パワハラ、セクハラ、カスハラ、モラハラ、マタハラ、ケアハラ……。メディアやSNSで、「ハラスメント」に関する情報が横溢している。学校や職場にとどまらず、小売店や交通機関、役所などでもハラスメントの話が飛び交っている。日本はどれほどハラスメントに毒されているのだろうか?
根が深いハラスメント問題
ハラスメント(Harassment:迷惑行為、嫌がらせ)の種類は実にさまざまだ。パワハラ(パワーハラスメント)、セクハラ(セクシャルハラスメント)は以前からよく知られている。ほかには、カスハラ(カスタマーハラスメント)、モラハラ(モラルハラスメント)、マタハラ(マタニティハラスメント)がかなり認知され、最近では介護休暇にまつわるケアハラ(ケアハラスメント)も登場している。
パワハラもセクハラも大なり小なり昔からあったが、今ほど表立って語られることはなかった。最近ではある地方自治体の首長によるパワハラ疑惑が毎日のように報道され、議会が百条委員会を設置して真相究明を進めている。マタハラは女性の社会進出に伴って、出産や育児休暇後に復職するケースも多くなったことによって生まれたのだろう。以前は結婚や出産をきっかけに退職する女性がほとんどだった。
そもそもハラスメントとは言葉や行動などで行う嫌がらせや、いじめの行為である。発信者にその意識はなくても、受け手に精神的・身体的なダメージを与えることになる。その程度もさまざまで、民法上の犯罪になるものから、ハラスメントとは言えないものまである。厄介なのは、相手の受け止め方によってハラスメントになったり、ならなかったりケースがあり、明確な線引きが難しいところにある。
例えば女性を”ちゃん付け”で呼んだ場合、ある男性は許容され、ある男性はハラスメントだと言われる。この曖昧さが過剰な反応を生み出す。「言わぬが花」や「触らぬ神に祟りなし」の諺のように、異常なほどの警戒心、または事なかれ主義的な風潮が生じる。職場の空気は冷えて和みが失われ、軽い冗談もしゃれも言えない。そのような環境ではイノベーションもDXも期待できるものではないだろう。
ハラスメントをする側には「自分は正しい」、「間違っているのはそっちだ」といった自分勝手な正義感があるだけに、根が深い。SNSでの誹謗中傷や不用意な発言に基づくバッシングも同根の現象だろう。
違法性に見る日米での違い
倫理観やモラルは万国共通の概念と思われるが、文化の違いも大いに反映されることも認識しておきたい。米国に移住した友人から寄せられた情報に興味深いものがあった。仕事の面談で、下記のどれが違法な質問かという問いかけがあったそうだ。
- When do you plan to retire? (いつまで働くつもり?)
- What is your religion? (信仰する宗教は?)
- Are you comfortable working for a male/female boss? (男女どっちの上司がよい?)
- What political party do you support? (支持する政党は?)
- Have you had any recent health issues? (健康的に不安は?)
- Are you Hispanic? (ヒスパニック?)
- Do you go to church? (教会に行く?)
- How much do you weigh? (体重は?)
- How old are you? (何歳?)
- What country are you from? (どこの国から来たの?)
- Are you pregnant? (妊娠している?)
- How many children do you have? (子供は何人いる?)
- Are you married? (結婚している?)
米国では差別禁止法によって、性別はもとより生年月日、既婚/未婚、家族情報を尋ねることも、顔写真を要求することも禁じられている。実は上記の質問はすべて違法になるという。
日本はどうだろうか? 性別や生年月日を問われる場面は多いが、トランスジェンダー問題などが社会問題として取り上げられるようになると、履歴書で性別を問うことが忌避され、男女性別選択欄のあったJIS規格の履歴書サンプルは2020年7月に削除された。厚生労働省が2021年4月に新たに示した履歴書の様式では性別は任意記載である(図1)。
しかしながら、生年月日や顔写真の貼付は求めている。このような日米の法的な解釈の違いは、倫理観というよりは文化や社会環境の違いによるものと思われるが、その違いはハラスメントの解釈にも影響するので、よく理解しておいた方がいい。
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