筆者が昭和、平成、令和と時代を歩んできて感じることの1つが、一向に改善されないジェンダーギャップの現実である。かつて在籍した建設会社は昭和時代、女性は補助職でしかなく、正社員はおらず担当職という資格で採用されていた。平成になってからは徐々に改善されて女性の正社員採用が増え、女性の作業所所長も生まれた。しかし、令和に入ってもようやくトップが部長クラスであり、役員への女性登用などは及びもつかない状態である。2023年6月に発表されたジェンダーギャップ指数ランキングの散々たる結果を挙げながら、問題の根にあるものを考えてみる。
前年より9つもランクを下げてしまった
業界・業種によって女性の登用や活躍の度合いは異なるが、概観する上では世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表しているジェンダーギャップ指数のランキングが参考になる。2023年のランキングによると、日本は前年より9つもランクを下げて、何と125位である(表1)。2006年にこのランキングが始まって以来、過去最低の順位という。とても看過できるものではないだろう。
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アジアではフィリピンが16位、シンガポール49位、ラオス54位、中国107位などであり、ダントツに低い。ちなみに最下位はご推察のとおり、タリバンが支配するアフガニスタンで146位だ。
このジェンダーギャップ指標は経済、教育、健康、政治の4項目について上位の登用や活躍の度合いが採点される。特に日本でまずいとされたのが経済と政治である。経済の問題は会社での役員の比率、政治では議員の比率に、それぞれ顕著に顕れている。
この現実に鈍感になってはいけない。政治が悪いと他人事にしてはいけない。私事ではあるが、昭和時代に、女性をリーダーにした女性だけのプレゼンチームを構成したり、会社としては初めてとなる海外出張に女性を送り込んだりしたことがある。対外的にも注目が集まり、CS放送局が取材に来て放映され、メンバーの士気は大いに上がった。これが許されたのは、上司の理解や職場環境の影響が大きい。時代がどうであれ、自らやれることはたくさんある。要するに行動に移すかどうかの問題だろう。
改善の動向と根深い現実
ジェンダーギャップの解消は、SDGsの5番目の目標「ジェンダー平等を実現しよう」に掲げられているので、政府としても放置はできない。2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にするという「目標2030」を掲げたのは2003年の小泉政権だったが、結果は10%程度に留まった。そこで新たに2030年に期間延長し、3030を目標としている。これくらいはせめて実現したいものである。推進策として、女性が働きやすいように「育MENプロジェクト」など男性の協力を促すさまざまな対策は行っている。
ジェンダーギャップ問題と同根のトランスジェンダーなどLGBTQ+(注1)の問題もさまざまな話題や議論が持ち上がっている。昭和の時代にはLとGくらいは認識されてはいても、現在のような社会問題としての扱いはなかった、より複雑な人権侵害問題として取り上げられてきたのは最近のことだろう。ジェンダーギャップよりセンシティブな問題であるので、社会的な反響も大きい。
注1:LGBTQ+は、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クィア/クエスチョニング、それ以外の性的マイノリティの頭文字を取った総称。
戸籍上の性別が同じ二者間の社会生活における関係を「パートナーシップ」と呼んで、これを一定条件の下で証明する自治体が増えている。最初に制度を導入したのは渋谷区と世田谷区で2015年のことだが、2023年4月には278自治体にまで増えている(図1)。公正証書の発行によって、パートナーを受取人とする生命保険加入や住宅ローンを組めたり、携帯電話の家族割が適用されたり、さまざまなメリットがあるが相続にはまだ適用されていない。
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一方では2023年7月の最高裁判決が話題になった。経済産業省に勤務するトランスジェンダーの職員が、省内の女性トイレの使用を不当に制限されたとして国を提訴し、この扱いに問題ないとしていた人事院の判定を違法とする裁定が最高裁から下されたのである。
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