データ品質を計画的に維持・向上させる「データマネジメント」の取り組みは、経営とITを高度に融合させて実益に結び付けていく上での要諦となる。はたして国内企業の実態とはどのような水準にあるのか─。これを明らかにすべく、日本データマネジメント・コンソーシアムの調査研究部会はこのほど、本格的な調査を試みた。本稿では、その1次集計の速報をレポートする。データ品質の重要性に気づいて何らかの行動を起こしつつも、人材育成や推進組織の整備などで多くの課題を感じている実態が浮き彫りになった。
経営環境が目まぐるしく変化する昨今、企業が成長を維持するには「即断即決」のスピード感がこれまで以上に求められている。的確な意思決定には、ITの利活用が不可欠なことは言を俟たない。
ここで、ERP(統合業務管理)やCRM(顧客関係管理)、BI(ビジネスインテリジェンス)など、「システムの基盤整備」が議論されがちだが、何よりも重要なのは「データの品質」だ。いくら“器”が立派でも、そこで使われるデータに鮮度や信頼性が担保されていなければ、せっかくの意思決定も画餅に帰す。緻密かつ合理的な事業活動を展開する根幹となるのは、データ品質の計画的な維持・向上を図る取り組み、すなわち「データマネジメント」の実践に他ならない。
データマネジメントの啓蒙と普及を図る団体として2011年4月に設立した日本データマネジメント・コンソーシアム。その中の調査研究部会は、このほど、国内企業の実態調査を実施した。経営とITを高度に融合する道を探るには、まずはデータにかかわる国内企業の取り組み実態を明らかにすることが起点になると考えたからだ。本稿では、調査結果の1次集計の中から注目すべき項目についてレポートする。
なお、今回の調査では、調査要項とアンケート実施サイトを案内するメールを広く一般に送付し、自主的な回答があったものを分析対象とした。このため、そもそもデータマネジメントに一定以上の関心を持つ企業担当者の回答が集まった可能性があることを付記しておく。
5社に1社は「全社レベル」で取り組む
まず、真っ正面の設問として「データ品質の維持・向上の活動状況」を聞いた結果が図1だ。これを見ると「全社レベルで活動している」が21.6%に達した。ほかに「部門レベル」が12.0%、「必要に応じてシステムごと」が41.3%である。
すなわち、1つの理想型である「全社レベル」の取り組みをしているのは、約5社に1社。欧米に比べ、データマネジメントが遅れているとされてきた事情に照らせば、思いのほか高い。研究会メンバーは当初、1割にも達しないのではとも話していた。この点では、前述したように問題意識が高い人の回答が集まったのかもしれない。
もっとも、この現状に甘えられるわけではなく、「全社」ないしは「部門」レベルでの体系だった取り組みがさらに増えていくことが望まれる。
データの品質について、日頃は具体的にどのような問題を感じているのか(図2)。「重複したデータが多数ある」「データの形式が統一されていない」「鮮度や詳細度に欠けたデータが多数ある」などが上位に挙がった。個別の調査票を眺めると、図1で「全社」「部門」「システムごと」など、何らかの形でデータマネジメントに取り組んでいる企業も、こうした課題を指摘していた。「行動は起こせども課題は尽きぬ」という担当者の悩ましい姿が見て取れる。
データ分析基盤の導入進むが潜在能力は十分に生かせず
現場の意思決定とデータの関係にもう少し踏み込んで、「データ分析」の視点で状況を尋ねた結果が、図3および図4である。
BI(ビジネスインテリジェンス)などデータ分析基盤の導入状況については、「全社レベルで活用している」が21.6%、「部門レベルで活用している」が29.3%となり、合わせて半数を超えた。図には示していないが、顧客分析やマーケティング、製品企画などの用途で非定型の分析を実施しており、比較的高度な使い方を目指している例も少なくない。
ただし、データ分析業務における課題も数多く挙がった。上位から見ると「比較的単純な分析しかしておらず、分析基盤を生かしているとはいえない」「分析に必要なデータを十分に揃えられない」「分析結果が利用されていない」…など。データ分析のポテンシャルは感じつつも、まだまだ改善の余地があるとの認識が目立つ。先のデータ品質の課題が少しでも解決できれば、分析面での満足度も高まるのかもしれない。
人材面での悩みはあるが組織的な取り組みが始まる
データマネジメントを担う組織体制はどうなっているのか。ここでは代表例として、(1)データ品質の維持・管理を担う組織の体制、(2)マスターデータの保守や管理を担う組織の体制、の2つについて取り上げる。
(1)については「組織体制がない」という回答が4割に達した。残りの6割の「ある」について担当者の人数をみると、1人(21.2%)、2人(13.5%)、3〜5人(13.1%)、6〜9人(5.4%)、10人以上(6.6%)という内訳になっている(図5-1)。
一方の(2)については、「組織体制がない」が22.4%にまで減る。3人以上の規模で対応しているところが32.5%あり、マスターデータに関しては比較的多くの企業が組織的にも重要視している姿勢が伺える(図5-2)。
データマネジメントに関する人材や組織の面での課題を尋ねたのが図6だ。「第1の課題」〜「第3の課題」までを独自に重み付けしてポイントを算出した。その結果、「対応できるスキルを持った人材がいない」がトップになり、「人材を育成するのが難しい」「予算が確保しにくい」などが続いた。
スキルセットに関する情報の不足、あるいは当該組織の社内的価値の認識不足など、一足飛びに解決しにくい問題が大きく立ちはだかっている。
グローバル企業の課題はITガバナンスの弱さ
グローバル展開している企業に絞って、情報システムの運用形態やデータに関する悩みも聞いてみた。
今回の有効回答の中で、海外に子会社を持っている企業は111社。これを対象にシステムの運用形態を尋ねたのが図7である。「海外拠点とほぼすべて統合・共通化された情報システムを使っている」は9.9%。いわゆる「グローバルシングルインスタンス」に相当するが、そのような形態を採っている企業は9.9%。せいぜい2〜3%ではという事前予想を大きく上回った。もっとも、「海外拠点の情報システムとは連携していない」が全体の3分の1を占める。何らかの形で連携する場合には、「海外拠点と一部のみ統合・共通化されたシステムを使っている」(31.5%)、「別のシステムだがオンラインでデータを共有する仕組みがある」(14.4%)あたりが現実解のようだ。
各国拠点にシステム展開している場合には、データに関連してどのようなことが課題になるのか。上位にきたのが「データ管理ポリシーが統一できない」「データの意味・構造が異なる」「データの同一性確保が困難」といった悩みだ。
グローバル展開する企業が、海外拠点に対してシステム面のガバナンスを利かせるのはなかなか難しいとの話をよく耳にする。本社サイドのIT戦略に明確なポリシーがないこと、各国と言語の壁があること、IT予算面での制約が厳しいことなど、背景にはいくつもの要因が絡んでいるようだ。
しかし、グローバル社会で日本企業が戦っていくには、確固としたガバナンス体制を敷くことが不可欠。とりわけデータについては、リアルタイムに近い分析&アクションを起こしていく上で極めて重要な要素となる。国境を越えたデータマネジメントのあり方を再考しなければならない。
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