デジタル変革の時代だからこそ欠かせない「野性」─書籍『野性の経営』から学ぶ
2023年11月10日(金)CIO賢人倶楽部
「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システム/IT部門の役割となすべき課題解決に向けて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見共有を促し支援するユーザーコミュニティである。IT Leadersはその趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加している。本連載では、同倶楽部で発信しているメンバーのリレーコラムを転載してお届けしている。今回は、シャイン 戦略担当顧問 小河原 茂氏によるオピニオンである。
失われた40年、50年とならないために
1989年の1位から30年余りを経て、2023年は過去最低の35位に──。スイスIMDが毎年発表している世界競争力ランキングにおける日本の順位です(図1)。コストカットや内部留保、リスク回避の徹底、海外投資などに明け暮れ、痛みを伴う構造改革と新規事業投資や人的投資、国内のものづくりへの投資をしてこなかったのが、長期低落の大きな原因であると言われています。
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デジタル変革の時代において失われた40年、50年とならないために、どうすべきでしょうか? そのヒントとして、書籍『野性の経営 極限のリーダーシップが未来を変える』(野中郁次郎、川田英樹、川田弓子著、KADOKAWA刊、写真1)を紹介します。同書では、変革の時代に求められているリーダーシップのあり方を理論編と実践編の2部構成で解説しています。
理論編では、暗黙知を共感・共有することで形式知化し、実践し続ける「SECIモデル」の意義を分かりやすく解説。そのうえで「企業の3大成人病(オーバープランニング、オーバーアナリシス、オーバーコンプライアンス)」に警鐘を鳴らし、人間が本来持っている「野性」を取り戻すことが大切であると説きます。
実践編は、タイ王国のドゥイトンというアヘンの密売、人身売買、武器取引が行われていた“黄金の三角地帯”を、茶やコーヒーの産地に変革させた実話です。クンチャイという人物が極限のリーダーシップを発揮し、数十年の年月をかけて生まれ変わらせたといいます。クンチャイと村落の人々の野性の力が生き生きと描かれており、一読をお勧めします。
ところで、デジタルトランスフォーメーション(DX)が言葉として氾濫しています。ITやデジタルツールを使ってビジネスや業務に応用すれば、それはDXであるという意見があります。さまざまなクラウドサービスの導入や現場業務のロボット化、事務のRPA化などもDXというわけです。しかし、それらは必要な改善であってもDXの本質とは異なると筆者は考えています。
デジタル技術はあくまで道具であり、普通に使うだけでは道具なりの機能を発揮するだけです。変革の時代においては、それでは不十分です。直面しているビジネスチャンスや事業の課題に対し、過去の成功体験を超えて新たな挑戦をいかに迅速に決断するかという「生き抜く知恵」が求められます。その知恵を具現化するためにデジタル技術を活用することがカギであると思います。
『野性の経営』では、そのために必要な6つの要件・行動指針を提唱しています。①善い目的をつくる、②.現場で本質を直観する、③場をタイムリーにつくる、④本質を物語る、⑤物語りの実現に向けて政治力を行使する、⑥実践知を育む・組織化する、です。
過去の成功体験や数値分析、行き過ぎた科学主義や分析主義では解決困難な問題が少なくありません。VUCAと呼ばれる先が読めない時代であればこそ、人間が本来持っている「野性」を発揮して生き抜く経営力や発想力、そして実行力が求められています。そうした行動・思考様式に自らを変革することが、DXのX=Transformationであると筆者は考えます。
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