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[本当にアジャイルになるための処方箋]

処方箋その1「ビジネスにアジャイルを」─アジャイルを体験できるゲームやアクティビティ:第4回

アジャイルボールゲーム/エンベロープゲーム/LEGO Serious Play

2024年11月6日(水)保坂 隆太(Gran Manibus CTO兼マネージングディレクター)

「アジャイル(Agile)」の必要性と必然性は、テクノロジー関連の仕事に携わる人々の間で認知されているが、その実践・活用となると十分に進んでいるとは言いがたい。アジャイルはこれからの社会を築く中核であり、進化するテクノロジーを活用する唯一の方法であり、その定着は極めて重要である。本連載では、北米と日本の経験を基に、日本でアジャイルを定着させる方法と、真のアジャイルになるために必要なことを5回にわたって解説する。第4回では、「処方箋その1」として、アジャイルになるための具体的なアプローチやアクションの1つとして、アジャイルを体験するためのゲームやアクティビティを紹介する。

 この連載を始めて、ありがたいことに、日々お会いする方々から「読みました!」と声をかけていただいております。これまでの回では筆者が実際に経験したことを中心に、なぜ、日本ではなかなかアジャイルが浸透しないのか、何が阻害しているのかをまとめてきました。読んでくださった方々から、「いやー、実際そうなんですよね」「まさしくここに直面しているのだけど、何か方法はないものですかね」といった課題を共有していただくことがあり、そうしたフィードバックも踏まえて、残りの連載の内容を考え直しました。

 今回からは「処方箋──アジャイルになるための具体的なアプローチやアクションをいくつか紹介していきながら、皆さんと一緒に日本のビジネスとテクノロジーのアジャイル化をディスカッションできればと思っています。

少しずつだけど、国内でもアジャイルは受け入れられている

 これまでの3回では、「なぜ、アジャイルが受け入れられないのか」を中心に議論を展開してきました。ですので、やっぱりアジャイルはまだ受け入れられていないのかという印象を持つ方が少なくないかもしれません。ただし、米国と比べれば体感として遅いことは間違いないのですが、ここ最近、いくつかのお客様との会話を通して、この5年でゆっくりではあるものの、確実に変わってきているとも感じています。

 先日、とある大手製造業のIT部門の方とお話をする機会がありました。大規模なITインフラ系プロジェクトをアジャイルで進めたいそうです。その方はこう仰いました。

 「インフラ系のプロジェクトは概して長期間になりがち。重要なプロジェクトなのに組織の中でなかなか陽の目があたらず、プロジェクトメンバーたちの生きがいや達成感などをなかなか作りにくい。なので、アジャイルのアプローチを導入して、携わるメンバーがパッションを持てるビジョンとプランを作ります」

 「大規模プロジェクトだからウォーターフォール」という先入観にとらわれず、携わる人々の生きがい・やりがいを考えてプロジェクトの進め方を考えていく──。5年前なら間違いなく聞けなかったようなことが実際に起こり始めているのがとても嬉しくなりました。

 そして、チャレンジはここからです。プロジェクトを進める中で経営を、組織をどう変えていくか。経営者や役員なども含むビジネスリーダーが、本当にアジャイルになるための具体的な処方箋をいくつか紹介していきます。

社員にも経営者にもアジャイルを経験する機会を

 連載の2回目で、「アジャイルはボトムアップなものであるという思い込み」について触れました。「小さく始める」はアジャイルを成功させるためによく採用される最初の一歩ですが、「小さく」は決して「常にボトムアップでいい」というわけではありません。

 これまで、さまざまな企業におけるアジャイル導入を支援する中で、役員や経営トップのアジャイルに対する理解や応援を得ることが難しい状況がたびたび見てきました。契約よりコラボレーション、ツールやプロセスより対話を重視するアジャイルでは、その価値を理解する一番の近道は何よりも経験することです。

 でも、興味はあっても時間的な制約がどうしても発生してしまう状況で経験するのはなかなか難しい。そんなときに活用できるゲームやアクティビティをいくつか紹介したいと思います。30分くらいではじめられるものから、数時間から半日かかるものまで、いくつかバリエーションがありますが、これからアジャイルを取り入れたい、アジャイルとウォーターフォールの本質的な違いを短時間で理解したい、アジャイルの価値を個々人のみらず、チームで理解したいといった場面で活用できるものです。

アジャイルを体験するためのゲームやアクティビティ

①アジャイルボールゲーム

 用意するのはたくさんのボール(ピンポン玉のようなもので構いません)と、ゴールになるバスケットです。決められた時間(2分)の中で、できるだけたくさんのボールを全員が触って、ゴールとなるバスケットまで届けるゲームです。ルールはとても簡単です。

  • 人数は任意。経験上ですが、1チーム5人以上はいたほうがよいです。
  • 決められた時間のなかで、できるだけたくさんのボールをバスケットまで運ぶ。
  • バスケットに運ぶまでに、全員がボールに触ること。
  • 人から人にボールがわたるときに、ボールが必ず空中に浮いている時間があること
  • 2分のゲームに入る前に、1分間のプラン二ングを行う。この時間で、実行のアプローチと見積もり(何個のボールを運べるか)を行う。
  • これを3回繰り返します。

 このゲームでは、アジャイルアプローチの代表的な考え方の1つである反復(イテレーション:Iteration)を通したカイゼン(kaizen)を、ボールを運ぶという具体的な動作によってチーム全体で経験することができます。

 人数が多いようであれば、チームを複数作って実施してみるとよいでしょう。ボールを運ぶという至極単純な動作なので、どうしてもボールで遊んでしまいがちですが、このゲームで大事なのは、実施したあとに参加者で振り返りの時間を持つこと。特に複数のチームで実施すると、チームごとにパフォーマンスが違うだけでなく、実行のアプローチ、見積もりの精度など、さまざまな違いが必ず見つけられるはずです。

 それらの違いがなぜ起こったのか、ディスカッションの過程や考え方をチームを超えて共有しながら、アジャイルな進め方について実践的に議論を深めることで、単にプロセスやアプローチとしてのアジャイルではなく、アジャイルではそれぞれの個人にどういう動き方や考え方が求められるか、チームとしてどうあるべきかを考えるよい機会を提供してくれます。

 これだけではまだ想像しにくいかもしれませんので、YouTubeなどで"agile ball game" "agile ball point game"といったキーワードで検索してみてください。実際にやってみた例を見つけることができます。動画1は、ヒレン・ドーシ(Hiren Dosh)氏のYouTubeチャンネルからです。


動画1:Agile Ball Point Game(出典:Hiren Dosh氏のYouTubeチャンネル)

②エンベロープゲーム

 アジャイルとウォーターフォールの違いを30分で経験する方法を探しているなら、エンベロープゲームをやってみましょう。ポストイットと封筒だけ用意すれば、短い時間でアジャイルの提供する価値を、ウォーターフォールとの比較をしながら体験することができます。

  • 1つのチームは3人。要件を提供するPMもしくはプロダクトオーナー、要件を実装する役目のエンジニア、要件にあった開発がされているかをチェックするテスト担当、で1つのチームを作ります。
  • チームごとにアジャイルもしくはウォーターフォール、どちらの方法で進めるかを選択してもらいます。2チームある場合には、1つのチームをアジャイル、もう1つをウォーターフォールとするとよいでしょう。
  • PM、エンジニア、テスト、はそれぞれ以下の業務を担当します。
  • PM(プロダクトオーナー):ゲームのリーダーの指示に基づき、封筒の表に要件を書き、エンジニアに渡します。
  • エンジニア:受け取った封筒に書いてある要件と同じ内容を、ポストイットに書き、書き終わったら封筒に入れてテストに渡します。
  • 封筒の表に書かれた内容と、ポストイットに書かれた内容が一致しているかどうかを確認し、同じであれば出荷済みのバスケット(もしくは机の上の適当な場所でもかまいません)に移動します。
  • このゲームではゲームの進行役が必要になりますが、ゲームの進行役は同時にお客様として、それぞれのチームのPMにタスクを与えます。タスクは簡単なもので構いません。例えば「10個の機能の開発・デリバリーが必要です」といったタスクを与えますが、1から10の数字を10枚のポストイットにそれぞれ書いてもらう、といった単純なものです。

 ──と、これだけでは単純すぎてゲームになるのか? と思われるかもしれませんが、1つのチームはアジャイル型でタスクに取り組んでもらい、もう1つのチームにはウォーターフォール型で取り組んでもらうことで、さまざまな経験をしてもらうことができます。

 アジャイルチームは、1つのタスクが終わったら次のステップに即座に渡すことができますが、ウォーターフォールチームでは、すべての与えられたタスクが完了するまで次のステップに渡すことができません。アジャイルチームはPMが封筒に1つの要件を書き終えたら即座にエンジニアに渡して、エンジニアがポストイットに要件にあった内容を記述する作業に移ることができますが、ウォーターフォールチームはPMがすべての要件を書き終えて(例えば1-10の数字という要件であれば、10枚の封筒を書き終えるまで)からでないと、次の工程、エンジニアに渡すことができません。

 実際にこのゲームをやってみたNordstrom Tech Videosの動画が公開されていますので、参考にしてみてください。

 このゲームはアジャイルな仕事の進め方を体験できることはもとより、今までの仕事の進め方、ウォーターフォールと比べて何が本質的に異なるのかを、とても簡単なタスクを通して体験できることにおもしろさがあります。

 お勧めは、ウォーターフォールチームのテスト担当に上司や役員、経営者をアサインしてみること。皆さんお気づきと思いますが、ウォーターフォールチームのテスト担当にはなかなか仕事が回ってきません。つまり、ゲームをやっている間暇を持て余します。

 一方、アジャイルチームは終始全員が忙しく、生産的に共同して取り組んでいる中で、終始やることもなく暇な役割を任された皆さんは、間違いなくこれまでの働き方や考え方に何かしらの疑問を抱くはずです。

 筆者はこれまで何度もこのゲームを実施してきましたが、意思決定者にウォーターフォールを担当してもらうことをきっかけにアジャイルの導入を決断してもらったケースが何度もあります。百聞は一見にしかず。たった30分の経験ですが、働き方、チームコラボレーションのあり方を考えるよいきっかけを与えられます。

●Next:「LEGO Serious Play」でアジャイルを体験する

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