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[海外動向]

グローバルCIOの関心事はやはり生成AI、活用の課題を議論─WSJ CIO Network参加報告

班目哲司氏(前 日本郵船 プリンシパルフェロー DXイノベーション)

2024年4月8日(月)班目 哲司

有力経済メディアの米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、CEOやCFO、CMOといった経営幹部の職制ごとのメンバーシップ組織を運営しています。その1つにCIOのための組織「WSJ CIO Network」があります。北米を中心に各国から100人強のCIOが参加する学びの場であり、コミュニティです。ここでは、2024年2月に開催されたその総会の模様を報告します。

 米ウォール・ストリート・ジャーナル(Wall Street Journal:WSJ)が運営するメンバーシップ組織「WSJ CIO Network」は、2024年4月時点で108人のCIO(CDO、CTOなども含む)がメンバーとなっています(公式サイト画面1)。

 メンバーの所属企業名をいくつか挙げると、シスコシステムズ、マイクロソフト、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)、カナダのマグナインターナショナル(Magna International)など。WSJの運営と言うことで北米企業が中心ですが、南米や欧州、アジア太平洋の企業も参加しています。メンバー企業の社員数を合計すると560万人、売上高の総計は1兆5000億米ドルとのことですので、グローバル大手企業が中心です。

画面1:北米を中心とするCIOメンバーシップ組織「WSJ CIO Network」のWebサイト
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 ただし、海外企業のCIOは会社を移ることも多いですから、会社を代表してというより、実際にはCIO個人のネットワークという意味合いが強いです。WSJ CIO Networkは年2回の総会、年数回の夕食・勉強会と、ほぼ隔月のオンラインセッションが主な活動であり、米国での企業ITやデジタルの最新トレンドをそれぞれの専門家や実践者から直接、聞ける機会になっています。

 私は2018年2月から日本郵船を退職する2024年3月までの6年間、WSJ CIO Networkの活動に日本からの唯一のメンバーとして参加しました。ITやデジタルの最新事情を探るのが主目的ですが、海外企業のCIOの関心事や考え方を知ることも大きな目的です。国内のCIOの皆様にも参加をお薦めします。

 初めて参加した2018年当時は、中国系テクノロジー企業がセッションのスポンサーであり、中国系企業のCIOも相当数参加していました。2024年になるとそれらは完全に姿を消した一方、インド系企業のCIOが2割超を占めるまでに増えています。また女性のCIOも着実に増えています。ここでは2月にシリコンバレーで開催された総会の様子をレポートします。

重点トピックの筆頭は生成AI、活用の課題を議論

 総会は2日間の会期で、米国企業ITの重点テーマを反映した15のセッションがありました(表1)。

テーマ 分野 主な講演者
1. Anthropic’s Vision for the Future of AI AI Jared Kaplan Co-Founder and Chief Science Officer Anthropic
2. Google’s Accelerated AI Push AI Eli Collins VP, Product Management Google DeepMind
3. Modern Workforce, Modern Security Strategy Security Marco Genovese Head of BeyondCorp Enterprise Architecture Google
4. The Generative AI Blueprint for Enterprise AI Tom Soderstrom Director, Enterprise Strategy AWS
5. After the Hype: How CIOs Are Implementing Generative AI AI Sesh Iyer Managing Director and Senior Partner, Co-Chair BCG X
6. The View from Silicon Valley: AI Trust, Speed and Talent AI Hemant Taneja Managing Partner and CEO General Catalyst
7. Driving Innovation at a 100-Year-Old Insurance Company DX Wayne Baker Chief Investment Officer TIAA Ventures
8. Putting Generative AI To Work AI Fiona Tan CTO Wayfair
9. Embracing Technology’s Evolution to Revolutionize Your Business DX Mike Bechtel Chief Futurist Deloitte Consulting LLP
10. Bridging Research and Reality: How Digital Transformations Drive Strategic Growth DX Kirk Bresniker Chief Architect Hewlett Packard Labs
11. Blue Shield of California’s Transformation Journey DX Lisa Davis CIO Blue Shield of California
12. Cutting Costs While Driving Value Cost Melanie Kalmar Corporate Vice President, CIO and Chief Digital Officer Dow
13. How High Interest Rates Could Affect Enterprise Technology Startups Startups Pegah Ebrahimi Co-Founder and Managing Partner FPV Ventures
14. The AI Talent Problem AI Andrew Ng Managing General Partner AI Fund
15. Driving Innovation in Cybersecurity Security Emily Heath General Partner Cyberstarts

表1:WSJ CIO Network 2024のテーマ

 15セッションのうち7つがAI、4つがDXイノベーション、2つがセキュリティ、1つがクラウドのコスト管理とスタートアップの現況についてでした。AIとは今なら当然、生成AIが話題の中心となり、ポイントは次のとおりです。

①生成AIをめぐる競争の激化

 2023年3月・10月開催のミーティングでも生成AIが大きなテーマでした。今回もこの点は同じですが、2023年がOpenAIの「ChatGPT」(およびLLMの「GPT-4」)とマイクロソフトの「Azure OpenAI Service」という両社連合の独壇場だったのが、今回は、生成AIのフロントを「Bard」から「Gemini」に刷新したグーグル、自前のクラウドネイティブ技術との連携が特徴の「Amazon Bedrock」のAWSなどが加わりました。

 大手テクノロジー企業の間で生成AIをめぐる競争が激化していることが分かります。先行者が必ず市場をリードするとはかぎりません。例えば1990年代後半のWebブラウザ市場で揺るぎなかった「Netscape Navigator」が、その後「Internet Explorer」や「Google Chrome」とのシェア争いに敗れた歴史を考えると、生成AIの進歩はこれから始まると期待しています。

②生成AIはハイパースケールへ

 ChatGPTや、Microsoft 365などで使える「Microsoft Copilot」などがエンジンとなって企業において生成AIは急速に普及しています。もう1つの普及のエンジンが、既存のアプリケーションやサービス(SaaS)への生成AIの組み込みです。今回は、“AI Everywhere”というキーワードが語られ、「生成AIは2024年にスケールし、2025年にはハイパースケールする」という声が上がっていました。

 「ロボットとAIが結びつく」というセッションもありました。自動運転だけでなく、物流管理や医療介護などの分野です。私は今回、サンフランシスコ市内を走るウェイモ(Waymo)の自動運転タクシーに乗りましたが。人間の運転と変わらない安定感が印象的でした。それは、ともかく生成AIの業務活用には、体験(Experiment)、リスク制御/ガバナンス(Risk Control/Governance)、教育(Education)の3つが必要だと強調されていました。

③生成AIを活用する企業の評価

 今回の総会の参加者メンバーのうち、既存の予測AIを使っている企業は過半で、すでに生成AIを使っている企業は約3割でした。後者の企業は、文章の要約・生成・翻訳、プログラミング、Webデザイン、チャットによる顧客サービスという用途で大いに有効だと評価していました。また、人事部門や調達部門が一般知識に加えて、特定知識も併せたナレッジ検索機能を使って成果を上げています。

 一方、ハルシネーション(注1)や数字データの扱いが不得手といった、生成AIでよく挙がる問題はそれほど指摘されなかった印象です。テクノロジーが発達して解決されるからでしょう。そうした中、議論になったのが生成AIサービスの利用料金が高いことです。明確な回答や示唆があったわけではありませんが、生成AIを提供する企業による価格競争を期待する声もありました。

注1:ハルシネーション(Hallucination:幻覚、幻影)は、AIが事実に基づかない情報を生成する現象のこと。生成AIでは、大規模言語モデル(LLM)の特性上、事実とは異なるもっともらしい偽の情報を出力することがしばしば見られる。

④生成AIの雇用への影響とリスキリング

 WSJ CIO Networkらしいと思わされる議論もありました。雇用への影響です。生成AIが取って代わる人間の業務は多く存在しますから重要です。とはいえ、人間は学習する能力を持っており、生成AIを使いこなせるように働き手をリスキリングすることで、失業を回避するだけでなく、社会全体の生産性が上がると強調されていました。

⑤改めて、データの重要性

 もう1つ、データの重要性もポイントでした。「Garbage In, Garbage Out(ゴミのようなデータを投入しても、役に立たない結果しか得られない)」の原則から、AIは信頼できるデータがないと間違った結論を出します。特に、業界や企業固有の特定知識も合わせたナレッジ検索機能を活用する場合には、社内データの信頼性を高める仕組みを整備することが重要だと指摘されていました。

●Next:グローバルCIOの問題意識は?

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CIO / 生成AI / IT投資 / 経営戦略 / 日本郵船 / 大規模言語モデル / ChatGPT / Gemini

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