世界には飢餓にさらされ、国連が支援している国や地域が少なくない。ところが日本に住んでいると、まず食料に困ることがない。どこのスーパーでも食材は豊富にあり、コンビニでもファストフードでもレストランでも食事に困ることはない。むしろ高カロリーの飽食が成人病を増やしてしまう現実もあるくらいだ。だから多くの国民は食糧危機について気にしたこともないだろう。政府も食糧危機対策を強く打ち出したこともないし、メディアで報じられることもほとんどない。
食糧自給率の低さに気づかないのか? 安心しているのか?
日本の食糧自給率とその裏側を知っている人がどのくらいいるのだろうか。とても心配でならない。農林水産省のサイトには、日本の食糧自給率の統計データが公開されている。2021年度のデータでカロリーベースの食糧自給率は38%である(図1)。牛肉で見ると55%は輸入牛、国産牛は45%でしかない。その多くは輸入飼料で育てられているため、カロリーベースの自給率はわずか12%にとどまる。
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穀物や野菜はどうだろうか? 米は消費量が減って米余り現象が起こったりするから、穀物などの自給率は十分高いだろうと思ったら大間違いである。国産牛の多くの部分が輸入飼料に頼っているのと同じように、穀物や野菜を栽培する際の種や肥料や農薬の多くを輸入に頼っているのだ。それらが供給されなくなった時の食糧自給率が本当の自給率だということは容易に理解できるだろう。
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図2は、農水省による、2021年度の穀物も含めたカロリーベースの食糧自給率を示した統計である。
畜産物については輸入飼料部分(黄色の部分)を自給率から除外しているが、他の穀物や野菜は輸入に依存している種や肥料、農薬を除外していない点に注意が必要だ。
そのため、この図からは見えないが、東京大学の鈴木宣弘研究室は、米や野菜や果樹などの自給率は10%に過ぎないと推定している。鶏の雛(ひな)のほとんども輸入である。卵は国産で充足しているように思われがちであるが、裏側にはこんな惨憺たるファクトがある。
俄かに危機を帯びてきた世界の情勢と実態
2022年頃からさまざまなものが値上げされ、消費者物価指数を押し上げた。まずエネルギーが高騰した。ガソリンばかりでなく、都市ガスや電気料金が上昇した。それは製造業にも影響を与え、食料品をはじめとして日用品の物価が上昇した。
最も大きな要因は、コロナ禍が収まっていない段階で起こった2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻だろう。穀倉地帯であるウクライナの侵攻で世界の物流が大きく変化し、食糧の争奪戦で高値に推移するのは当然の結果だ。日本ではコロナで農業に従事する技能実習生が入国できなくなり、大規模農家では人手不足に陥り、国産野菜も値上がりすることになった。世界的な異常気象もじわじわと食糧生産に影響を与えている。
一方、食糧の多くを輸入に依存する日本の事情として挙げられるのは、急激な円安だろう(図3)。時期を同じくして起こった為替の相対的な円安は、輸出企業やインバウンドで賑わう観光業には恩恵であっても、エネルギーや食糧輸入への影響は甚大だ。政府債務などの規模が大きく、容易に金利を上げられない日本では是正の余地も少ない。ただただ円安を容認するしかない。
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