生成AIがERPを進化させる──クラウドERPの先駆けである「NetSuite」が今目指す方向についてトップが語ったことは先日の記事でお伝えした。登場から四半世紀が過ぎ、クラウドERPの一大市場が形成されてからが、「知る人ぞ知る尖ったERP」といった印象もあるNetSuiteだが、オラクルはこの先のカスタマーベースの拡大戦略を描いている。日本オラクルの幹部によると、カギを握るのはパートナーエコシステムだという。
大手ディストリビューターのSB C&Sがパートナーに
2023年10月16日から19日の4日間、米ラスベガスで開催されたSuiteWorld 2023。会場では、日本オラクルでNetSuite事業統括Vice President・日本代表カントリーマネージャーを務める渋谷由貴氏(写真1)が日本のメディアの取材に応じ、日本市場におけるNetSuiteの事業戦略を説明した(関連記事:「“クラウド”と“スイート”の価値は不変」─25周年のNetSuiteが目指す次なるイノベーション)。
同年7月に現職に就いた渋谷氏は、「ネットスイートの強みは日本でまさにこれから発揮されるタイミングだと思っている」と強調。まず前提として「ERPは導入のコストや難易度、複雑性から大企業向けのソリューションと考えられることも多いが、リソースプランニングが必要なのはエンタープライズだけでなく、日本の企業の99.7%を占める中小企業が経済状況などの変化に適切に対応し、戦っていくために必要なソリューション」と指摘する。
IT専門調査会社のアイ・ティ・アール(ITR)は今年3月、国内ERP市場規模の推移と予測をまとめたレポートを発表し、国内市場の2021年度(2022年3月期)売上金額が1467億円で前年度比16.3%増となったことや、2021年度から26年度のCAGR(年平均成長率)は10.5%と予測していることなどを明らかにしている。さらにITRはERPの提供形態別の導入状況や今後の推移予測も公表しており、すでにSaaS形態での新規導入が最も多く、今後、SaaS形態のERP導入が大きく拡大していくとの見方を示している。
渋谷氏はこれらの調査結果に触れ、「ERPへの投資の増加傾向は当面続き、特にクラウド、SaaSへのニーズは大きい」として、クラウドネイティブであることをアイデンティティとしてきたNetSuite事業にとっては強い追い風が吹いているとの認識を示した。
一方で、NetSuiteが日本市場に進出したのは2005年で、20年が経とうとしているが、中堅・中小企業が基幹システムの導入・刷新を検討する際に選択肢として必ず名前が挙がるほど認知度が高まったとは言えない状況だ。過去、米オラクルのNetSuite事業幹部が、日本市場での競合ベンダーとしてオービックの名前を挙げたことがあったが、中堅・中小企業向けのERPや基幹系パッケージソフトでは国産ベンダーの存在感も大きい。
渋谷氏も「現状では競合と比べて認知度などの面で大きな課題があることは理解している」と話す。日本市場における認知度向上やカスタマーサクセス施策の充実を図るために重視しているのが、パートナーエコシステムの強化だ。直近では、大手ディストリビューターのSB C&Sが新たにパートナーに加わった。
SB C&Sは全国に1万2000社規模の販売パートナー網を持つ。近年はSaaSビジネスの拡大に注力しており、SaaSビジネス専任チームも立ち上げている。NetSuiteの国内ビジネスにおいては、SB C&Sの販売パートナーが顧客にNetSuiteを提案し、契約が成立した場合は契約内容に応じた報酬が支払われるというパートナープログラムが本格的にスタートしている。
「SB C&Sの商流で、積極的にNetSuiteのビジネスを手がけようとしてくれている販売パートナーがすでに明確になってきている。市場の認知度向上という観点でも、全国に販路を持つ大手ディストリビューターと協業できた意義は大きい」(渋谷氏)
なお、日本オラクルが11月13日に開いたOracle NetSuite事業に関する記者説明会には、SB C&S ICT事業本部クラウド・ソフトウェア推進本部長の菅野信義氏が登壇。両社の今回の協業では、SB C&Sの商流に連なるパートナーに対するインセンティブが高く設定され、セールスツールや勉強会などパートナー支援のメニューも充実していることを説明。「全国のパートナーとともにNetSuiteを積極的に拡販していく」とコメントした。
SuiteSuccessで導入時の壁を乗り越える
ただし、渋谷氏自身が言及したように、特に中小企業がERPを採用する場合はコストの負荷や導入プロセスの複雑さをいかに乗り越えるかも大きな課題になる。渋谷氏はこうした課題を打破するNetSuiteの切り札が「SuiteSuccess」だと強調する。SuiteSuccessは細業種ごとのベストプラクティスをパッケージ化して必要な設定などをプリセットして提供するERPソリューション。導入コストや稼働までの期間を短縮し、ユーザーがERP導入のメリットを得やすいという。
渋谷氏は「(NetSuiteを)カスタマイズして使うのもいいが、できるだけ基本のかたちにお客様のビジネスを合わせていただくことで、より迅速にリターンを得ていただける。そうしたメリットも、パートナーと協力して啓発していきたい」と展望を話す。
日本市場では現在、「製造業、卸売業、ハイテク業界、サービス業などでSuiteSuccessの利用が多い」(渋谷氏)状況で、まずはこれらの業界を中心に改めてニーズを掘り起こし、顧客基盤の拡大に取り組む考えだ。
取材には米オラクルのNetSuite製品担当バイスプレジデントであるジェームズ・チシャム(James Chisham)氏(写真2)も同席し、日本市場向けの機能開発などについて説明した。チシャム氏は「NetSuiteにとって日本は常に重要な市場であり、固有の法制度や商慣習に対応した機能をいち早く提供してきた」と強調。
また、2024年度以降に追加する新機能として、銀行口座明細連携機能「BankFeeds」日本の金融機関向けモジュール、PEPPOLベースのデジタルインボイスを送受信する機能の日本版テンプレート「E-Invoicing based on PEPPOL」、日本進出当初から提供されていた手形管理機能を他国の要件も取り入れて汎用機能化した「Enhancing Tegata」を紹介した。