[イベントレポート]

モバイル時代の企業ITは、BPMとルールベース、SOAが鍵を握る

2013年5月7日(火)田口 潤(IT Leaders編集部)

米IBMのWebSphere事業部門が「モバイル最優先」を訴えるカンファレンスを開催した。といっても、単にモバイルデバイスの活用を提唱したわけではない。モバイル時代の企業情報システムのアーキテクチャや、システムの構成要素をあの手この手で伝えようと意図していた点で意義深い内容だった。

5つの原則をIBMの関連製品とともに説明

実は、初日の基調講演におけるIBMのメッセージはここまで。この後には、サービス指向でレガシーシステムとフロントシステムを連携させたディスカウントストア大手、ターゲットの講演などがあったものの、内容は上記の①~⑤を順次、事例やIBMの製品とともに解説する構成だったからだ。2時間の講演のうち、最初の30分少々が実質的な内容だったとも言える。この点で以下は読み飛ばして2日目の基調講演に進んでいただいても問題ない。

さて本題に戻ろう。ここから先の案内役は、WebSphere事業を統括するマリー・ウィック氏。まずアフリカでは電話の90%がモバイルフォンであり、1800万人がそれを銀行代わりに使っていること、ドイツの計測器/電子機器メーカーが販売担当者向けの製品情報提供に、モバイルを採用して業績を上げていることなどを話し、①のモバイル最優先を示した。

これに関連するIBMの製品はモバイルアプリケーションの開発・運用ツール「IBM Worklight」。最新版には、利用者のジェスチャ操作やバッテリの消費量などを開発者が把握できる機能、テストの自動化機能、操作が途切れても位置情報を利用して再開できる機能などを盛り込んだことをアピールした。4月中旬買収したアーバンコード社にも言及。同社のソフト配布を迅速化するツールによりモバイルアプリの開発・運用のサイクルを早められると説明した。

続いて②として、メキシコの金融会社、Financiera Independenciaが従来は数日かかっていたローンの審査・処理を数時間に短縮した例を紹介。この会社はBPM製品のBlueWorks Liveを使っている。だが、ウィック氏はIBM Business Process Manager/Operational Decision Managerといった製品のモバイル対応にも言及した。ODMは日本ではあまりなじみがないが、事前に設定したルールによってプロセス実行時に処理を変える、いわゆるルールベース管理システム(RBMS)である。「モバイルによる業務プロセスの中でBPMを活用することにより人とプロセス、情報を統合できる」(同氏)という。

大手ディスカウンタのターゲットは「サービス指向」でフロントとバックエンドを連携

③に関しては、大手ディスカウントチェーンのターゲットが登壇。部屋数が350もある実在の古い邸宅(写真5)を例に、「建築家も青写真もない中で147の建築業者が関与した家には、どこにもつながらないドアがある。当社の既存システムは、それと同様だった。チャネル毎にシステムを作ってきたため、つながらないドアがあった」と過去を振り返った。

写真5:既存システムは、147の建築業者が関与した家のようだった

同社は店舗、コンタクトセンター、オンラインという3つのチャネルと、バックエンドのシステムを個別に連携させていた(写真6左)。開発・保守費用は高止まりし、チャネルによってできることに違いも生じていた。そこでIBM Integration BusやMQ、WebSphereといったSOA&メッセージ連携のミドルウェアを導入。写真6右の構成にすることで「どこにもつながらないドアをシステムから排除できた」(ターゲット)。

写真6-1:旧来のシステム構成
写真6-2:再構成後のシステム構成

 









④の洞察はどうか?ここでは環境調査専門の研究機関であるDesert Research Institute(DRI)が登壇。天候や水害に関わる大量のデータを蓄積し、分析する基盤にPureData System、PureApplication Systemを採用して成果を上げていることを説明した。「他の研究機関が作成した分析アプリケーションのパターンを使える。導入から9ヵ月で研究活動に欠かせない基盤になった」(同社)という。

その後、IBMの再びウィック氏が登場し、PureSystemsの現状を説明した。世界90ヵ国で4000台が利用されている、375社のパートナーによる多数のバターンが開発されており、電子商取引やソーシャルのパターンもある、PureDataはHadoopをサポートするし、インメモリー処理が特徴のDB2 BLUを稼働できる、といったことだ。PureSystemsの実績を公表したのはおそらく初めてだろう。

最後の⑤については、「IBMのクラウドは、JavaスクリプトやOpenStackをサポートする。Open Service for Lifecycle Collaboration、OASIS Toscaなどを含めて、業界で最もオープンで包括的なサービスだ」という。それが事実かどうかはさておき、IBMはAmazonやRackspace、MicrosoftやSalesforceに比べ、クラウドではやや劣勢。PureSystemsとの相互運用性とオープンであることの強調を通じて巻き返したい考えのようだ。

最後に、アカデミー賞の主演男優賞の受賞者であり、アフリカの紛争解決に尽力するピースアース財団の主宰者でもある俳優のForest Whitaker氏が登壇。IBMのモバイルソリューション&WebSphereマーケティング担当のクリスティン・ローリア副社長を相手に、「紛争の解決には、教育や情報の共有が大事。モバイルの時代になって、仕事がやりやすくなった。データを集め、紛争の予兆を把握することも可能だ」など、テクノロジーの貢献を語った(写真7)。とはいえ、何らかの示唆に富む話があったわけではない。

写真7:俳優のForest Whitaker氏(右)とIBMのクリスティン・ローリア副社長
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