[オピニオン from CIO賢人倶楽部]

DXを阻む2つの要因とビジネスアナリシスの役割

TERRANET 代表 寺嶋一郎氏

2024年2月7日(水)CIO賢人倶楽部

「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システム/IT部門の役割となすべき課題解決に向けて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見共有を促し支援するユーザーコミュニティである。IT Leadersはその趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加している。本連載では、同倶楽部で発信しているメンバーのリレーコラムを転載してお届けしている。今回は、TERRANET 代表の寺嶋一郎氏によるオピニオンである。

 皆様、本年もよろしくお願いします。

 さて2024年はどんな年になるのか、例えば日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)はよい方向に前進するだろうか。生成AIをはじめとするデジタルの戦いの第2陣で、日本は世界に勝てるチャンスをつかめるのだろうか。

 2016年からデジタルビジネスの普及・啓蒙に取り組むデジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)という団体がある。昨年末、その共同代表を務める西野弘氏と話をしたとき、同氏は「DXがうまくいっている企業はまだまだ少ない」と言っていた。

 社長をはじめとする経営トップが、正しい意味で大きな危機感を持っていなければDX推進は難しい。ところが実際には経営トップが「当社のAIやIoT活用はどうなっているのか。大丈夫か?」などと言うから、しぶしぶベンダーに丸投げするなど、無理やりデジタル技術を導入しようとしている企業が多いのだという。DXをデジタル技術を活用することだと考える、最悪のパターンに陥っているのである。

 言うまでもなくDXのXはTransform、すなわち変えていくということ。何を変えるのかと言えば、ビジネスのやり方である。これまでのビジネスモデルやビジネスプロセスをデジタルを前提としているものに変えたり、新たなものに作り変えていくことだ。

 もちろん、そう簡単にはいかない。人や組織はなるべく今のままで変わりたくないわけで、そうした抵抗を打ち破る大きなエネルギーが必要だからだ。

 そのためにも一番大事なのは、Why(何のために)、Where(何を目指して)、What(何をやるか)という3つを明確にすることである。How(どうやるのか)やそのために使うテクノロジーは、その後に来るのだ。だからこそWhy、Where、Whatを導くためのパーパスが必要なのだ。DXが進まない企業は、パーパス(Purpose)づくりと、それを社員に腹落ちさせることを、まずやるべきではなかろうか。

DXのXはTransform、すなわち変えていくということ。これまでのビジネスモデルやビジネスプロセスをデジタルを前提としているものに変えたり、新たなものに作り変えていくことだ(写真:Getty Images)

 パーパスとはその企業の存在意義でもあり、その企業のありたい姿である。その企業がどういうビジネスをして社会に貢献し、社員もワクワクするか、そうした到達したい姿をビビッドに描くことがDXの出発点である。そのパーパスこそが社員を鼓舞し、そこに到達するエネルギーを作るのだ。

 多くの日本企業では、DXで何をやればよいのかが明確に描けていないのだ。DXでやるべきことを見つけるためには、企業の志を明確にして、それを具体化したありたい姿を描かなければならない。

 そして、ありたい姿をどうやれば実現できるのだろうかと考え続ける中に、デジタルを使えばこうやればできるのではないか、と閃く瞬間が来る。閃いたらすぐにやってみる。うまくいかなければ、やり直しながら、うまくいくまで続けていく。そうすることでDXは前に進んでいく。

 もともと多くの日本企業には、「世のため、人のためにこうしたい!」という志があったはずなのだ。DXにおいても、企業の志、すなわち企業のパーパスこそがDXの推進の原動力なのだと思う。DXとはパーパスをデジタルを活用して具体化しようとすることでもあり、パーパスがないとDXは進まないのだ。

 そのパーパスに向かって、どうやればそんな姿が達成できるのだろうかと社員がそれぞれの立場でいろいろと考え抜く中で、やるべきこと、そしてやりたいことが出てくるのだと思う。

●Next:DX推進のもう1つの阻害要因とは

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