前回は「発想力」について解説した。それに続いて今回は、発想力を引き出し、問題の解決策を導くための発想法を説明する。4つあるが、基本はどれもシンプル。適材適所で使い分けてほしい。
システム開発の現場で取り扱う問題は、「多知識型(領域特有)」で、かつ「定義の悪い」ものであることが多い。今回紹介する発想技法は、このような問題の原因を追究したり、解決策を考えたりする際に有効である。解決策のみならず、問題の感知力も高めることができる。問題を構成するざまざまな要素や原因、現象などと、それらの因果関係を可視化し、整理していく手段を提供しているからだ。
ただし単に発想技法を使えばオートマチックに、問題の構造や解決策を見いだせるわけではない。どんなツールでも同じだが、特に発想技法を使う際には、それを使うに相応しい能力と姿勢が求められる。
発想技法は世の中に数多く存在する─人間の数だけ存在すると言えるかも知れない─が、本章ではブレーンストーミング法など、比較的よく知られているものを紹介する(図1)。それだけ練り込まれているし、関連書籍や関連ツールも存在するからだ。
ブレーンストーミング法:欧米はリスク管理に活用
米国の広告代理店の副社長だったオズボーン(Osborn、A.F.)氏が開発した発想技法が、「ブレーンストーミング法」である。文字通り、「ブレーン(脳)で問題にストーム(突撃)する」といった意味から、こう名付けられた。進行役1名を中心に複数名が集まり、ある検討テーマに対してできるだけ多くのアイデアを出し合っていく。その際、重要なのは量(アイデアの数)であって、結果として良質のアイデアが増える。「アイデアの質は量に比例する」という考えに基づいているのだ。
これだけの説明だと、通常のミーティングとさほど変わらないように思えるかも知れない。ブレーンストーミングでは実施ルールを定義しており、そのルールに従わなければならない。具体的には以下の4点がルールである。
(1)自由奔放
自由奔放なアイデアを歓迎する雰囲気を作り出しておく。奇抜なアイデアやテーマとは無関係に思えるアイデア、あるいは実現不可能なアイデアに対しても、歓迎しなければならない。このような雰囲気によって、参加者は自由にアイデアを出す気持ちになる。
(2)批判厳禁
誰かが出したアイデアに対する批判を厳禁する。参加者が「批判されるかも」と思った瞬間にアイデアが出なくなるので、当然だろう。批判しないというルールによって制約やタブーが排除されるようになる。
(3)質より量
アイデアを出す段階では、何が良くて何が悪いかを判断できない(しない)。そこで進行役は会議の参加者全員が発言し、アイデアが沢山出てくるよう議論を活発化させていく。時にはアイデアを出さない参加者に対して、プレッシャをかけることもある。
(4)便乗発展
参加者が出したアイデアに便乗する形でアイデアを発展させる。自分一人で物事を考えようとすると、どうしても限界がある。複数名で考えると相手のアイデアに刺激され、新たな発見が生まれてくる。
このようなルールのもとで参加者同士できるだけ多くのアイデアを出し、出尽くしたところで実際に使えそうなアイデアを絞り込んでいく。ブレーンストーミング法には整理の手法はないので、この後に紹介するKJ法やマインドマップなどを使うといいだろう。
ブレーンストーミングは、欧米ではプロジェクトマネジメントにおけるリスク抽出など、多くのビジネスシーンで使用されている。事実、近年プロジェクトマネジメントのグローバルスタンダードになりつつあるPMBOK(Project Management Body of Knowledge)では、リスクマネジメントにおける情報収集技法の1つとしてブレーンストーミングを挙げている。
KJ法:日本発の発想技法
文化人類学者である川喜田二郎氏が考案した技法である。フィールドワークやブレーンストーミングを通じて得られた膨大な情報を、直観に基づき整理、分類、統合する。それによって問題の原因分析や解決策の導出を行っていく。販売現場の定性情報やデータの整理、品質管理、職場の問題点整理など、多くのビジネスシーンで採用されている。同氏の姓名の頭文字を取って、KJ法と呼ばれる。その基本的な流れは以下のようなものだ。
(1)キーワード収集
情報やデータを要約したキーワードを書き出すためのカードを用意する。カードは紙切れや付箋紙など何でも良いが全て同じサイズであることが望ましい。カード1枚にキーワード1つを書き出していく。その際、第3者に誤解を与えないよう具体的、かつ簡潔な表現で書き出すよう注意する。
(2)グルーピング
書き出したカードを机やホワイトボード上に無造作に並べる。カードを1枚ずつ読み上げ、印象が似ているもの同士を近くに寄せ、小グループに分類していく。その際、自分の知識や経験で分類するのではなく、直感で分類するよう注意する。分類された小グループには、できるだけ具体的な表現で見出しを付ける。その後、中グループ、大グループとグループ化を繰り返し、最終的に大グループが5〜6個くらいになるようにする。
(3)図解化
大グループ間の関係を図解化する。グループ間の関係(相互・対立・原因と結果など)が分かるように線でつないだり、丸で囲んだりする。このような図解化を中グループ、小グループの順に繰り返していく。こうすることでグループ間同士の関係を可視化していく。
(4)文章化
(3)で図解化したものを文章で表現する。それによって図解化の矛盾や誤りを発見できることがある。あらたな発想がひらめくこともある。最終的には図解化、文章化されたものをにらみながら討論を行い、検討テーマの本質を見極めていく。
均等な大きさの紙きれや付箋紙があればすぐにでもできるため、実際にKJ法を使用してテーマを検討した方もいるであろう。川喜田研究所では研修コースや公認インストラクター制などを整備し、KJ法の正しい普及に努めている。KJ法を使用する際には、こちらも参照されたい。
●Next:創造工学研究所の中山正和氏が考案したNM法
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