2011年末、ITの先端を走る二人の技術者に、2012年の注目技術を聞く機会があった。一人はJavaの専門家である木寺祥友氏(エル・カミノ・リアル代表取締役)。「2012年、最大のテーマの一つが“レスポンシブWebデザイン”。端末の画面サイズ(幅)に合わせて、Webの表示を動的に変更する技術だ。高解像のプロジェクタからPC、タブレット、スマートフォンまで、単一URLの同じコンテンツを表示できる。単に表示幅を変えるのではなく、ボタンのサイズなども最適化される」。
Webサイト作りが楽になるだけのように思えるが、何が”最大のテーマ”なのか?
「これをベースに、WebはHTML5に移行していく。するとスマートフォンの”アプリ”は不要というか、贅沢品の位置づけになる。AppleもGoogleもアプリで戦っているが、その構造がガラリと変わるのだ」という。
もう一人が神林飛志氏(ノーチラス・テクノロジーズ代表取締役副社長)。「大規模データの分散処理基盤であるHadoopのポテンシャルは大きい。2012年、その応用が進む。我々はこれを基幹バッチ処理に適用するAsakusa Frame-workを開発した。受発注や決済、与信管理などの業務データのバッチ処理を低コストで高速化できる」。こちらはすぐにでも企業ITに直結する話である。
レスポンシブWebデザインやHadoopの応用以外に注目すべきITは何か?
米ガートナーは「2012年の戦略的テクノロジ トップ10」を公表している。IT部門の視点では(1)ビッグデータ、(2)インメモリーコンピューティング、(3)超低消費電力サーバー、(4)クラウドコンピューティング。ビジネスの視点では、(5)IOT(インターネットオブシングス)、(6)Appストアとマーケットプレイス、(7)次世代アナリティクス。そして人の視点では、(8)モバイルタブレットと次世代製品、(9)モバイルセントリックアプリとインタフェース、(10)コンテキストとユーザーエクスペアリエンス、である。
まとめると「クラウド」「モバイル」「ビッグデータ」と、これらから派生する技術が重要性を増すという見方である。
ITリーダーにとって、これらの技術を理解し、自ら取り組むことは大切だが、それには前提があると思う。企業情報システムのあり方やグランドデザインを、改めて考えることだ。2012年1月5日に放送したITLeaders Live!(第24回)では、「2012年を展望する−企業IT10の課題」というテーマで、この点を本誌アドバイザーの桑原里恵氏に聞いた。
詳細は、本誌Webサイトから辿れるアーカイブ版をご覧いただきたいが、「利用者視点、全体観が大切」、「全体における個、個から見た全体が重要」、「インテグレーションはChoice&Customiseへ」、「グランドデザインが問われる」といった点を、同氏は指摘した。
これだけだと何やら禅問答めいた話にも聞こえるが、実際の話は具体的で、例えば「インメモリーDB」と「モバイル」は別個のものではなく深い関係がある、クラウドこそChoice&Customiseで発想するなど、話は示唆に富むと同時に、刺激的である。
本号では「Machine to Machine(M2M)」を特集した。IOTとも呼ばれるM2Mは、これまでは企業ITと無縁に近い存在だった。しかしクラウド、モバイル、ビッグデータといった文脈の中で、これからは企業ITと密接に、それ以上に中核に入り込む。これを推進し、支える役割を担うのはITリーダー、情報システム部門だと考えるからである。この特集はM2M入門編の位置づけであり、今後、年に何度かはM2Mを取り上げていくべきと思っている。
製品サーベイでは2011年、大きな問題を残した「標的型攻撃に対応するための製品・サービス」を調べた。事前の対策が困難とされる攻撃に、どうするか? ぜひ記事をお読みいただきたい。一方、ザ・プロジェクトでは、国際航業のERPの置き換え(リプレース)を取材した。ERPをはじめとする基幹系システムもまた、2012年の重要テーマである。
最後にお知らせを。筆者が理事を務める日本データマネジメントコンソーシアムは3月7日、様々なユーザー企業による講演を主体としたカンファレンス「データマネジメント2012」を、東京都目黒区の目黒雅叙園にて開催する。詳細は改めてお知らせするが、本誌読者の皆様には日程の確保をお願いしたい。
- 2014年、流行りそうな言葉「モビリティ」〜「モバイル」と似て非なる理由(2013/12/17)
- ネット上の個人データを収集する「PRISM」の脅威(2013/07/05)
- マイナンバーで世界最先端に!(2013/06/17)
- 日本的なこだわり、もてなしを考える(2013/05/28)
- 改めてパスワードを(2013/04/17)