米国マイクロソフトは7月12日(米国時間)、ワシントンD.C.で開催されたWorldwide Partner Conference(WPC)2010で、「Windows Azure platform appliance」を開発し、年内に提供すると発表しました。これは、クラウドOSのWindows Azure、DBaaS(Database as a Service)のSQL Azureをメインに構成されるマイクロソフトのPaaS「Windows Azure platform」を、同社のハードウェア・パートナー各社が導入・設定済みのアプライアンスとして、それぞれのデータセンターから提供するという新しいモデルです。同日に発表されたハードウェア・パートナーは米国ヒューレット・パッカード、米国デル、富士通の3社で、ユーザーの立場で同アプライアンスの開発に携わるパートナーとして米国イーベイの名前も挙がっています。
マイクロソフトのクラウド・コンピューティングへの取り組みは、2007年に掲げられた「Software+Service」(S+S)構想に端を発しています。ネーミングに、次世代ソフトウェア・モデルとしてこの時期に大きな注目を集めていたSaaSへの対抗策といった意味合いを感じさせるS+Sは、ソフトウェア・パッケージ・ビジネスで覇権を握ってきたマイクロソフトがとるであろう戦略として理解しやすいものでした。ただ同時に、従来型のソフトウェア・ビジネスへの執着を完全に捨てきれないかのような中途半端な印象を与えたのも事実です。
その後、2008年のProfessional Developer Conference(PDC)でWindows Azureが正式発表され、従来型のビジネスとクラウド・ビジネスのバッティングを解消する方向での組織改編も断行されるなど、マイクロソフトは徐々にクラウドへの注力を強めていくのですが、それでも私は同社の戦略に今ひとつ煮え切らない、もやもやした感じをぬぐえないでいました。
マイクロソフトの成功は、Windowsプラットフォームの下に築かれた大規模で強固なエコシステム、パートナーシップ・ビジネスの成功と言い換えることができます。初期のS+S構想からかなり軌道修正したとはいえ、同社のクラウド戦略には、ソフトウェア・パッケージ・ビジネスにおいて成功体験を共にしたパートナーへの気遣いや遠慮のようなものが感じられたのです。そのように真に吹っ切れていない状態では、クラウドベンダーのDNAを持たず、出足も決して早くなかった同社が、次々と先手を打って市場を主導するトップ集団との差を縮めていくことは相当難しいだろうとも思っていました。
今回、マイクロソフトはWindows Azure platform applianceの発表をもって、パートナーに対して1つの明確な方向性を打ち出したと言えます。示されたパートナーシップ・モデルは、クラウド時代のWindowsプラットフォーム・ビジネスの確立と成功に向けて共闘を呼びかける宣言のようでもあり、マイクロソフトは、クラウド・ベンダーとしてついに吹っ切れたのだという印象を持ちました。
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