変化即応力の実効的第一歩 業務遂行ルールを管理する意義 BRMSの最新情報求めセミナー会場に溢れる熱気 世の変化に素早く対応し得る事業基盤をいかに築くか─。実効性のある解としてBRMS(ビジネス・ルール・マネジメント・システム)が脚光を浴びつつある。その最新動向に迫る「実践 BRMS徹底活用セミナー 〜適用事例から考察する、攻めの経営を遂行するためのIT基盤の効果〜」が2月22日に都内で開催された(主催:SCSK/レッドハット)。BRMSへの関心の高まりを反映し、会場は120人強の来場者で埋まった。本稿では当日のトピックを紹介する。 Photo:高橋 久雄
「BRMSは“攻めの経営”を具現化するIT基盤。だからといって、経営課題を解決する魔法のツールや、ソースコードを自動生成するツールと勘違いしてはならない」─最初のセッションの壇上に立ったレッドハット・JBossサービス事業部でシニアソリューションアーキテクトを務める梅野昌彦氏は、まずBRMSの位置づけを理解することの重要性を強調した。
ビジネスの俊敏性を支えるものとしてITへの期待がますます高まっている。規制緩和や法改正、あるいは経営環境変化に伴う業務の見直し…。事業環境が目まぐるしく変わる昨今、条件判断や業務プロセスをすべてひとまとめにハードコーディングしたシステムでは変化に即応できない。こうした中、ルール変更が多い領域にBRMSをうまく適用することが解決策になると梅野氏は指摘する。
具体論として、勤怠管理システムと会計システムを例にとりルールが何処に隠れているかを見つけ出す手法を紹介。前者の例では従来、業務のプロセスとルールが渾然一体となっており、就労規則の変更に合わせてシステムも都度変更しなければならないことを指摘。そこで、ルールを見つけ出すために業務仕様書から勤務時間や休日出勤など規則や判断に関わるルールと業務の流れを示すプロセスが記載されている箇所を見つけ出し分離。これにより、規則に変更があった場合はルールを変更するだけで対応できるシンプルな構造になるという。
シニアソリューションアーキテクト 梅野 昌彦 氏
後者では、COBOLで記述された費目の振り分けルールに適用。そのルールは数十万行に及ぶ規模で、適切に管理できる人材も社内にいなかった。そこで、BRMSの仕組みを使って整理し、新しいルールとして再構築。見える化とコスト削減の両立に成功したという。
「BRMSだけで解決できるのは約2割で、残り8割はBPMと一緒に使う」(梅野氏)とした上で、「業務とシステムを把握するコミュニケーションツールになること」「すばやく実装・実行でき、それが攻めの経営につながること」をメリットに挙げた。
パネルディスカッションでは類似ワードとの違いを再確認
続くパネルディスカッションの部。オラン代表取締役の木内里美氏(大成建設の元CIO)とレッドハットの梅野氏、SCSK ITエンジニアリング事業本部ミドルウェア部の石川愛彦氏が登壇し、BRMSの現在の位置付けやユーザー企業にもたらす価値などを討論した。モデレータを務めたのはIT Leaders編集長の田口潤である。
冒頭、進行役が来場者に向けて「BRMSの概念を理解できるか」「実際にBRMSに取り組んでいるか」と質問。その反応として、BRMSに関心を寄せているものの、BPMやBPR、BAという言葉や概念との使い分けに戸惑いを感じている空気が漂った。
これを受けて木内氏は、「ITキーワードは、語尾の単語から意味や目的を読み取れる」とアドバイス。BAは“アナリティクス”、BPRは“リエンジニアリング”、BPMは“マネジメント”である。一方、BRMSは“システム”であり、ルールを管理するツールという位置付けが明確になる。「何の工夫もなしにシステムを作り込むと変化対応が難しくなる。そこで、ルールを分離して管理することで、俊敏性、柔軟性を身に付けようという発想がBRMSだ」(木内氏)。
「BPMとBRMSが紛らわしく、ルールはどこにあるのかという質問をよく受ける」と梅野氏。両者の使い分けとして「より変化が速いものに適用するのがルールと説明している」(同)と明かした。
ルールは一般的に、取引金額の上限検知などの判断やデータそのものの属性チェック、マスター間のチェック、最大値や平均値などの計算などに使われるという。だが、何をルールとして切り離すかは、組織のあり方やシステムによって千差万別。そのため「ルールの方針決め、作成、実行、検証というPDCAサイクルを回していくことが何よりも大切になる。サイクルを回すほど成熟度が増し、変化への対応速度も増していく」(同)と会場に説明した。
SCSKの石川氏は、プロセスとルールを分ける際は、「プロセスのうち処理が分岐するところに注目するのがポイント」と持論を展開。分岐により作られているプロセスを切り出しルールで判断する形に変えるだけで、全体がシンプルになる。経営層がITシステムを容易に把握できる効果も見込める。この点を受け、梅野氏は「ビジネスとITとを密接に結び付けるニーズが強い米国では、BRMSを利用しないユーザー企業はほとんどない」と付け加えた。
ミドルウェア部 石川 愛彦 氏
討論の終盤では、業務を可視化し整理する意義がテーマに。企業内には、情報システムに組み込むルール以外に、業務規程や内規といった幾つもの決まり事がある。それらに整合性があれば良いが、継ぎ接ぎで凌いできた結果、問題を抱える例も少なくない。ここでBRMSには、「ルールを別建てで管理することで、様々な業務を可視化し、業務全体の最適化につなげる」(石川氏)という価値が期待できる。また、「業務に携わっている人は、As Isを示すことはできても、To Beを描くことが難しい場合がある。BRMSは、現場主導の改善において、ルールという別の視点を与える効果もある」(木内氏)との指摘もあり、会場は熱心に聞き入っていた。
多様なBRMSの適用形態
本質はビジネス実態の可視化
「BRMSを導入する具体的なアプローチ」をテーマとするセッションを担ったのはSCSKの石川氏。同社がレッドハットと戦略的な契約を締結したのは2009年のことだ。今や、国内でサポート件数600件の実績を持つ。今年はBRMSを活用できるエンジニアを100人規模で育成するという。
同氏はまず、BRMSの導入効果を「柔軟性」「可視化」「共通言語」という3つのキーワードで解説。次に、これまでの導入事例として、保険業界、通信業界、外食産業における取り組みを紹介した。
保険業界のケースでは、「請求内容チェック」「契約内容確認」「保険金給付計算」といった査定業務プロセスのうち、機械的に判定できる規程をルール化。これにより自動査定が可能になり、業務効率と査定品質が向上したという。
通信業界の事例は、複雑化する料金計算ルールを簡略化して、メンテナンス性を高めたことに見所がある。これまでキャリア、機種、プラン、割引サービス、契約年数などの条件を組み合わせる必要があったが、これを携帯機種ルール、料金プランルール、割引サービスルールなどにまとめる工夫を凝らして成功に導いた。
食材の仕入れ業務に適用したのが外食業界のケース。野菜、肉、調味料、レシピのデータと、営業時間、過去の実績、季節要因などのデータを組み合わせ、廃棄率と機会損失が最適になる仕入れ量を導き出している。
「BRMSは査定、可視化、計算など多様な使い方に対応する。アルゴリズムを作るのは人間だが、変動的な要素をルールにして自動処理することで、柔軟性を持ったシステムを具現化できる」(石川氏)。
実際の導入は、概ねウォーターフォール型の開発を採用するが、部分的には「目的とゴールを設定して評価を行いながら段階的に進める」アジャイル型を適用。同社のソリューションにおける大きな特徴は、Excelを使って日本語でルールを記述することができる点だ。最後に、石川氏は、プロトタイプを使った効果検証サービス(POCサービス)を1ヵ月300万円で提供していることを紹介しつつ、「BRMSは強力なツールでありながら、導入の敷居は高くない。是非、挑んでほしい」と締めくくった。
導入機運がますます高まるBRMS。2013年は先進事例がさらに増えることになりそうだ。
問い合わせ先
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IT エンジニアリング事業本部 ミドルウェア部
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