医薬品や衛生雑貨の企画・製造・販売を行う小林製薬(本社:大阪府大阪市)。同社は有名なブランドスローガンを冠した「あったらいいなDX」ビジョンの下、全社員レベルでデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいる。2023年8月に開催した説明会の内容から、同社 執行役員 CDOユニット ユニット長の石戸亮氏が率いる同社のデジタル経営/組織改革の中身を確認してみたい。
DXに本腰、社長直下の推進組織に
1886(明治19)年に創業した医薬品・衛星用品メーカーの小林製薬。「アンメルツ」「ブルーレット」「サワデー」「トイレその後に」「熱さまシート」「消臭元」など、同社のブランドスローガンである「あったらいいなをカタチにする」の発想がそのまま製品名になった数々の消費財で知られる、お馴染みの企業である(画面1)。
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老舗企業である同社の経営命題は、もちろん、デジタルトランスフォーメーション(DX)である。その取り組みを本格化すべく、2023年1月にはCDO(Chief Digital Officer)として石戸亮氏(写真1)を迎え入れた。2021年から社外デジタル戦略アドバイザーとして同社のDXに携わり、デジタルを高度に活用した製品開発や、DX推進のための経営戦略立案を行ってきた人物だ。
石戸氏は着任後、組織体制を見直し、社長直下のDX推進組織として「CDOユニット」を新設。現在はユニット全体で70人の体制でさまざまな取り組みを進めているという(図1)。
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小林製薬は市場や顧客の購買行動の変化から生じる新たなニーズをいち早く捉え、「あったらいいなをカタチに」してきた。最近では、ヘルスケアデバイスのウェアラブル化や仮想空間技術の進化など近年のデジタルを駆使したトレンドにも注目している。石戸氏は、「デジタルの分野で今起こっている変化を機会と捉え、DXの加速を図っていく」と明言。同社の社風や特徴を生かした変革に取り組むとした。
その考えは、同社の社風を端的に表したスローガンであり全社員参加/提案型でDXに取り組む「あったらいいなDX」のビジョンに落とし込まれた。具体的には、顧客体験の工場と従業員体験の向上を軸に、「あったらいいな開発のDX」「全社員でDX」「生産性向上」の3つの戦略を定めている(図2)。「最終的には、DXという言葉を使わないぐらい当たり前な取り組みとなるような環境の構築を目指していく」(石戸氏)。
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データ/AI活用で製品開発を強化
「あったらいいな開発DX」では、データ/AI活用とデジタルサービスの開発にフォーカスする。データ/AI活用に関して、同社はこれまで新製品開発時のアイデア情報源としてマーケターや商品担当自身の経験に頼っていたという。「もちろんリサーチも行っていたが、新規性の高い困りごとを見過ごしてしまう課題があった。今後は社内の提案や社外のさまざまな情報をAIによる分析対象にして、(人力では得られないような)有望なアイデア・手法やそのブラッシュアップにつなげていきたい」(石戸氏)とした(図3)。
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注目の生成AIにも着手し、2023年8月から国内の全従業員がChatGPTを業務に活用している。例えばアイデア出しにおいて、アイデアの数や多様さをAIによって向上させ、メンバーはアイデアの選別やブラッシュアップといったクリエイティブな作業に注力するという取り組みである。
一方のデジタルサービスの開発では、Webサービス・アプリ、検査診断サービスなど消費者向けサービスの新規開発でAI/データ活用を加速させている。取り組みに伴い、2023年度からヘルスケア事業部内にヘルステック開発グループという企画グループが発足し、CDOユニットでもデジタルサービスのディレクションや開発を行う新規サービス開発グループを2024年1月に新設予定である。「AIやデータを活用したサービス開発のノウハウがまだ十分ではなく、この分野に明るい人材の採用や社内での育成を進め、組織力の強化を図っていく」(石戸氏)
●Next:DX推進のための”4つのE”、企業風土改革に向けた計画
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