[技術解説]

統計解析からExcel代替までルーツは多様、選択肢が広がるBI製品

BI(ビジネスインテリジェンス)最前線 Part5

2009年2月17日(火)IT Leaders編集部

パート4で見たメガベンダー以外にも、数々のBI関連製品が市場に投入されている。統計解析をルーツに適用分野を広げてきた製品や、DWHの高速処理技術をベースにするものなど、バリエーションは様々だ。Part5では、位置づけを整理しながら、それぞれの特徴を見ていこう。

 先に見た日本IBM、日本オラクル、SAPジャパンのスイート製品以外で、国内市場で手に入る主要なBI関連製品をまとめたのが表5-1だ。その中から特徴的な製品をピックアップして見ていこう。

表5-1 BIの一般的な構成要素。最近はBI基盤全体をカバーする動きが活発化している
製品名(提供元) 概要
ARIS Performance Dashboard ほか
(IDSシェアー・ジャパン)
ビジネスプロセスの全体最適を図る製品群「ARIS Platform」上のソリューションとして提供。定めたKPIの実情を測定するとともに意思決定をサポートする。「ARIS Performance Manager」「同Performance Dashboard」「同Process Event Monitor」などで構成
WebFOCUS 7.6
(アシスト)
メインフレームやクライアント/サーバー環境における4GL(第四世代言語)から発展したBIツール。ERPや各種DBとのアダプタを介して分析処理を実行する「レポーティングサーバ」を中核に、ダッシュボードや非定型分析処理、Excelから使うアドインなどを用意
Dr.Sum EA Ver3.0
(ウイングアーク テクノロジーズ)
部署単位などでExcelでは扱い切れないデータ量の集計処理を担った製品が出自だが、機能拡張を続けて全社規模でのBI用途を視野に入れる。ETL処理を事項する「Connect」、ダッシュボードの「Visualizer」、集計分析の「Datalizer」などをラインナップ
ADVIZOR
(エー・エス・ジェイ)
分析対象データをメモリー上に読み込んで高速に処理する独自のオンメモリー型アークテクチャを採用。マウス操作で直感的に操作しながら分析作業を進められる。スタンドアロン型の「Analyst/X」、サーバーを使ってWebから操作する「Server AE」などがある
SPSS/Clementine など
(エス・ピー・エス・エス)
高度な統計解析ツール「SPSS」やデータマイニングルール「Clementine」を基盤とし、そのノウハウを活かして業績管理分野にも進出。キャンペーン分析やコールセンター業務管理といったマーケティング分野向けなど、特化型のアプリケーションを展開する
Sybase IQ
(サイベース)
独自のカラム単位のインデックス作成方式などで高速検索処理を可能としたDWH特化型DB。データ統合ツール群のData Integration スイートを用意。分析には関連会社アイエニウェア・ソリューションズの「AnswersAnywhere」などが使える
SAS Enterprise Intelligence Platform など
(SAS Institute Japan)
高度な統計解析ツール「SAS」を基盤とし、そのノウハウを活かして業績管理分野にも進出。データ統合、DHW構築、分析や将来予測、ダッシュボードなどスイート化を図る。財務分析、顧客行動分析、リスク管理、サプライチェーンマネジメントなど特化型アプリケーションも展開
myNavigtor
(ジール)
バランススコアカードによる経営戦略策定を起点に、予算編成などの財務業務や人材開発・評価などの人事業務も含めた総合的なビジネスプロセスを管理するツール群。ダッシュボード機能や、DWHを使った各種分析機能などを実装できる
Infor Performance Management 10
(日本インフォア・グローバル・ソリューションズ)
企業戦略からビジネス計画、予算策定までを統合支援する「BPA」(Business Process Application)と、特定の業務要件に対応したデータ分析を支援する「BSA」(Business Specific Analytics)で構成する
MicroStrategy 8
(マイクロストラテジー)
単一メタデータ管理の基盤上で、ダッシュボードやOLAP分析、レポーティングなどの機能を提供。Webブラウザーの使用を前提に、閲覧者向け、分析者向け、パワーユーザー向けなどきめ細かいツールを用意する。独自のキャッシュ技術による高速DB処理が特徴
Microsoft Office PerformancePoint Server 2007
(マイクロソフト)
予算編成や予測などの「プランニング」、活動の成果をリアルタイムに把握する「モニタリング」、原因分析する「分析/レポーティング」を主な機能とし、エクセルやWebブラウザを通じたワークフロー/情報共有で効率的なPDCAサイクルを支援する
myB3smart
(マクニカ)
ビジネスデータの可視化、ダッシュボード構築機能に特化したサーバーソフトウェア。RDB、Exce、CSV、XMLのデータを取り込むためのアダプタを備え、立体的なグラフやメーター形式、信号機など好みのパーツを組み合わせた画面を構築できる

BSCベースに業務を見える化

 企業システムの分野において地歩を強化したいマイクロソフトが2007年11月に市場投入したのが「Microsoft Office PerformancePoint Server 2007」である。

 予算編成や予測などの業務を担う「プランニング」、活動の成果をリアルタイムに把握する「モニタリング」、原因分析する「分析/レポーティング」を主な機能とし、ExcelやWebブラウザを通じたワークフロー/情報共有で効率的なPDCAサイクルを支援することを狙った製品だ(図5-1)。財務的な指標だけでなく顧客や業務プロセスの視点も交えて戦略策定と業績評価を支援する手法「バランススコアカード(BSC)」をベースに、業務全体の「見える化」を図ることがフレームワークになっている。「実際にマイクロソフトが自社内で使いながら機能をブラッシュアップしてきた製品だ」と、インフォメーションワーカービジネス本部の米野宏明 IWソリューションマーケティンググループ エグゼクティブプロダクトマネージャは説明する。必ずしもBSCに準拠する必要はないが、まずは管理指標を明確にしなければならない。

図5-1
図5-1 マイクロソフトは経営のPDCAサイクルの効率化・迅速化を訴求

 Webブラウザをベースとした分析画面では、対話形式のウィザード機能によって望むデータを抽出できるほか、その時の検索条件などを保存して他のメンバーと共有したり、ダッシュボードに表示するパーツに流用できる。

プランニングはエクセルをインタフェースとし、シートに書き込んだデータは直接サーバー上の多次元DBに格納される。例えば予算編成などの場合、各部門の担当者がデータを入力した時点でサーバー上で直ちに再集計されるほか、予算達成に必要な差分額を所定のルールで配賦処理するといった機能を備えている。

統計解析から業務密着型へ

 高度な統計解析やデータマイニングの分野から発展してきたのがSAS InstituteやSPSSの製品だ。例えば携帯電話のキャリアが顧客ごとの通話時間や利用時間帯、データ通信/通話の種別といった膨大なデータから、数カ月以内に解約しそうな顧客を選び出す予測モデルを作ってシミュレーションするといった分野で、分析の専門家が駆使してきた領域である。

 近年は2社ともに業務密着型を標榜しており、マーケティングにおけるキャンペーンの計画/評価や流通業における顧客行動分析、金融機関向けの予測分析システムなど、ターゲットを特定したソリューションの展開に注力している。「単にダッシュボードで現状を把握するのにとどまらず、将来を予測する分野で強みを出していく」(SAS Institute Japanの池本洋信ビジネス開発部長)という。

独自技術を生かして使い勝手をアピール

 分析時の応答性などで独自の技術力を訴求する製品もある。例えば1989年の設立から一貫してBI市場に特化しているマイクロストラテジーは、RDBにおけるキャッシュ技術に強みを持つ。独自のアルゴリズムで多次元DBのようにデータをキャッシュしておき、できるだけDBサーバーにアクセスせずに検索すべきデータをフロントツールに返すことで高速化を図っている。最新製品は「MicroStrategy 8」で、データ統合からダッシュボード、各種分析ツールなどを取りそろえる。

 DBの高速処理ではサイベースも目立つ存在だ。同社のSybase IQはDWHの用途に特化したDBである。RDBで一般的なレコード単位のテーブル構造とインデックス作成の組み合わせで管理するのではなく、カラム単位でデータを管理することを特徴とする。データ検索時、レコード単位だと不要なカラムもストレージからメモリーに読み込んでしまうため処理が重くなりがちなほか、メモリーやCPUパワーなど余計なリソースも消費してしまう。Sybase IQはこの問題を回避しており、迅速なレスポンスを売りする。

 フロントツールとして一般的なBIツールが使えるほか、関連会社アイエニウェア・ソリューションズが「AnswersAnywhere」を提供。自然言語や文脈解析機能を搭載しており「今年上半期の地区別の売り上げを見たい」といった入力テキストから、データの検索/抽出処理ができる。

 2008年に国際市場に登場したエー・エス・ジェイの「ADVISOR」は、オンメモリー処理による高速な分析と可視化を特徴とした製品だ。「一昔前に比較するとメモリーは格段に安くなり、個人のPCでさえ数GBを搭載する時代。一般的な業務のデータなら、このメモリー内で十分な分析処理ができる」(百瀬公朗 最高技術責任者)。

 スタンドアロンで使う場合もサーバーとWebブラウザの組み合わせで使う場合も、まずは業務システムからCSV形式などでデータをメモリー上に読み込む。画面には、最初は表形式で表示されるが、ボタンを1つ押せば立体グラフや散布図など好みのスタイルで表現できる(画面5-1)。分析の過程で、いざとなればすぐに元データ(明細データ)にさかのぼって参照できることに重点を置いている。例えば利益率と売り上げを2軸にとった顧客の散布図を描いておき、孤立エリアにある1つの点をクリックすれば、その顧客IDや実際の利益率や売り上げが直ちに表示されるといった具合だ。また、散布図の中で売り上げは高いが利益率が低いと思われるエリアを選択ツールで囲めば、その範囲内にプロットされている顧客リストをすぐに表形式で出力できる。

画面5-1
画面5-1 ADVIZORを使い、利益率と売上高の2軸で顧客の散布図を表示した


 「分析者の思考を妨げないという観点で、ツールのレスポンスはとても重要な要素。次々と視点を変えて試行錯誤を繰り返す使い方をするなら、自社の実際のデータを持ち込んで各製品の応答性を体感して比べることを勧める」(百瀬最高技術責任者)。

 HOWS(ハウズ)が研究開発を進めるWeb基盤技術である「ISSEI」も、膨大なデータを対象とした分析/検索で注目に値する。一般的だった「インデックス」という検索概念にとらわれない独自のデータ構造を用いて、これまで難しかった検索条件に関連、あるいは近似するデータを同時に取得することを狙っている。

●Next:用途特化型で進化してきたBIツール

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