[DX/イノベーションの推進者へ、未来に向けての提言─DBICビジョンペーパー]
新常態へ─ビジネスモデル変革の筋道と、それを可能にする組織の姿:第7回
2020年12月1日(火)デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)
前々回までに紹介した分析結果で、日本の病巣がより明確に浮かび上がり、日本は何をなすべきかが見えてきた。ここでは、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)として、日本が再び先進国として輝くための指針を「提言」としてまとめ、治癒や改善に必要とされる「処方箋」を提示する。この国に残された時間は少ない。DBICからの提言と処方箋を、前・後編の2回に分けてお伝えする。後編となる本稿は、ニューノーマル(新常態)の時代に競争力を維持向上するためのビジネスモデル変革の筋道と、そのうえで求められる新しい組織、企業体のあり方について提言申し上げたい。
●[前編]はこちら:「株主第一主義」から「SDGs思考」へ─今こそ経営者が転換すべき時
提言2-1
既存ビジネスに縛られず、新しいビジネスをゼロベースから再構成せよ
人類・社会を持続可能なものに変革するための新しいビジネスを、既存のビジネスに縛られずに、再構成し直すことが必要である。完成まで10年程度の長期計画になるかもしれないが、全社を挙げてそれに向かって体制を作り、順次トランスフォーメーションしていくことが必要である。
今、まだ既存のビジネスの賞味期限があるうちに準備しておくことが肝要だ。コロナショックであわててコスト削減に走るのではなく、今がチャンスと見て投資すべき時期だろう。幸いに内部留保の高さが助けになる。
コロナ禍で損益が赤字になっても経営者は未来の存続の為に、断固投資を続けることが重要である。今までのように一律の経費カットで耐えるようなことをしてはならない。世界の一流企業は、例えば、2030年の社会を想像し、そこから逆算して考えたり、徹底して市民の生活を観察し直すことでのインサイトを得たりと、新しいビジネス構想のデザインを始めている。
処方箋①
競争力を生む「価値ある仕事」と「作業」との分解
まずは、既存ビジネスの仕事を「仕事」と「作業」とに分解・仕訳することを行い、体を筋肉質に変えることで、新ビジネスを構想するリソースを生み出す。ポストコロナ時代の新社会経済のビジネスプロセスを検討するうえでも、現状の仕事を「価値ある仕事」と「単なる作業」とに分解して、作業は100%デジタル化、もしくはBPOに移行することを全組織で始める。
ホワイトカラーのかなりの多くの仕事が、社内の資料作成などの作業であり、付加価値を生んでいない。「BIツール」などを駆使した、意思決定の高度化につながるような仕事への転換が必要である。
社員の全員が自立して意思決定することができる企業体を目指すためには、価値ある仕事だけを残し、作業はデジタル化またはBPOに移管するというビジネスプロセスの改革から始めると進めやすい。
加えて、現行のルールや意思決定プロセスについても改革していくことが必要である。承認・決済のルールが複雑で時間がかかるのが日本企業の一般的な課題である。スタートアップとNDAを締結するのに数週間、海外企業と契約するのに数カ月を要する大企業も多く、それでは、スタートアップや海外の会社から相手にされなくなるのも当然だ。ルールや手続きをシンプルに改善しないと、機会はどんどん離れていく。
また、この改革を進めると、必ず、中間管理職の仕事とは何か、という問いにぶつかることになる。それぞれの社員がプロとして責任を持った仕事をすると、現在の中間管理職がやっている「管理」という仕事に意味がないことが明確になってくる。本来、管理職は意思決定することと、その組織が目指すビジョンを明確に主導することが役割であるが、そのような価値ある仕事を実践しているかを見直す良い機会にもなる。経営トップが中間層を人事評価する際、変革やイノベーションをどれだけ推進し、支援したかという指標で評価していく方針へと変えていく必要がある。
また、デジタル化を検討することも多くの効果を生む。組織の効率性、正確性が上がることはもちろんであるが、現状を可視化することにより、なぜ、その作業が必要なのかを考えることになる。そして、おそらくは、何のためなのかが不明ということがたくさん出てくる。ある時代では必要なことも時が経つことで不要になることが多い。今こそ例外のない棚卸しと改革を推進すべきである。
処方箋②
経営企画部門任せではなく、トップ下の特別専門チームを立ち上げる
トップが決めた「自社の存在意義」を実現するため、新しいビジネスを企画するためのチームを立ち上げ、全社を挙げてまずは計画を立案する。スイスIMD(International Institute for Management Development)のマイケル・ウェイド(Michael Wade)教授は成功するための手順を以下のようにDBICでのプログラムで提示している。
まずは、変革担当役員の下に「DX変革推進室」を立ち上げる。チームは小規模にとどめ、オーケストレートに専念する(小規模と言ってもウェイド教授が事例として上げていた企業では「40人」という規模であった)。変革推進室には、「アート&デザインシンカー」や「ビジネスアーキテクト」などの能力がある人材を最優先で引き入れる。
同時に経営陣は「変革の方向性を強化する」と明言する。経営陣・変革推進室は「変革理念(Transformation Ambition)」を設定する。変革理念とは、「数年後の特定の時点に自社の競争力をどう変化させたいか」を表すもの。
各事業部にも「DX変革チーム」を設置し、各事業部の変革プランの企画推進をする。適切な規模の「社内ベンチャーファンド」を作り、部門横断型の取り組みを加速させる。その上で、各チームが「変革目標(Guiding Objectives)」を設定する。変革目標は事業分野ごとに、それぞれの事業分野で設定する──。これが、ウェイド教授が示した教えである。
提言2-2
既存ビジネスをポストコロナの社会の在り方に沿って改革する
ポストコロナの社会の在り方・価値観は現在とは大きく異なる。個人同士の接触を極力避ける遠隔環境社会でのビジネスの在り方、ビジネスモデルの変化を想像し、また、個人や社会の家族感、幸福感が大きく変わることも想像しながら、新しい商品・サービスを企画実行する。そうして既存ビジネスの延命を図ることも必要である。
処方箋
ポストコロナの社会や産業構造に合わせたビジネスプロセスを作る
新型コロナウイルスによって、いきなり新しい社会、すなわち遠隔環境社会が到来し、当分元へは戻れないと想定した時に、自社のビジネスプロセスがそれに耐えられるのか、ということが深刻な問題となってきている。
まずは、新型コロナで当面想定される条件を明確にし、全社のビジネスプロセスが今までどおり円滑に流れていくのか、がチェックポイントとなる。例えば、個人の接触を極力避ける前提で、「営業」がまわるのか。60%の社員が在宅勤務で業務は進められるのか。海外との往来が厳しく制限される中で、どういう問題が発生するのか。サプライチェーンをどのように改革すると、パンデミックや自然災害に強い体制を作れるのか。ITインフラが守れるのか。サイバーセキュリティー対策など、多くある。
全部門にわたっての総点検と改革がないと既存ビジネスの賞味期限が切れてしまう。ここは急ぎ、知恵を集めて取り組んでいくことが必要である。売り上げ減に対応してコスト削減のみに走るような対策では先が苦しい。
本質的なビジネスの見直し作業をやらねばならない。しかし、このことは決して無駄になることではない。
●Next:「ビジネス変革を起こせる組織と人材」はどうあるべきか?
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