[市場動向]

言葉だけの「顧客志向」から脱却、100年に1度のチャンスが到来

不況を乗り切るCRM Part1

2009年4月20日(月)IT Leaders編集部

ピンチの中にチャンスあり──。「100年に1度」と言われる経済環境をチャンスと捉え、CRMの強化に乗り出す企業が相次いでいる。拡大を続けるCRM市場の動向と、過去の失敗を繰り返さないための勘所をまとめる。

図1-1 CRMの全体像

 2008年度における日本企業全体の損益を合計すると赤字に転落する−。未曾有という言葉がピタリと当てはまる世界経済の歴史的低迷。消費者の購買行動は冷え込み、企業も投資や人材採用を切り詰める。IT投資も例外ではなく、凍結や延期になるプロジェクトが激増している。

 そんな状況下でも製品やサービスが増加し、導入する企業も増えているITがある。CRM、つまり顧客との関係を様々な側面で強化するものだ。カバー範囲は、営業やサービスといった顧客対応の中核業務はもちろん、新製品開発や新規顧客開拓に向けた情報管理・分析などを含む(図1-1)。

 抑制あるいは凍結傾向にある企業のIT投資の中で「CRMは例外」との予測もある。ミック経済研究所によると、CRMパッケージの市場規模は2009年度に前年度比11.7%増の286億円となり、その後も拡大を続ける(図1-2)。この傾向は日本国内だけにとどまらない。米ガートナーの調べでは、欧州でもCRMパッケージの市場は2009年に前年比4%だが、増加する。

図1-2 国内のCRMパッケージ市場規模

着実に増加するユーザー企業

 表1-1を見てほしい。ここに挙げた40社はCRMに積極的に取り組んでいる国内企業の、ほんの一例である。CRMの強化に向けた動きは業種を問わず広がっている。

表1-1 CRMに積極的な国内企業の例
  企業名 主な利用製品/サービス
電気 シャープ Salesforce CRM
ブラザー工業 eセールスマネージャー
堀場製作所 SAP CRM
横河電機 SAP CRM
機械 IHI SugarCRM
御池鉄工所 Microsoft Dynamics CRM
精密機器 川澄化学工業 Microsoft Dynamics CRM
コニカミノルタセンシング Oracle CRM On Demand
リコー RightNow
自動車 トヨタ自動車 PeopleSoft Enterprise CRM
製薬 資生堂薬品 eセールスマネージャー
鳥居薬品 SAP CRM
食品 マルコメ eセールスマネージャー
ヤクルト本社 FASTSFA KM+
パルプ・紙 王子製紙 Pivotal CRM
化学工業 花王 エコーシステム(花王独自)
カネボウ化粧品 エコーシステム(花王独自)
ジョンソン・エンド・ジョンソン Salesforce CRM
金融 セコム損害保険 PeopleSoft Enterprise CRM
東京海上日動フィナンシャル生命 Salesforce CRM
松井証券 RightNow
横浜銀行 SAS CUSTOMER INTELLIGENCE
商社 青山商事 eMplex CRM
高千穂交易 Onyx Enterprise CRM
テリロジー Microsoft Dynamics CRM
丸紅 eMplex CRM
小売業 イエローハット eセールスマネージャー
ベルーナ eMplex CRM
丸善 Microsoft Dynamics CRM
ローソン Salesforce CRM、SASシステム
通信 ソフトバンクテレコム SugarCRM
不動産 東京カンテイ Oracle CRM On Demand
三井不動産レジデンシャル eMplex CRM
サービス JTB eセールスマネージャー
ディップ COMPANY CRM for Sales
ニフティ Salesforce CRM
楽天 RightNow
空輸 全日本空輸 RightNow
ガス 大阪ガス eセールスマネージャー
日本海ガス Oracle Field Service
※ソフトメーカーやサービスプロバイダなどの公開情報より

 カネボウ化粧品は2009年1月、CRMシステム「エコーシステム」を導入した。消費者向けの相談窓口や研究部門、工場で別々に管理していた消費者の「声」を一元管理することで、消費者対応の質を高めると共に、商品やサービスの開発・改良にも役立てる。

 エコーシステムはCRMに積極的なことで知られる親会社の花王が独自開発した。同社は1978年に初めてエコーシステム導入した後、改良を重ね、現在は第6次システムを稼働させている。システムには商品情報と消費者からの相談内容に加え、商品の取扱店や身体に関する情報も格納。相談窓口に寄せられる問い合わせへの迅速な回答に活用するのはもちろんのこと、問い合わせ内容を検索・解析して商品開発やマーケティング活動に生かしている。

 コンビニ大手のローソンは業務改革プロジェクト「PRiSM」の中で、地域や町に密着した店舗展開を推進中だ。具体的には、構築を進めている新システム「ローソン3.0」を使って、独自のカードサービスで得た顧客の購買履歴などを分析。全国約8600店舗を8タイプに分類して、店舗の来店客の生活スタイルに適した品ぞろえの充実を図っている。

 「生活防衛型」の消費者増加で小売業の苦境が伝えられる中、同社は2009年2月期の決算で上場後過去最高益を見込む。それでもCRMの手を緩めない理由を、CIO(最高情報責任者)の横溝陽一常務執行役員は次のように説明する。「勝ち残りのカギは商品力。欲しい商品がないと顧客の4人中1人に来店してもらえなくなる」。

 企業による設備投資や人材採用が減少傾向にあるのを受けて、IHIと求人情報サイトを運営するディップの2社はそれぞれ、既存顧客へのサービス力向上と営業力強化を目指して新CRMシステムを稼働させた(詳細はPart2)。

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