SCMを変革する「ワンデータ・トランザクション」─モノと情報を一体化し、全プレーヤーが同時に動く:第1回
2015年10月13日(火)浅川 智哉(シグマクシス デジタルフォース グループ マネージャー)
SCM(Supply Chain Management:サプライチェーンマネジメント)を支えるシステムはこれまで、モノを「作る、運ぶ、保管する、売る」といったプロセスにそって、それぞれが必要とする情報を管理してきた。しかし、インターネットやクラウドコンピューティングが急速に普及してきた今、これらの情報は高度に、かつ能動的に利用できる形で管理されなければならない。そのための仕組みを筆者らは、「ワンデータ・トランザクション」と呼んでいる。第1回は、このワンデータ・トランザクションの定義と、それがSCMに与えるインパクトの全体像を紹介する。
●小売業者にとってのメリット
POSや棚レベルの状況から発注をリアルタイムで共有できるため、店舗への商品の自動補充ができるようになる。補充リードタイムも短縮でき、販売機会ロスを低減できる。発注業務を省略することで、オペレーションコストも低減できる。
●メーカーにとってのメリット
消費者の需要や小売りの在庫状況を把握できるため、卸や小売りへのオンタイムの発送や、原材料の自動補充/発注、予測、ATP(Available To Promise:販売可能枠)の精度を高められる。
例えば、米デルモンテ社のケースでは、RTVNを導入して1年で、販売予測精度を約20%向上させている。これによって製造原価はさらに低減し、生産計画サイクルの回転スピードアップも可能になり、生産計画の精度が高まればサプライヤーからの信頼も高まって、生産ラインの早期枠取りも容易になる。これは調達リードタイムの短縮を可能にする。
●サプライヤーにとってのメリット
メーカーよりさらに下流の情報が取得できるため、取引条件を明確にしたうえで、複数のメーカー間との生産調整ができるようになる。従来のようにメーカーからの予測情報をもとに生産していると、在庫リスクを常に負うことになるが、それも回避できる。米国自動車部品メーカーの例では、RTVN導入で、原材料在庫15%、製品在庫を20%、1年間で削減した。
精度の高い情報を早期に入手できれば、生産計画の最適化が図れ、メーカーへの補充を自動化・リアルタイム化することも可能になる。その結果、製造原価の低減と生産や納期に必要なリードタイムの短縮が実現できる。
●物流事業者のメリット
早い段階で出荷の計画情報が分かることで、アセット(人やトラック等)の効率的な手配や庫内業務の最適化が図れる。オンタイムでの集荷や輸配送が可能になり、輸配送コストの削減と物流サービスレベルを向上が実現できる。
産業構造における各プレーヤーの役割が変わる
ワンデータ・トランザクションにより、SCMの考え方そのものが大きく変わる。平たく表現すれば、「それぞれの事情と基準で“鉛筆をなめながら”作った情報を封筒に入れて次のプレーヤーに渡す」というこれまでのやり方から、「各人が持つ最新情報を掲示板に張り出し、それをみんなが見ながら動く」というやり方に変化する。
それだけに、現状の業務へのインパクトが生じることは、正直いって避けられない。しかし、情報共有のリアルタイム性が高まり、需要変動へのリアクションタイムが短縮される。結果として想定外の事象が最小化され、計画と実行のギャップも解消されるようになる。つまり、「計画イコール実績」となるような時代がやってくるのだ。
産業全体で見れば、各プレーヤーの役割自体の変化が起きるだろう。在庫がなくなった物流センターは、配送のための仕分けが主業務として残りTC(Transfer Center)化することが考えられる。工場はあたかもMTS(見込み生産)をMTO(受注生産)のように扱うようになるだろう。サプライチェーン全体でデカップリングポイントが上流へとシフトすることが考えられる。
業務や産業構造の変化が起きても、サプライチェーンがサプライチェーンであることは変わらない。それがSCMの世界の特徴だ。だが、ワンデータ・トランザクションは新たな価値創造の源泉になるだろう。日本のサプライチェーンの世界には独特の商慣習があるのは事実だとしても、グローバルな競争からはもはや逃れることはできない。新たなSCMへのブレークスルーを実現する時期が到来している。
次回からは、需給調整・販売、調達・製造、ロジスティクスなどの各領域において、ワンデータ・トランザクションによって生み出される、それぞれの姿を深堀していく。
筆者プロフィール
浅川智哉(あさかわ・ともや)
シグマクシス デジタルフォース グループ マネージャー。IT企業、個人事業主を経て、シグマクシスに入社。SCM全般に関わる業務改革・再構築、計画系・実行系のシステム構築、企業パフォーマンス管理に関わる管理会計業務構築等を経験。特に需給管理、販売管理、生産管理を専門領域とする。
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