[DX/イノベーションの推進者へ、未来に向けての提言─DBICビジョンペーパー]

勝つための構えは、あるのか─DBIC活動からの触診と洞察[後編]:第5回

非正規社員への依存過多、指示待ちマインド……世界に取り残される種々の要因

2020年11月5日(木)デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)

多くの“症状”がIMDの世界競争力ランキング/デジタル競争力ランキングによる分析で露見した。踏まえて、日本の大手企業の実態に触れてきたデジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の4年間の活動をベースとした“触診”を前・後編の2回にわたって展開する。DBICの横塚裕志代表と西野弘共同創設者に加え、IMDの高津尚志北東アジア代表も加わり、鼎談で議論を深めた。(Photo:稲垣純也)

●[前編]はこちらビジョンがないからリスクも取らない─日本企業の現状と課題

触診2─効率性と生産性 非正規社員への依存が生産性を下げる

西野 弘(DBIC共同創設者):次に行きましょう。IMDのサーベイでは、「大企業の効率性」「労働力の生産性」も日本の順位を下げる要因となっています。

高津尚志(IMD北東アジア代表):「大企業は国際的にみて効率的である」という命題に関するサーベイについて、日本は過去5年で落ち込んでおり、2019年は63カ国中61位となりました。

 労働生産性に関しては、大企業なのか中小企業なのかということは聞いておらず、日本全体の話です。いわゆる「働き方改革」が叫ばれるようになったので、回答者が生産性に対してより自覚的になった、より厳しい目で見るようになったという可能性があります。

国際比較が念頭にない日本企業

横塚裕志(DBIC代表):メンバー企業から、効率性や生産性を何とかしたいというご相談は皆無ですね。IT化やDXについて膨大な投資をしながらも効率的でないことを誰も不思議に思わない。

 これはまず、日本企業は国内の業界内比較をKPIにしていて、世界との比較は「日本とは違う」という論理で、あまり気にしていない。つまり、国内で低レベルな小競り合いをしているだけなので、多くは国際比較は念頭にないというのが実態ではないでしょうか。従って、そもそも効率性が悪いとか、生産性が低いとは思っていない。改善の必要があるとも感じていない可能性があります。

高津:一般的に私たちは「日本には日本の特別な考え、事情や型がある」と考えがちです。国際的に低い水準になると「基準自体が不適切」と考えたり、外来の方法論を「日本化」するあまり、本来の目標にそぐわないものにしてしまったり、という傾向に注意したいです。

西野:日本企業の経営者はあまりにもグローバルの感覚から、かけ離れているんですよ。日本と海外の経営者の違いについて例を1つ。昨年、北欧に行ったときの話です。日本の会社の社長は、北欧の会社の社長になったら労基法違反で辞職ですよと、話しました。

 北欧では、従業員はほとんどが正社員で病欠有給を除いて、年間5~6週間の有給休暇があり、最低2週間連続で取らせなきゃいけない。加えて利益率も10%以上求められる。だからいやが応でも経営者として、仕事の質や効率性や生産性を考えざるを得ない。社員の幸福度も高い。日本の経営者は、同じような経営が可能なのか、となりますね。

世界29カ国の派遣会社の事業所数(2011年) (出典:The agency work industry around the world - 2010 Edition - Ciett(International Confederation of Private Employment Agencies)
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能力ある専門家が社内に不足

横塚:国内における効率化の施策は、そのほとんどの企業が、社員を物理的な形で減らす、つまり安価な非正規社員に置き換えるという日本独特の考え方で実施しています。

 2011年と少し古いデータですが、日本の人材派遣会社は8万社を超え、圧倒的世界首位。フランス・オランダ・ドイツの平均、約5300社の15倍という異常な国になってしまった。2位の米国と比べても約2.6倍です。当然、このモデルを継続すれば、組織としてこれからの競争力の強化に必要な専門性を持った社員はいなくなる。社内に能力ある専門家が不足する事態を招き、結果として、生産性が下がっているのではないでしょうか。

 「BPR」で仕事量を減らすとか、ITの活用とか、効率化の真似事はやっていますが、実態としては非正規社員への置き換えによる形ばかりの効率化になっている。社内にBPRやITの専門家がいないため、組織として本質に切り込む能力がない、ということです。

 ITだけではなく、マネジメント、マーケティング、広報、リスク管理など、あらゆる専門性を軽視する姿勢が、日本企業の特異なところ。そういった専門性を大事にせず他社に任せておきながら、社内で営業力が強い人間が勘で経営する体制では、効率性や生産性を追求することはかなり難しいのではないかと思います。

IT企業とそれ以外の企業に所属する情報処理・通信に携わる人材の割合(日本、米国、イギリス、ドイツ、フランスは2015年、カナダは2014年) (出典:IT人材白書 2017(第2部「IT人材の現状と動向」)
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西野:“作業”をする非正規雇用の人にどんどん置き換わった結果、付加価値を高めるとか、さっきから出ているビジョンに基づいて新しい価値を生むとか、そういう本来の仕事をやる人が社内からどんどん少なくなっている。当然、競争力ランキングも下がるという話。

高津:効率性って割り算の概念なんですよ。分子に「成果」があって、分母は「投資」や「投入量」ですよね。効率性を高めるためには2つの方法があって、1つは分母の投入量を減らす。もう1つは、分子の成果を高める。

 となると、非正規の人たちに作業を移していくというのは、これはあくまで分母を小さくしましょう、という話ですよね。一方で、専門性のある人がいい仕事をして価値を生むというのは、分子に効く話で、そこのところが効かなくなっちゃっているというのが西野さんのご指摘ですね。

●Next:世界を知らない日本企業の働き方、このままでよいはずがない

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