[シリコンバレー最前線]

米国で急成長中の映画配信サービス、米Netflixのクラウド活用を知る

2011年3月7日(月)山谷 正己(米Just Skill 社長)

「米国シリコンバレーで今起きていること」をテーマに、企業や社会、市民生活における現地のIT最新事情をお伝えする。世界最先端の同地域を知ることは、日本の明日を知ることにつながるからだ。第1回はビデオ配信を取り上げる。

 映画のレンタルと言えば、最初はVHSのカセットテープだった。当初は小さな個人経営のビデオレンタルの店が町に林立し、米国ではその後1985年にビデオレンタルチェーンのBlockbuster(ブロックバスター)社とMovie Gallery(ムービーギャラリー)社が設立された。

 家庭にビデオデッキが普及した時代の波に乗って、両社は急成長した。Movie Galleryが経営するビデオレンタルショップの名前はHollywood Video(ハリウッドビデオ)。最盛期には全米で5000店舗を数えるまでになった。

 その後、VHSカセットはDVDに置き換えられ、レンタル店の棚には以前より多数の映画DVDが並ぶようになった。金曜日の夕方はどのビデオレンタル店も客で混み合った。一度に5〜6本の映画を借りて行く親子連れの姿を見かけたものである。

パッケージからオンラインへ

Netflix社

 1997年、ベンチャーキャピタルの投資を受けて新しい方式のDVDレンタルサービス会社Netflix(ネットフリックス)社が誕生した(写真)。レンタル店舗を持たず、ウェブで貸し出し予約を受け付けるとDVDを封書で郵送する方式である。一度に複数枚を予約できるが、郵送で届くのは1枚のDVDだけだ。受取った封筒を裏返すと、返信用封筒に変わり、それにDVDを入れてポストに投函すればよい。Netflixは返却を確認すると、予約された順番で次のDVDを郵送する。至って簡単である。月額5ドル99セントからという価格破壊が受けて人気は急上昇。同社は2003年にNASDAQに株を上場した。

 Netfixの誕生によって、老舗のBlockbuster Video、Hollywood Videoをはじめとする巷のビデオレンタル店は大きな打撃を受けた。Movie Gallery社の売上は見る見るうちに激減して2007年にNASDAQ上場取り消しになり、2010年5月に倒産した。Blockbusterも2010年9月に会社更生法(Chapter 11)を申請し、年末までに900店舗を閉鎖。本年4月までにはさらに182店を閉鎖する状況に追いやられた。

悩みを解消したクラウド

 勝ち組となったNetflixだが、悩みがあった。会員数がうなぎ登りに増え、取扱う映画DVDの数は増える一方である。米国内50カ所にあるDVD配送センターだけでは、処理し切れなくなることが目に見えていた。そこで同社はDVDを郵送する方式から、オンデマンドのストリーミング配信方式に変えることを目標にして、2007年からインターネットを使った映画配信の実験を開始した。

 しかし、全米に向けて本格的にストリーミング配信するには既存のデータセンターの能力では不十分。需要が増え続ければ、次々に新しくデータセンターを増設しなければならず、膨大な投資が必要にもなる。高度なスキルを持ったITスタッフも増員しなければならない。

 そこで同社はクラウドサービスの利用を決断した。迅速、スケーラブル、高可用性、生産性向上を目標として、各種のクラウドサービスを調査した結果、Amazon Web Services(AWS)が最もふさわしいと結論した。こうして2009年から米国内で本格的に映画ストリーミングのサービスを開始した。

 月額の利用料7ドル99セントを払えばオンデマンドで映画を見放題。また月額9ドル99セント払えば、オンデマンドとDVD郵送の両方を利用できる。ユーザーはインターネットに接続されたパソコン、ブルーレイビデオ装置あるいはテレビで映画を受けて楽しめる。このようにクラウドを利用することによって、同社は映画の配給コストを郵送の10分の1低減することに成功した。

 2010年9月にはカナダへの配信も開始。さらにiPod、iPadのサポートも始めた。郵送と違い、クラウドに国境はない。今後、日本や中国でも同様なサービスを提供する計画である。

AWSを使った並行処理

 Netflixが利用している主なAWSを表1にまとめた。DVD映画をエンコードしたものをAmazon S3のストレージに記憶しており、約10万本の映画の総容量は数ペタバイトを占める。AWSで常時作動するインスタンスの数は数千におよぶが、フォールトトレラント(耐障害性)設計がされている。すなわち相互に依存して作動するインスタンスであっても、そのうちの1つに障害が発生してもシステム全体としては正常に作動する。AWS上に構築したこの基盤を、同社はRamboアークテクチャと呼んでいる。

表1 Netflixが米Amazonの様々なクラウドサービスを利用
サービスの分類 AWSのサービス 利用目的
仮想サーバ Elastic Compute Cloud(EC2) 映画のエンコーディング
リプリケーション
メモリーキャッシュ(memcached)
APIプロキシ
各種共通サービス
ストレージ SimpleDB レンタル記録
関係データベースの代替
Simple Storage Service(S3) エンコードされたビデオ
ストリーミングのログ
古いレンタル記録などを圧縮記憶
EBSのバックアップ
Elastic Block Storage(EBS) データベース
その他のサービス Simple Queue Service(SQ) 各種の処理の待ち行列
Elastic Load Balancing(ELB) 配信ネットワークの負荷のバランス
Elastic MapReduce 各種ログの分析
CloudWatch 仮想サーバの監視・管理

 コンテンツの配信にはAWSのElastic Load Balancingを使って負荷のバランスを取っている。さらにAkamai(アカマイ)社とLimelight(ライムライト)社のコンテンツ配信ネットワーク(CDN)サービスを使って、コンテンツのキャッシュをインターネットの主要拠点に配置している。

 Webアクセスのログ、ストリーミングのログの処理・分析には、AWSのElastic MapReduceサービスにあるHadoopを利用。そしてAWSのCloudWatchを使って、システム全体を監視・管理している。

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