データ活用における課題の一つが、「基幹システム内に蓄積されたデータをどう活用するか」だ。3月10日に開催された「データマネジメント2022」に、SAPジャパンの椛田后一氏が登壇、「使わなければもったいない! ERPデータを2倍活用するためのデータ活用基盤」と題して、SAP ERPを活用したデータ活用基盤や、SAP社内のデータ活用の取り組みなどについて紹介した。
標準化されたシンプルなERPシステムが
企業システムのデジタルコアになる
データ活用において大きな課題となるのが、基幹システム内に蓄積されたデータをどう活用するかだ。基幹システムには「何が」「どこで」「いくらで」販売され、製造、調達される製品の在庫情報なども記録されており、基幹システムのデータがなければ、データを使った業務遂行や経営判断は難しいと言えるだろう。
SAPジャパンの椛田后一氏は、企業システムのあるべき姿として、「企業内で整合性の取れた業務プロセスとデータを実現することが重要」と指摘する一方で、多くのシステムはそうなっていないと語る。
「多くのシステムは、部門単位で最適な業務のやり方を行なう部分最適になっており、その結果、タイムラグや二重入力、データの不整合などが発生しやすくなっています。一方で、SAP ERPを利用すると、部門をまたいで整合性の取れた業務を行なう全体最適が可能になります。システムも部門をまたいで統合的にデータ管理でき、その整合性はSAPが保証します」と椛田氏はSAPの優位性についてアピールする。
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また、現在、多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みを進めているが、SAPの標準やベストプラクティスの採用は、DXを推進する土台にもなるという。
「SAPなら、コア業務プロセスを徹底的に標準化・シンプル化し、業務遂行や経営判断を最適化、迅速化できます。それがDXのための土台となります。いま、DXに向けて、ERPの見直しや業務の標準化、シンプル化の推進が求められています」(椛田氏)。
「サステナブル(持続可能)」な企業への変革を支援
SAPの最新バージョンである「SAP S/4HANA」は、会話的なユーザー体験や人工知能(AI)などの最新テクノロジーを採用したインテリジェントなプラットフォームだ。ERPシステムに組み込まれたアナリティクスの活用によってリアルタイムにデータを可視化し、アクションを早期化したり、Business Process Intelligence (BPI)を用いて、継続的に業務改善を実現できたりする特長がある。
また、近年の企業に求められる旬のキーワードの1つに「サステナブル(持続可能)」がある。CO2や気候関連排出の管理や、循環・再生型社会への対応、多様な人材の活用なども大きな経営課題だ。そこでSAPでは、インテリジェントで持続可能な企業への変革を目指す「インテリジェント サステナブル・エンタープライズ」を提唱しており、SAP S/4HANAを利用することで、変化への迅速な対応や社内外のプロセスとの簡単な連携、最新技術を利用したイノベーションの推進などを実現でき、持続可能な企業への変革につなげることができるという。
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SAP S/4HANAを連携させたデータ活用基盤の構築も可能
クラウド時代になり、基幹システムのSAP S/4HANAも様々なシステムと連携する必要性が出てきた。椛田氏によると、SAPが創業以来目指してきたアプローチは、業務プロセスには一貫性があり、データは整合性が取れている状態を実現することだ。アプリケーションなどが複数のシステムにまたがった状態でも、それを可能にするのが、『SAP Business Technology Platform』で提供される機能群だ。
「例えば、SAP CXを使った営業管理プロセスと、SAP S/4HANAを使った販売管理プロセスをエンドツーエンドで連携させ、二重登録やタイムラグなどなく、シームレスに連携することができます。また、クラウドネイティブなデータ活用プラットフォームサービス『SAP Data Warehouse Cloud』や、SAPアプリケーションに最適化されたデータウェアハウス『SAP BW/4HANA』、包括的なデータ管理ソリューション『SAP Data Intelligence Cloud』などをSAP S/4HANAと連携させ、複数システムにまたがったデータ活用基盤を構築することもできます」(椛田氏)。
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SAP社内ではアナリティクス専門組織を独立化
「ID&A」として全社の取り組みをリード
また、SAP社内のデータ活用に向けた取り組みとして、アナリティクス専門組織を独立化した事例も紹介された。
椛田氏によると、SAP社内でも従来は業務プロセスが部門ごとにバラバラだった時期があったが、現在はグローバルを通じて、ビジネスユニットごとに組織や役割が共通化され、業務プロセスは標準化されているという。各地域ごとの重複業務はシェアードサービス化され、責任体制も明確化されている。
それに加えて、「業務プロセスを標準化するだけでなく、データを活用するアナリティクスにも力を入れていることが特徴です」と椛田氏がアピールする通り、SAPでは、COO(最高執行責任者)配下に、業務、システム、データ、ヒトという4つの視点を横断的に連携できるアナリティクス専門組織を設立したという。
- 戦略に基づく変革進捗を全体管理する「Transformation Office」
- グローバルでのプロセス標準を実行推進する「Global Process Office」
- ITシステムの導入運用を担う「Intelligent Enterprise Solutions」の「IT/Systems」
- アナリティクスを推進する「Intelligent Enterprise Solutions」の「Intelligent Data & Analytics(ID&A)」
「かつては、ビジネスユニットごとにKPIが個別最適化された状態でした。そこで、各部門内のサイロ化を脱却すべく、ビジネス・技術の分かるメンバーをID&Aとして独立組織化し、KPIの設定やデータの分析の仕組み自体を共通化して、全社でKPIを整合性がとれるようにし、分析のレポートを行うようにしました。業務変革と業務プロセスとITが一体となったかたちでデータ活用を推進しています」(椛田氏)。
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SAPでは、同じデータを用いながらも、利用者の役職や職種ごとに異なる画面やKPIを利用できる仕組みが提供されている。経営層はタッチパネル型のダッシュボードを使ってすばやく経営情報を把握し、中間管理職はさらに落とし込まれた分析コンテンツ群を利用する。また現場の担当者レベルでは、実務を遂行するためのレポートや分析アプリケーションを用いて、データを利用することができる形だ。
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データ活用を業務プロセスに組み込み
企業文化の変革、社員の意識改革を醸成
椛田氏は最後に、データ活用プロジェクトの勘所として、成功事例や苦労した事例に見られるさまざまなキーワードやヒントを紹介した。
椛田氏によると、成功事例に特徴的に見られるのは、人的なアプローチや体制作りをしていることだ。ダッシュボードを使って経営層とのコミュニケーションを強化したり、現場の改革者を味方に付けるなど、対人関係構築から始めているケースは成功に至る確率が高い。そのほか、成功と実績の積み上げや見える化、通常のプロジェクトとの違いを認識すること、強いリーダーシップを持った責任者/リーダーが必ずいること、利用者目線を大事にしたインフラ要件定義を行なうことなどのポイントがあげられた。
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一方、取り組みに苦労している事例からは、これとは逆の状況が見て取れる。つまり、コミュニケーションの困難さがあり、文化を変えるのが難しい環境であること、検討/計画/構築期間が長いこと、ITの視点だけで解決しようとしてしまうこと、データ活用に否定的な部門や人の説得・協力に時間を掛け過ぎること、要件定義においてインフラ視点を大事にし過ぎることなどがそれにあたる。
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最後に椛田氏は「業務プロセスが清流化されると、データもキレイになります。データ活用をデータ可視化に留めず、業務プロセスに組み込むことで、企業文化の変革、社員の意識改革を醸成していってほしいと思います。SAP S/4HANAはDXのデジタルコアとして取り組みを支援し、SAP Data Warehouse Cloudが、ERPデータを有効活用するためのデータ活用基盤としてお役に立てたらと思います」と述べ、講演を締めくくった。
●お問い合わせ先
SAPジャパン株式会社
フリーダイヤル 0120-786-727
Web https://www.sap.com/japan/registration/contact.html
製品URL https://www.sap.com/japan/products/hana/cloud.html
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