[ワンデータ・トランザクションが実現するSCMの未来]

IoT時代にワンデータ・トランザクションが生み出す新たなビジネスモデル:第5回

これからは「共創プラットフォームモデル」の時代

2016年2月29日(月)桐原 慎也(シグマクシス デジタルフォースグループ ディレクター)

これまで、「ワンデータ・トランザクション」というコンセプトがSCM(Supply Chain Management)をどう変えるかについて、需給計画、生産、物流といった業務の切り口から考察してきた。今後はさらに、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)により、リアルな世界から取得した多種多様なデータの活用が可能になる。ワンデータ・トランザクション型のSCMは、IoT社会を支える基盤へと進化する。今回はIoTの切り口から、ビジネスモデルがどう変化するかを考察する。

 IoT(Internet of Things:モノのインターネット)への期待・関心が高まっている。センシング技術の発達や、クラウド環境の整備が背景にある。IoTは様々な要素技術の集合体であり、実際にビジネスにインパクトを与えられるだけの仕組みにするためには、いくつかの考慮点がある。その詳細は別に譲るとして、モノづくりの領域においては既に、IoTのためのプラットフォームサービスの提供に向けて、自らの事業範囲をストレッチさせているプレーヤーが出現しつつある。

データから付加価値を生む“プラットフォーマー”目指す

特に、モノを提供していた製造業が、モノを取り巻くバリューネットワーク全体のデータを統合し、そこから高付加価値なサービスを提供する“プラットフォーマー”に進化しようという動きが顕著だ。その立ち位置は、部品メーカー、主機メーカー、ソフトウェアメーカーとさまざまだが、どの企業もIoTが進化した世界を見据えて動いている。

 欧米の先進プレーヤーの代表は米GEと独シーメンスだ。GEは自社製品であるエンジンやタービンで蓄積した知見を活用し、「Predix」というプラットフォームサービスを様々な業種に展開しつつある。CEOのジェフリー・イメルト氏は2011年に「GEはソフトウェア/アナリティクス企業になる必要がある」と宣言。Predixのコアとなるソフトウェアの開発・サポート会社への出資や、「Industrial Internet Consortium」という業界団体の立ち上げなど、同プラットフォームのエコシステム確立に余念がない。

 一方のシーメンスは、PLM(Product Lifecycle Management)、CAD(Computer Aided Design)/CAE(Computer Aided Engineering)といった製造業向けソフトウェア事業も展開している強みを活かし、組み立て、ロジスティクス、マテリアルフローなどの各種データをデジタル化し、シミュレーションを通じて現場でのトライ&エラーを減少するソリューションを展開している。現場で働くエンジニアにモーションキャプチャーを装着し、人の行動データも取り込むなど、バリューネットワーク全体をコントロールするためのソリュ―ションを志向している。

 日本国内にも先進的なプレーヤーは存在する。オムロンがその1社。自社商品であるデバイス10万品種を標準化し、自社のインテリジェントコントローラー「Sysmac」を介して、工場全体に散らばるセンシングデバイスの情報を統合・分析する環境を整えつつある。滋賀県の草津と綾部、中国の上海にある自社工場をテストベッドに、解析や業務/サービスのためのノウハウ蓄積に取り組んでいる。

 産業用多関節ロボットの世界的なリーディングカンパニーであるファナックは2016年1月、「ゼロダウンタイム機能(ZDT)」の年内提供開始を発表した。気温や生産サイクル、機械の稼働状況など様々なデータを収集・解析することで、ベアリングやトランスデューサーといった部品の損耗・故障を検知し、工場の総合設備効率(OEE)を高めるサービスである。

 注目すべきは、故障が発生する前に交換部品を発送するサービスの提供を見据えていることだ。現場データの高度な解析から得られる故障予知情報をトリガーに、部品サプライヤーが連動して動くことで“壊れる前に治す”というモデルは、本連載で語ってきたワンデータ・トランザクション型SCMの典型的な発展形だと言える。

ビジネスモデルは交換価値から共創価値へ変革する

 このように製造業においては、IoTのビジネスへの活用に向けて主要プレーヤーによる競争が始まっている。その背景には、世の中全体のビジネスモデルが大きな変曲点を迎えているという事実がある。

 これまでのビジネスモデルは「交換価値」で成り立っていた。すなわちモノやサービスを作って販売会社に卸し、それを販売会社がエンドユーザーに販売するというプロセスから生まれる価値が拠り所だ。モノやサービスを金銭と交換する瞬間にビジネスが成立し、提供者側は交換価値を最大化するために“情報格差”をうまく活用し、いかに優位に立てるかが勝負だった。

 各プレーヤーは自分に不利なデータは隠し“駆け引き”する。従来型SCMの「手紙を封筒に入れて情報を渡すモデル」で例えれば、プレーヤーは手紙に書く情報や渡すタイミングを自分にとっての価値が最大化する状態にコントロールしようとする。しかしデジタル化の進展と共に、この交換価値によるビジネスが成立しにくくなっている。

 代わって萌芽しつつあるのが、各プレーヤーがプラットフォームを介して付加価値を提供し合う「共創プラットフォームモデル」だ(図1)。ここでの軸は「共創」にあり、プラットフォーム上でいかに他者と連携し合い、その瞬間での“価値最大化“にそれぞれが貢献できるかどうかが重要になる。

図1:「共創プラットフォームモデル」では各プレーヤーがプラットフォームを介して付加価値を提供し合う図1:「共創プラットフォームモデル」では各プレーヤーがプラットフォームを介して付加価値を提供し合う
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  そこでは、情報格差をつけるために情報を隠すなど利己的な行動に出るプレーヤーは、プラットフォームから追い出される。各プレーヤーが牽制を始めた瞬間に、プラットフォームは負のループに陥り機能しなくなるからだ。逆に、各プレーヤーが全体最適を目指し、積極的に協調するようなプラットフォームを構築したプレーヤーは、ビジネスを指数関数的に急成長させることが可能になる。

 例えば、B2B(Business to Business:企業間)の世界では、ユニクロと東レが「Industry6.0」と称する共創プラットフォームモデルで成功している。ユニクロの実店舗やEC(Electronic Commerce:電子商取引)で蓄積した消費者のデータと、東レのSCMを融合するプラットフォームを実現。消費者ニーズを満たす素材開発・消費開発を推進することで収益拡大に成功している。

 医療業界でも患者の情報と、医療サービス提供者側の情報を融合するプラットフォームサービスが出現しつつある。米医療機関が構築する「バーチャルケアセンター」は、患者や一般消費者から、医師、看護師、専門家、病院、健康センターまでの関連情報をプラットフォーム上に一元的に蓄積し、患者と医者の双方がWin-Winになるような情報提供とマッチングに成功している。昨今話題の米Uber Technologiesや米AirBnBも、C2C(Consumer to Consumer:個人間)を対象にした共創プラットフォームの構築に成功したことで、急成長を遂げているわけだ。

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