD 北東アジア代表
高津 尚志
2019年5月末、「日本の競争力は世界30位、1997年以降で最低」という見出しが各種メディアで踊った。ニュースに触れた日本人の多くが衝撃的に受け止め、ブログやSNSを通じて様々なコメントが飛び出した。麻生太郎副総理兼財務大臣が「日本の競争力が低いと考えたことはない」と反論する場面も報道された。
このとき耳目を集めたのは、スイスに本拠を構える世界トップクラスのビジネススクールIMD(International Institute for Management Development)が発表した「IMD世界競争力ランキング2019」である。IMDでは、研究部門「世界競争力センター」が中心となって1989年から毎年、ランキングを発表している。
日本は開始当初の1989年から1992年まで1位を堅持したが、その後、徐々に降下。ついに2019年、調査対象63か国中30位となった。そして、2020年は34位である。
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しかし反応は、個人的な意見・感想・持論に終始した、あるいは感情的なものが目立っていた。「競争力とは何か」「なぜ低下したのか」「日本の課題と機会は何か」といった、冷静で事実に基づく議論は極めて少なかった。同ランキングを発表するIMDの一員として、また、ひとりの日本人として、この状況はもったいないと感じた。
世界63か国・地域を対象に、合理的手法を設計し、比較可能な指標を設定し、信頼性の高いデータを集めることで算出されるこのランキングは、内容を丹念に精査すれば様々な示唆を与えてくれる。それを活用せず、素通りするほどの余裕は、日本にない。
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30歳のイチローと、45歳のイチロー
IMD世界競争力ランキングが示す「競争力(Competitiveness)」とは、今と未来における、他者との比較である。自分(自国)がどれだけ努力をし、前進しても、他者(他国)がそれ以上前進していたら、劣後する。
また、競争力は、今の輝きを示す「地位」「ブランド」「格」といった概念とは違い、今と将来における、競い合いでの優位性を示す。この競い合いでの優位性は複数の要素から構成される。その要素の中の何を磨きあげれば、競争に勝てるのか。それが、戦略である。
野球のイチロー選手を例に考えてみよう。打力・守備力・走力など、様々な要素で卓越した選手であったが、打力では、本塁打よりヒットの数で圧倒する、という戦略を選び、磨き上げた。そして、メジャーリーグの歴史でも最高の選手のひとりとなった。
30歳のイチローには競争力があった。チーム内の競争に勝って定位置を確保する。毎日試合に出てヒットを重ねる。他チームの一番打者よりも、高い成績を残す。翌年、その翌年の活躍も期待させる。チームは彼を手放したくないし、他のチームは彼を欲しがった。
45歳のイチローは、ヒットが打てなくなり、翌年打てる見込みも薄かった。もはや競争力はなかった。断っておくが、このことと、彼がいまだに、きっとこれからも素晴らしく魅力的であり、違った形で野球界や社会に貢献するだろう、ということは、別の話である。
さて、野球選手の競争力が、現在と将来の打力・守備力・走力などで評価されるとしたら、国の競争力はどう測ればいいのだろうか。
「競争力とは、企業が長期的な価値創造を行える環境を、その国がどの程度、育むことができているかを示すものである」。まず、これが、「IMD世界競争力」の定義である。
このランキングは、大きく「インフラ」「経済パフォーマンス」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」の4つの因子からなる。過去約20年の日本の総合順位と、4つの各因子の順位の推移を示したのが、冒頭に示したグラフだ。
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