IT管理を容易にするためのツールやマニュアル群であるフレームワークは、ITの世界にあまた存在する。 一方、ビジネスに貢献できるITという視点に重点を置いたフレームワークは今まで存在してこなかった。 こうした現状を打破すべく、ベンダーやユーザー、学術会などが集結し、ビジネス指向のフレームワークを完成させた。 それが、「IT能力成熟度フレームワーク(IT-CMF:IT Capability Maturity Framework)」である。IEEE/IT Professional誌特約:Translated from the original English version and reprinted with permission, from “A New Management Framework for IT”, IT Professional Nov.-Dec. 2010., (C)2010 IEEE
ITエグゼクティブに求められるのは常に結果だ。最高情報責任者(CIO)はここ十数年間、システムを適切に管理し、システムによる改善効果を計測し可視化できるように苦労を重ねてきた。
彼らはIT管理を容易にするため、フレームワークや能力モデルといった手法を使ってきた。エンタープライズアーキテクチャの礎となった「ザックマン・フレームワーク」、プロセス改善のガイドライン「CMMI(能力成熟度モデル統合:Capability Maturity Model Integration)」、システム運用のベストプラクティス集「ITIL(Information Technology Infrastructure Library)」、ITガバナンスの国際標準フレームワーク「COBIT(Control Objectives for Information and related Techno-logy)」、などが主な例だ。だが、大半のフレームワークはITのみに焦点を当て、ビジネスにまで焦点を当てられていなかった。
米インテルなどのベンダーやアイルランド国立大学メイヌース校、イノベーションに関するコンサルタントなどで構成するコンソーシアム「イノベーション・バリュー・インスティテュート(IVI)」は、ビジネスに貢献できるITという視点に重点を置き、結果を測定可能な形で表現できる新しいフレームワークを発表した。それが「IT能力成熟度フレームワーク(IT-CMF:IT Capability Maturity Frame-work)」である。IT環境自体の潜在能力を数値化するだけでなく、ITとビジネスとの関連性を重視している点が特徴である。
米インテルの研究内容が由来
企業・学会・コンサルが改善重ねる
IT-CMFの元となったのは、米インテルのマーティン・カーリー氏が、著書「Managing Information Technology for Business Value(インテル・プレス、2004年)」の中で提案したフレームワークだ。IVIはこのフレームワークを精査し、適用範囲を拡大してきた。
CIOに加え、テクノロジー担当でないエグゼクティブが直面する、様々な問題に対処するための新しいフレームワークを作る─。この目的のために大企業や専門技術者、学界関係者、加えて経験豊かなCIOが集結して創設したのが、IVIだ。
IVIは、石油メジャーの米シェブロンや英BP、米軍需大手ノースロップ・グラマン、独SAPといった企業において、IT-CMFの実証のためのストレステストを繰り返した。IVIはこうした初期の適用事例から、業界の専門家やコンサルタント、そして様々な業界におけるCIOが、フレームワークを評価したり推奨するに足る基本的な情報を獲得してきた。IVIは2009年2月にこれらの事例を公開。さらに2010年6月には、フォーチュン500に名を連ねる様々な業種の80社が、IT-CMFを採用済みであることを明らかにした[1]。
初期の事例の成功と、そこから得たフィードバックにより、フレームワークの改善が大きく進んだ。「ITとビジネスのエグゼクティブがITによってより多くの価値を創造し、ITで実現できるより良いイノベーションをもたらす統合的なフレームワークとロードマップを研究開発する」というミッションの下、IVIの規模はさらに拡大した。
大企業中心だったIVIのメンバーは、中堅企業のIT部門まで拡大し、モデルの調査に関しては学界からの参画も活発化している。IT-CMFを経営学修士(MBA)のカリキュラムに入れる動きは世界全体で見られ、IT-CMFそのものを対象としたカリキュラムを創設する大学院も現れている。
IVIはIT-CMFの開発時から今まで、1000万ドル以上の資金、6万時間の人的資源を投資してきた。こうした継続的な投資により、IT-CMFの質や永続性を担保している。
今までのITの世界では、内容が明確かつ幅広い業界に適用でき、CIOや最高財務責任者(CFO)、ビジネス部門の責任者の皆が納得して関与できる標準的なフレームワークが存在しなかった。継続的にITに関する改善内容を定義し、その効果を分かりやすく可視化し、実際に改善を実行するために、フレームワークに求められる要素はどういったものだろうか。以下に、考えられる10個の項目を挙げる。
- 既存のフレームワークで得られたナレッジを活用する
- ITに関する幅広い管理領域をくまなくカバーする
- 業界によって異なるITの活用スタイルに応えるため、十分な柔軟性を持つ
- バランススコアカード(BSC)など、ITとは関係ない企業内のパフォーマンスの測定法と関連させられる
- IT部門とビジネス部門のリーダーが両方とも参画する
- ITにとって価値がある
- ビジネスにとっても価値がある
- 成熟度比較のための基礎的な数値や、ベンチマークの値を提供する
- IT環境やビジネス環境に対する影響や進展を、四半期や年度といった一定期間で繰り返し容易に比較できる
- 現実の世界で使用され、実際に成果を出している
こうしたニーズにIT-CMFがどの程度応えているのだろうか。評価するために、IT-CMFのフレームワーク全体と個々の要素について詳しく見ていこう。
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