“The日本企業”におけるDX推進のポイント
2023年6月8日(木)CIO賢人倶楽部
「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システム/IT部門の役割となすべき課題解決に向けて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見共有を促し支援するユーザーコミュニティである。IT Leadersはその趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加している。本連載では、同倶楽部で発信しているメンバーのリレーコラムを転載してお届けしている。今回は、田辺三菱製薬 チーフ・デジタル・オフィサー ファーマ戦略本部 デジタルトランスフォーメーション部長の金子昌司氏によるオピニオンである。
私はこれまで3社で社内のバリューチェーンおよび顧客向けサービスのデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んできた。未だ道半ばではあるが、ここでは典型的な日本企業に共通する企業文化の中でDXを推進する上での気づきをお伝えしたい。
生命体は通常の成長力に加えて突然変異(イノベーション)という能力を備え、大きな環境変化に適応しながら進化していく。それを持たなければ早かれ遅かれ、種が消滅するのが生命の摂理だからだ。企業も同じである。多くの日本企業が重視するのは品質や納期だが、変化が日常になった今日、それでは危うい。それらを大切にするカルチャーを磨きながら、継続的な変化を生み出すための新しい企業カルチャーを埋め込んでいくのがDXの主題である。
先が見えない中で経営が道を示し、変化を受け入れたり自ら引き起こしたりする胆力を持つこと、失敗を恐れずにアジャイルに変化対応できるようになることが必要だ。そのために、経営から現場まで風通しよくトップダウンとボトムアップがバランスしている意思決定の仕組み、組織や会社を超えた協創文化、それに常に顧客基点で考えるカルチャー作りが重要になる。そんなカルチャーを構築するにはどうすればよいか? 私の経験から、重要なポイントを以下に列挙する。
1.経営陣のコミットメント
経営陣が率先して企業の目指す方向性を明確にし、現場と共に戦略を策定する。全社一丸となって取り組むことができるよう、ビジョンや戦略を社外にも共有し、逃げ道を断ち全面的にコミットしている状態を作る。既存プロセスの積上げ改善だけでは競争力を失墜するという危機感を醸成する。
施策の実施においては、KPIを細かく設定しすぎないようにする。短期から中長期の視点までバランスよくカバーし、かつ適度にチャレンジングな目標とする。例えば財務指標にこだわりすぎないようにする一方で、デジタル化を後押しするPoCの実施数、DX人財数、デジタルによる顧客接点比率、顧客満足などの指標を重視する。
2.組織横断チーム
既存ピラミッド組織の異なる部門から、リーダーシップをとれるコア人材を選抜し、兼務として変革のためのネットワークチームを作る。よく見られる“出島”のような構造ではなく、2重構造にすることがポイントである。これにより縦割りの壁を超えて情報共有や協力を円滑にし、視線を自部署の目的達成から顧客に対しての価値提供に移行させる。
3.イノベーション促進
自社経験しかなく、視点が内向きになっているメンバーのマインドを変える。例えばスタートアップなど外部との協働やアライアンスを通し、アジャイルな働き方を実体験させる。オープンに自社の課題を共有し、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)などを活用して広くパートナーを集めたり、競合と連携したりする取り組みも必須となる。これらを通じて、サービスパイプラインを増強しつつ、ゼロイチの考え方や働き方を学ぶ。
4.データドリブンなサービス改善
DXの必要条件の1つは「データ×AI」で競争優位を作ってゆくこと。バリューチェーン効率化では、改善領域をざっくりとあたりをつけ、クラウドを活用したデータ基盤にとにかく一度データを集めて見えるようにしてみる取り組みが意外に奏功する。並行して、真に顧客基点のサービス提供を目指し、特定領域で圧倒的多数の顧客と接点を持ち、そこから得られたデータによりサービスを継続改善してゆく仕組み(ハーベストループ、注1)を構築することが新たな競争優位に結びつく。
注1:ハーベストループ(Harvest Loop)は、市場で勝ち続ける循環の仕組みのこと。ジェフ・ベゾス(Jeffrey Preston Bezos)氏がアマゾンを創業する前にペーパーナプキンに描いたループ図に由来する。
●Next:DXの火を絶やさない従業員教育の方法
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