[市場動向]

「イノベーション・カフェ」の議論はIT責任者に向けた面白い仕事の実践法だった!

2015年2月19日(木)田口 潤(IT Leaders編集部)

本サイト「是正勧告」の執筆者である木内里美氏が「イノベーション・カフェ」というシンポジウムを開催するというので、それほど気乗りしないまま出かけてきた。イノベーションはそう軽々に実践できるものではないと思うからである。それは、いい意味で裏切られた。プログラムにあったグループディスカッションには参加せず、2つの講演を聴いただけだが、読者にお伝えすべきと思える示唆が少なからずあったのだ。

 冒頭に結論めいたことを書いておくと、「ある程度の大手企業なら、仮に失敗しても給料はもらえる。自己破産する可能性はないし、個人保証する必要もな い。しかも会社の金が使える。そうであるなら、成果主義や周囲の意向に囚われすぎず、自分がやりたい何かをやるべき」というメッセージだった。

事業開発イノベーターの本音が聞けるとあって会場には多くの参加者が詰めかけた

社内イノベータとは「青黒い人材」である

 講演の1つは、リコーにおいて研究開発本部・未来技術総合研究センター所長を務め、現在はクリエイブルという会社を主宰する瀬川秀樹氏による、「あきらめは悪いぐらいでいい」。あきらめが悪い=企業内での足掻き方、がテーマである。大半の企業は本質的に保守的な面を持つが、そこで何らかの新しいチャレンジをするためには、あきらめずに足掻くことが必要というわけだ。

 しかし、やみくもに足掻けばいいわけではない。瀬川氏は、足掻いて成果につなげられるタイプの人を"青黒い人"と表現する(写真1)。「青臭いけれども高い志を持ち、同時に腹黒い社内政治力を併せ持つ人です。直球と変化球を兼ね備えるんです。壁にぶつかっても、ぬるっとすり抜けられる巧みさです」(瀬川氏)。

写真1 瀬川氏の言う「青黒い人」のイメージ
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 「言うは易し、行うは難し」だが、もちろん言うだけではない。瀬川氏は自身の仕事の1つを具体例として紹介した。「年収30万円以下で暮らす人は、世界中にたくさんいます。2008年、そうしたBOP(ボトム・オブ・ピラミッド)の人を対象にする、新規事業の創出と社会貢献を目指したプロジェクトを企画しました。日本をはじめ先進国だけのビジネスは限界が見えており、リコーのメリットと社会のメリットの両方を追求することを考えたわけです」。

 とはいえ、BOPだけにリコーの主力商品である複合機や複写機を持っていっても売れるわけではない。「まず現地に住んで観察し、ニーズをすくい上げなくてはなりません。ターゲットはバングラディシュです」。ここまでは青黒いのうちの青だろう。だがすぐ壁に突き当たる。折悪しくリーマンショックが起き、リコーでも海外出張が原則禁止など、緊縮モードになったのだ。プロジェクトを進めたい瀬川氏はあの手この手で経営層にアプローチするなど足掻きまくった。「紆余曲折あって、"なんでバングラディシュか。(BRICSの一角である)インドなら考えてもいい"という話になりました。すぐに方針転換してインドでやることに決めました」。

 次に人選。どの部門もエース級の人材は出してくれない。潤沢に人材がいる部署はないし、訳の分からないBOPのプロジェクトにスタッフを出したい部門長はいなかったのだ。そこで上司や経営層に相談を重ねる(写真2)。辿り着いたのが、行きたい人の中から選ぶ、つまり社内公募である。注意したのは「現在の仕事から逃げたい人を選ばないこと」。さらに選んだ人の上司とはきちんと話合い、納得してもらった。

写真2 メンバーの人選方法にも工夫を凝らした
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 そうやって選んだ数人をインドに送り込み、現地で生活をさせた。そこから200近いアイデアが生まれ、現在は2つを事業化させている。1つは、プリントショップ=移動写真屋(写真3)。「現地の人は何かあると集まるし、みんな写真が大好きです。ところが、写真屋がありませんでした。そこでオートバイにプリンタなどを積んで、移動写真屋を手掛けています。お祭りなどに出かけると、大賑わいになります」。

写真3 現地で実践したアイデアの1つ「Print Shop」
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 もう1つは女性向けの店の展開。女性の社会進出が遅れるインドでは店員はほぼ男性。リコーが現地に送り込んだ女性が下着1枚買うのも躊躇するほどだった。「そこで女性を店長にした、女性向け用品を販売する店を開きました。やってみると大好評で、現在は36店になっています。現地の人が思いつかなかったニーズを掘り起こしたんです」。

 とはいえ移動写真屋の売り上げはリコー本社から見れば微々たるものだし、女性向けの店は社会貢献ではあってもリコーの事業とは関係が薄い。「その通りで、目的の1つである新規事業の創出はできていません。実際、単なる人材育成ではとか、色々言われながら、足掻きながらやってきました(写真4)。そうした経験を通じて思うのは"仕事"の意味です。"会社に仕えてコトをする"と捉えるのではなく、レ点を入れて見てください。すると''コト'に仕える''になります。それが仕事の本質でしょう」。

写真4 仕事の“意味”を改めて考える機会になった
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 さらにこう締め括った。「"どうせokがでない"、"どうせダメだろ"は自分にも周囲にも禁句にしてきました。何もしないことの理由だからです。言っていいのは''どうせ人は死ぬ。だから何かをやる''という場合だけ。特にリコーのような大企業は何かあっても給料はもらえるし、会社の費用を使える。だから何かをやるべきでしょう」。

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