[シリコンバレー最前線]

シリコンバレーに「海賊船」が出現、世界中から起業家を集める

2013年5月28日(火)山谷 正己(米Just Skill 社長)

シリコンバレーは起業家に優しい地域だが、外国人が伝手なしに起業するとなると、そう簡単にはいかない。就業ビザを取得できないからだ。ある起業家たちがそれを可能にするために立ち上がった。

1999年、ノースイースタン大学の学生であったショーン・ファニングは趣味が高じてP2P(Peer-to-Peer)を使ったミュージック交換サイトNapsterを立ち上げたところ大人気になり、起業した。その後、マサチューセッツ州からシリコンバレーのサンマテオ市に会社を移転した。

2004年1月、ハーバード大学生であったマーク・ザッカ—バーグ氏(現FacebookのCEO)は、ソーシャルネットワーキングThe Facebookを学生寮で始めた。同年6月にはシリコンバレーのパロアルト市に移って、ピーター・シール氏(シリコンバレーで著名なエンジェル投資家)から初めての投資を受けた。その後、名称をFacebookに変えた。

2010年4月、ニューヨーク大学の学生4名が、Facebookよりも安全なソーシャルネットワーキングをオープンソースとして開発するべく、Diasporaを起業した。彼らはニューヨークでシードマネーを集めて、3カ月後にサンフランシスコに会社を移した。

こうした例は枚挙にいとまがない。アメリカ国内からだけではなく、イスラエル、フランス、北欧、ロシアなど、世界中からシリコンバレーにやってくる。最初に自国で起業して軌道に乗るや、シリコンバレーに拠点を移したり、第二本社を開設する外国企業も多い。Check Point Software、Talend、Zend Technolo-giesなどがその例だ。だからシリコンバレーの住民の36%は、外国生れなのである(先月号の当コラム参照)。

外国人が当地で仕事をするには

外国人がアメリカの会社に就職する場合は、その人を雇用する会社がスポンサーになって、就業ビザの申請を行ってくれる。外国企業がアメリカに支社を作って、そこに社員を赴任させるのも簡単である。しかるべき資金を用意し、会社の登記と従業員の就業ビザを申請すればよい。それに加えて、アメリカ人を10人も雇用すれば、その会社の管理者は永住ビザを取得できる。

こうした後ろ盾がある場合は別として、ゼロから起業するとなると、そう簡単にはいかない。まず就業ビザを取得できない。海外からの留学生がスタンフォード大学のMBAを卒業後、シリコンバレーで起業するために就業ビザを申請したが、拒否された例がある。ましてやシリコンバレーにふらっとやってきただけでは起業することはできない。就業ビザをはじめ、いろいろな課題をクリアーしなればならない。

就業ビザ無しでも、シリコンバレーで起業したい世界の若者たちの夢を叶えるにはどうしたらよいだろうか。この課題に挑戦している「起業家たち」がいる。2011年7月にBlueseed(ブルーシード、図1)を設立した同社CEOのマック・マーティ氏とCIOのダン・ダスカレスク氏である。両氏は、国際公海に海上都市を建設する研究を行っているNPOのThe Sea-steading Instituteで知り合った。ダスカレスク氏は元Yahooのソフトウェアエンジニアを務めていたこともある。

Blueseedは、シリコンバレーの西海岸に位置するハーフムーンベイから12海里(22キロメートル)沖合の太平洋の公海域に大型クルーザ船を碇泊させ、それを外国人の起業家の住居と仕事場として提供する構想である。まさに海上の学生寮兼インキュベーションセンターだ。

同社は2012年12月に、エンジェル投資家4名とベンチャーキャピタル2社からシードマネーとして30万ドルの投資を受けた。その後、さらに投資を集めたようだが、公開されていない。運営に関しては法律事務所、米国内外の起業支援組織、ベンチャーキャピタルなど計65組織が支援を行っている。

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