[イベントレポート]

トヨタ、リコー、ミスミの問題意識─CIO100人が集う委員会で議論

「CIO百人が考える電子政府研究会」最終会合から

2009年5月21日(木)佃 均(ITジャーナリスト)

リーマンショックから半年が経過し、2009年度に入った今、ユーザー企業の多くがIT投資を引き締めている。「引き締めざるを得ない」といった方が正確だろう。だが、そうした表層に目を奪われてはならない。先進的なユーザー企業は、視点をIT投資削減に置いているわけではないからだ。限られたIT投資予算をどう効果的に使うか、過去のやり方と決別するための議論がある。

 「当社は従来のIT調達プロセスを抜本的に見直しました」──。経済産業省の主宰で、今年2月末に開かれた「CIO百人が考える電子政府研究会」の最終会合。ここで情報化投資に関する興味深い意見交換が行われた。

行政と民間のCIOが連携

渡辺捷昭社長
写真1 第1回CIO百人委員会で講演するトヨタ自動車の渡辺捷昭社長

 本題に入る前に、あまり知られていないこの研究会を説明しよう。2008年10月にスタートした先進自治体のCIOと中央省庁のCIO補佐官による「行政CIOフォーラム」を子委員会とし、その親委員会として発足。同年11月5日に第1回会合が行われた。「行政機関の、より高度なIT利活用の推進」を目的に、子委員会での議論を施策として取りまとめるのが役割だ。

 座長は、リコー副社長で経団連の電子行政推進部会長である遠藤紘一氏。官民を代表する有力CIOが歯に布を着せずに意見を交換してきた。さらにいえば、民間におけるIT利活用に照準を当てた「IT経営協議会」─「CIO戦略フォーラム」と相互に連携しつつ、議論を深めてきた。

 この2つ(親・子を個別にカウントすれば4つ)の研究会は、3月26日に発足した「CIO百人委員会」(委員長=トヨタ自動車社長・渡辺捷昭氏、写真1)の母体となっている。ちなみにCIO百人委員会は、「行政と民間の知見を融合」を前面に掲げ、「2つの動きをより親密に連携させることで、新しいITバリューチェーンを実現する」(経産省情報政策課の鍛治克彦課長)狙いがある(図1)。

図1 官民の知見を集積するCIO百人委員会
図1 官民の知見を集積するCIO百人委員会(画像をクリックで拡大)

 ここで本題 ─冒頭で述べた研究会─ に戻ろう。2月末の会合は最終回ということから、行政の情報化に限らず、一般論も含めた自由討議となった。事務局である経産省が提起したのは、IT投資の方向性に対する考え方だ。

 「少子高齢化や年金・福祉・医療にかかわる将来不安といった社会情勢、そして未曾有の不況を勘案すると、民間も行政機関もIT化予算を、これ以上増やせない。これに対して電子政府プロジェクトは、状況がどうあれフロントのサービス機能を、質量ともに強化していく必要がある。予算が減る中で、どうすればフロント系システムを強化できるだろうか。解は、バックヤード系システムのコストを抑え、浮いた分をフロント系システムの強化に回すほかないのではないか」。

予算管理のやり方を変えた

 これに対して、委員の1人であるトヨタ自動車の常務役員(IT・ITS担当)、大西弘致氏は、次のように言う。「今年1月、当社は従来のIT調達プロセスを抜本的に見直しました。これまではプロジェクトごとに可否を決め、役員会はIT予算の総額を見ているだけでした」。

 国内で若者の自動車離れが進んでいたものの、米国やアジア地域での好調な販売が、同社を世界ナンバーワンの自動車メーカーに躍進させた。ところがゼネラルモータースを抜いた直後に世界規模の景気後退が発生。それがもたらしたダメージは予想以上に大きかった。過去の景気後退では、一律何%カットと通達を出せばよかったが、今回はそれでは済まない。大西氏は「やり方を根本から変えなければ、という危機感がありました」と続ける。

 2009年度の予算編成にあたって同社が採ったのは、各部門から提出させたIT化の要望について、関係部門の長を一堂に集めて討議させ、副社長が優先順位を決定する方式だった。「基準は、製品とサービスの品質向上につながるか、競争力の強化になるか、早期に投資を回収できるかの3点。その基準に照らして全社規模のIT化計画と予算編成を行ったんです」。

 ただし単純に、個別システムの提案を評価したわけではない。「部品調達から生産にいたるバックオフィス系と、顧客への情報提供や営業・サービスなどに関わるフロントオフィス系のシステム連携を重視しています」という。

 ユーザーから見たら、バックヤード系もフロント系も、トヨタ自動車も地域の販売会社も、区別なく「TOYOTA」なのだ。オールTOYOTA として、消費者や取引先と、どう向き合うか。発想の転換が迫られたことを示している。

バックヤード系とフロント系という整理

遠藤紘一副会長
写真2 CIO百人が考える電子政府研究会の座長であるリコーの遠藤紘一副会長

 座長であり、リコーのCIOである遠藤紘一氏(写真2)は、大西氏の発言を、こう受けた。「バックオフィス系の投資を抑制してフロント系に回すことは、リコーでも取り組んだ。それによってIT予算の総額を変えずに、サービス品質を高めることができた。しかし、それにこだわり過ぎると、いい結果は出ないと思っています」。どういう意味か?同氏は、「フロント系を生かすには、バックオフィス系がしっかりしていることが前提になります」と話す。

 電子部品を調達し、在庫として管理するのはバックオフィス系に閉じた業務に思えるが、実はそうではない。電子部品は製品の品質を左右するばかりでなく、保守サポート業務に従事するエンジニアのサービスレベルにも影響する。「バックオフィス系とフロント系は、シームレスでなければなりません」(遠藤氏)。

 そこでリコーは、組織ごとの縦割りで保有・管理していた情報の一元化や、製品ごと、業務ごとに最適化されていた情報処理プロセスを根本から見直す作業を実施した。顧客を座標軸として、バックオフィスからフロントまでを貫く情報共有の体制に改め、部品調達部門からユーザーサポートに当たるフィールドエンジニアまでが、一元化された“情報の海”にアクセスできるようにする。経済・社会の環境変化に柔軟に対応できる企業を具体化するために、情報システムを通じて業務プロセスを変えていく、ということだ。

 両氏はともに、「部分最適でなく、重要なのは全体最適である」と指摘し、「それを考えるのが、今日のCIO の役割である」と提唱する。同時に企業の情報システムは、大きな屈曲点 ─管理目線からユーザー目線へのベクトルチェンジ− に差し掛かっている、という。

●Next:抑制・減少が続くIT予算、ユーザー各社の内情

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