IT関連のセミナーに行って会場に入った途端に、あるいは講演のため壇上から会場を眺めた時に、違和感を覚えることが多い。全体が暗い、見た目が暗いのだ。黒っぽいスーツを着た親仁(=親父)ばかりが並んでいる。たまに女性の姿や若い人も見かけるが、全体として見れば中高年の男性ばかりだ。
日本の大手IT企業も同様である。役員構成をみると女性が実に少ない。比較的女性役員の登用が多いと言われる日本IBMでも1割程度。他の会社の役員構成は親仁ばかりだ。
口ではダイバーシティだ、女性の活用だと言いながら実態が伴っていない。少なくともユーザーから見れば、利用者の半分は女性なのだから女性の感性やアイディアがもっと生かされてしかるべきである。キャリアのハンディキャップがあるとしても、IT企業の役員の2〜3割が女性でもおかしくない。
進化が激しい情報通信の世界で、若手人材が積極的に社外に出て来ないことも気になる。IT関連の懇親会やパーティでは親仁ばかりが徘徊している。この人達に任せていて、日本のIT産業は力強く戦っていけるのだろうかと、自分の年も考えずに心配になる。
改めてダイバーシティを考える
本誌先月号の「About this Issue」は、米IBMの次期CEOに女性が就くことを紹介しながら、ダイバーシティとITについて書いていた。ダイバーシティは多様性のこと。多民族を抱えるアメリカが発祥であり、人種やジェンダーなど外形的な問題を対象にしていることが多い。最近の企業活動で言われるダイバーシティは、より広範に、より柔軟に多様な人材の取り込みを対象にするようになったが、男女雇用機会均等法(通称)が施行されて25年が経過しても、女性が生かされていない問題は現実に存在している。
ダイバーシティは多様な人材を生かして企業を活性化させ、成長させることがテーマである。マネジメント側から見れば、「個」を尊重する懐の広さ・深さがあるかどうかでベースが決まってしまう。イスラエルやインド、中国やベトナムから社員を迎えて国際色豊かな会社を作るのも、経営方針1つでやれることである。だが、それこそ経営者のダイバーシティ感覚に依存する。
筆者の知人の情報会社の社長は女性であるが、最近ミャンマー、カンボジア、ベトナムを訪問して帰国してからこんなことを言っていた。「オフショア開発のように国や地域の人件費の差を利用するようなビジネスは間違っている。東南アジアの若者を日本人と同じ報酬で採用し、日本の社員と相互に行き来させ、海外に拠点を求める日本企業を相手に品質の高いサービスを提供したい」。こういう経営感覚をダイバーシティ・マネジメントというのではないかと思う。
イクメンを実践するIT会社の社長もいる。「ちょっと変なやつ」を異端児扱いせずに生かし、企画やマーケティングで成果をあげる会社もある。多様な人材を活かせている会社は社員のモチベーションも高く、優秀な社員を呼び込む人事の好循環を招く。それが会社の競争力になるのだ。
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