シリコンバレーのハイテクと言えば、「クラウド」「ビッグデータ」「ソーシャルメディア」などが思い浮かぶ。これらITに続き拡大しているのが、医薬や治療法、生命科学、医療のためのITなど、「ヘルステック(health tech)」と呼ばれる領域である。
シリコンバレーには、バイオ医療系企業が集まる地域がある。サンフランシスコ空港の北に位置するサウスサンフランシスコ市がその1つだ(図1)。先進医薬会社であるGenentechやCell Genesysをはじめ、製薬会社が軒を連ねている。Genentechは心筋梗塞と乳がんの治療薬、およびその化学療法の開発で名を馳せた。最近はアルツハイマー病の進行を遅らせるための治療法に取り組んでいる。Cell Genesysは前立腺がんワクチンなどで有名だ。サンフランシスコ湾の東側のフリーモント地区には、神経痛や、がんの鎮痛薬で有名なDepomedをはじめ、バイオ系スタートアップ企業が林立している。
さらに、シリコンバンレー南部にある「エデンベール・テクノロジパーク」には、太陽光エネルギーなどのハイテク企業に並び、注射剤や薬剤投与管理システムを提供するHospiraといった医療サービス会社が集まっている。サンノゼ州立大学の研究財団が運営するSan Jose BioCenterも、同地区にある。同センターは、生命科学を中心としたスタートアップ向けのインキュベーションセンターとして2004年に設立された。
「強い米国」に向け医療ITを推進
アメリカでは、2008年に起きた金融危機を踏まえて、「アメリカ再生・再投資法(American Recovery and Rein-vestment Act:ARRA)」が2009年から施行されている。連邦政府が2009年から2019年までに、将来に向けて重要なインフラストラクチャと、教育、医療、再生可能エネルギーの分野に総額8310億ドルを投資する。内訳は、医療に1551億ドル(そのうち医療ITに258億ドル)、教育に1000億ドル、インフラストラクチャには1053億ドルを計上している。
ARRAの下、医療分野では、医療保険制度を抜本的に見直すとともに、医療サービスの質的向上および経費削減のためにITを積極的に活用する。米国政府は2005年から、「電子健康記録(Electronic Health Record: EHR)」と「全米医療情報ネットワーク(Nation-wide Health Information Network:NHIN)」の普及に取り組んでいる。EHRは、患者に関する紙のカルテや心電図などの検査データを電子化して医療機関が一元管理するための仕組みである。NHINは、各種の医療サービス機関(病院、患者、薬局、政府機関、保険会社など)が個々に運営している医療ITシステムを連携するためのプロジェクトだ。いずれも保健福祉省が普及促進を監督している。
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