「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システム/IT部門の役割となすべき課題解決に向けて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見共有を促し支援するユーザーコミュニティである。IT Leadersはその趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加している。本連載では、同倶楽部で発信しているメンバーのリレーコラムを転載してお届けしている。今回は、ニチハ システム統括部 部長の鈴木康宏氏によるオピニオンである。
「QCサークル活動」が組織にもたらしていたもの
ここ数年、大手製造業における認証試験や完成検査などにおける不正事案が後を絶たない。技術士の知人と話をする中で、そうした製造業の劣化は「QCサークル活動」(小集団による品質改善活動。以下、QC活動)が衰退したことと関係しているのではないか」という話になった。
確かに、筆者が銀行に入行した1980年代後半、日本では多くの企業で盛んにQC活動を行っていた。銀行にも品質管理部という部署があり、各支店のQCサークルチームがそれぞれの地域で半期に1度発表会をしたり、優秀チームは全国QC活動発表会で発表したりしていた。
「QC活動の7つ道具」があって、フィッシュボーンと呼ばれる特性要因図、ヒストグラム、パレート図、散布図などを駆使して状況を把握する資料を作成していた。PowerPointがない時代だったので、統計資料を透明なプラスチックフィルムにコピーしてOHP(オーバーヘッドプロジェクタ)用の投影フィルムを作る。マーカーで色をつけたり、フィルムをセロテープでつなぎ合わせて画面変換ができるようにしたりと、発表準備には膨大な時間をかけていた。
大変だった一方、チームでワイワイ言いながらQC活動を進めていくのはとても楽しかった思い出がある。QC活動は仕事時間に組み入れられていたし、遅くまで残っていた場合は残業代として計上された。「最近入社してきた新人たちは、このQC7つ道具を知らないのだけど、それってどうなんだろうね?」という話になった。
今思えば、QC活動には現場の改善が進むことだけでなく、活動をしていく中で、仕事とは別のコミュニケーションが生まれるという大きな利点があった。野中郁次郎氏のSECIモデルでは、「暗黙知」の表出化はタバコ部屋などのインフォーマルな場所で生まれていたとしていたが、まさにQC活動はそのような場だった。当時はほかにも、社員旅行や大規模な社員運動会、近隣支店との合同花見会、ボーリング大会など数かぎりないレクリエーション活動が盛んで、部署を超えたコミュニケーションが活発だった。
ところがバブルが崩壊し、経済成長が停滞した頃から、企業活動は利益重視(コスト削減)に偏っていく。まずQC活動が衰退し、レクリエーション活動もなくなり、どんどんコミュニケーションの機会が減少した。日本企業が大切にしていた家族主義的な経営、OJTを通じた人材育成、失敗を許容する風土といったものが、米国発のMBA的な効率的経営に置き変わってしまい、“行き過ぎた成果主義”が蔓延してしまう。この主義は、冒頭の検査不正や品質不正の直接的原因でもある。
●Next:“フュージョンチーム”は元来、日本企業が得意なはず
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