[DX/イノベーションの推進者へ、未来に向けての提言─DBICビジョンペーパー]
勝つための構えは、あるのか─DBIC活動からの触診と洞察[前編]:第4回
2020年10月19日(月)デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)
多くの“症状”がIMDの世界競争力ランキング/デジタル競争力ランキングによる分析で露見した。踏まえて、日本の大手企業の実態に触れてきたデジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の4年間の活動をベースとした“触診”を前・後編の2回にわたって展開する。DBICの横塚裕志代表と西野弘共同創設者に加え、IMDの高津尚志北東アジア代表も加わり、鼎談で議論を深めた。(Photo:稲垣純也)
●●● Tripartite Talks
横塚 裕志 Hiroshi Yokotsuka
特定非営利活動法人CeFIL 理事長
DBIC 代表
1951年、東京都生まれ。一橋大学商学部卒業後、1973年東京海上火災保険に入社。2007年同社常務取締役、2009年東京海上日動システムズ代表取締役社長に就任。2015年一般社団法人情報サービス産業協会(JISA)会長に就き2019年退任。2014年からCeFIL理事長となり現職。他に産業技術総合研究所研究評価委員会(情報・人間工学領域)委員長、日本疾病予測研究所取締役。富山大学経済学部非常勤講師
西野 弘 Hiroshi Nishino
特定非営利活動法人CeFIL 理事
DBIC 共同設立者
1956年、神奈川県生まれ。早稲田大学教育学部在学中、スウェーデン・デンマークへ留学。卒業後、1979年全日空商事に入社。1991年プロシードを設立し、2017年代表取締役を退任。政府研究会委員としてIT調達改革、障がい者教育のIT化などに関わり現職。他に、HI3代表取締役、NPO法人itSMF Japan理事長、インターポール・グローバルサイバー犯罪専門家委員会委員、富山大学経済学部非常勤講師。
高津 尚志 Naoshi Takatsu
IMD 北東アジア代表
1965年、愛知県名古屋市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、1989年日本興業銀行に入行。フランスの経営大学院INSEADとESCP、桑沢デザイン研究所に学ぶ。ボストンコンサルティンググループ、リクルートを経て2010年より現職。日本企業のグローバルリーダー育成を支援している。ドミニク・テュルパンIMD前学長との共著に「なぜ、日本企業はグローバル化でつまずくのか」など。
横塚裕志(DBIC代表):高津さん、「IMD世界競争力/デジタル競争力ランキング」の仔細な分析、ありがとうございました(関連記事:「世界デジタル競争力」に見る日本の“本当の危機”─要素を詳細分析:第3回)。非常に示唆に富んだ内容で、日本企業を蝕む「症状」がわかりやすく浮かび上がりました。
高津尚志(IMD北東アジア代表):ありがとうございます。日本の未来を明るいものにするために、お役に立てればとがんばりました。
西野 弘(DBIC共同創設者):症状が明確になったところで、先の議論へ進みたいと思います。DBICは2016年春の設立から4年が経ちました。メンバー企業の社員は合計で150万人におよび、その中の先端的な人材との年間約70回のさまざまなプログラムを通じて、日本の大手企業の実態に触れることができました。
そこで、IMDのサーベイで明らかとなった重大な3つの“症状”について、DBICの活動を通じて横塚と私が直に感じたことをベースとした“触診”を進めたいと思います。したがって、この議論はDBICの活動からの実態報告書と捉えていただいてよいと思います。
まずは1つ目の重大症状、「俊敏性と感度」について、改めて高津さんのほうからご説明願います。
高津:はい。「企業の俊敏性」についてのサーベイ結果は63カ国中最下位の63位でした。この指標は世界競争力ランキングの「ビジネスの効率性」の中に含まれていて、ランキング全体を引き下げる要素になりました。一方、デジタル競争力ランキングの方でも、「将来の準備」に含まれており、そこでも全体の足を引っ張りました。
これはサーベイ結果で、日本企業の俊敏性が客観的に世界最低かどうかを示すものではないです。ただ、日本の企業の俊敏性を問われた日本の回答者の評価・認識は世界最低でした。それだけ、日本の経営幹部は俊敏性について危機感を持っているという証左です。
「うちのビジネスと関係ないだろう」
横塚:現役で働いている頃から、「ビジョンがないから俊敏性も順応性もない」と感じていました。結局、日本企業にビジョンというものはなくて、売り上げをいくらにするかとか、市場シェアを何パーセント上げるとか、そういう数値目標を目指している。となると、すべてがリスクになっていく。
だから、新しいことが出てきたときに、「このリスク、どう取るの」「これはリスクあり過ぎじゃないの」という話になって、なかなか進まない。つまり、数値目標だけだと、俊敏性も何もなくて、全部リスクだから全部やめようという話になっちゃうんですよね。
西野:できるだけお金を使わず、変えずに、売上数字が上がればそれでいいという経営。
横塚:そうそう。だから、1兆円規模の売上高がある企業で、100億円規模の新規事業の提案があったとしても、「そんなもん既存事業の売り上げを1%伸ばせばいいじゃない」となって、新しいことに向かおうとしない。
実例を挙げましょう。DBICでは「シンガポールイノベーションプロジェクト」を実施しています。メンバー企業の精鋭、10人ほどがシンガポールに滞在し、そこで半年間かけてイノベーションを起こす新しいビジネスの実証をやろうというプログラムです。
実際に、新規ビジネスを企画して実施しようとするんですけれども、会社にお伺いをたてると、「そんなもの、うちのビジネスと関係ないだろう」という感じで、本社の了解が得られない。予算も付かない。だからチャレンジがなかなかできない。
せっかく若い方が、例えば「社会課題の解決につながることをビジネスにしたい」と言った瞬間に、「社会課題はうちのビジネスじゃない」とされちゃう。本当にかわいそうなぐらい、みんな本社が止めちゃうんですよね。会社の大義、ビジョンがないので。
●Next:企業/経営者が「ビジョンを持つ」ということと、「ビジョンと俊敏性」の関係
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