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AI+IoTによる自動運転は何を変革するのか?

2015年11月16日(月)大和 敏彦

2020年の実用化を目指して車の自動運転に焦点が当たっている。自動運転を自動車の機能強化と考えるのか、自動車の構造そのものの変革の契機ととらえるのか、あるいは移動・運送手段の変革に結びつくものととらえるのかでは、その変革に対するアプローチは異なり、期待成果も大きく違ってくる。今回は、自動車の自動運転を例に、人工知能とIoT(Internet of Things:モノのインターネット)による変革を考えてみたい。

 国土交通省が2020年初頭に車の自動運転の実現を目指すロードマップを示し、政府を中心に「自動走行システム」の国家プロジェクトを立ち上げた。同プロジェクトは2020年後半までに「完全自動走行」の実現を目指す。これに向けて自動車業界各社の動きは盛んで、様々なアナウンスが続いている(表1)。

表1:自動運転に向けた自動車業界各社のアナウンスの例表1:自動運転に向けた自動車業界各社のアナウンスの例
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 自動運転は様々な技術が複合して可能になる。カメラやレーザー光センサー、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)などからの情報によって周囲の環境を認識し、地図や交通ルールを基に人工知能が判断して車を操作する。

 センサーの技術も大事ではあるが、それらの情報を基にリアルタイムに走行判断を下す人工知能が大きな役割を果たす。そのため、人工知能分野で高い技術力を持つNASA(National Aeronautics and Space Administration:米航空宇宙局)や米MITのCSAIL(Computer Science and Artificial Intelligence Laboratory:コンピュータ科学・人工知能研究所)、米スタンフォード大のSAIL(Stanford Artificial Intelligence Laboratory:スタンフォード人工知能研究所)との提携も進んでいる。

実用化に向けた技術開発と法整備が進展中

 NHTSA(National Highway Traffic Safety Administration:米国運輸省道路交通安全局)は、自動運転のレベルを以下のように定義している。

レベル0:自動化なし。主制御系統(加速・操舵・制動)の操作をドライバーが常に行う
レベル1:個々の機能の自動化。主制御系統のうちの1つ以上を自動的に行う。機能の連動はない
レベル2:複合機能の自動化。主制御系統のうち2つ以上を連動させて自動的に行う
レベル3:半自動化。主制御系統のすべてを自動化しているが、ドライバーは常時、運転状況を監視し、緊急時やシステムの限界時に応じる必要がある。
レベル4:完全自動化。ドライバーなしの状況や、ドライバーが適切に応じなかった場合でも、自動化された運転システムが運転操作を行う

 米国などでのデモ走行に関する発表によれば、既にレベル3の実現に向かっている。最適なルートを選び、道路標識を読み、その意味を理解して、道路に沿って前の車と指定した距離を保ち、目的地までルールに従って運転するという通常運転であれば実用に近づいている。

 レベル4の完全自動運転のためには、完成度の向上と法的な整備が必要になる。完成度を高める際には、どこまでの不測の事態を想定して備えるかの検討も重要になる。工場や物流基地、鉱山といった敷地内では、異常事態の可能性は少ないが、公道では様々な異常事態が発生する可能性があるためだ。

 具体的には、人の飛び出しや周りを走っている車の異常な挙動、地震などの災害といった外部要因に基づく異常状況、ハードウェアやソフトウェアの故障、さらに、これら複数の異常事態の組み合わせが発生する可能性がある。それらのどこまでを想定して対応するかを検討しなければいけない。

 通常のソフトウェアでも、異常に対する対応は課題だ。だが、通常のソフトウェアで許される強制終了やリスタートは、高速で移動中の自動車には許されない。セキュリティの脅威に対する対策も同様である。ウイルスによる誤動作、サイバー攻撃による妨害や停止、乗っ取りなどが起これば大変な事故につながりかねない。セキュリティ対策やサイバー攻撃への対応のレベルも考慮の対象になる(関連記事『成功するIoTのための実践計画』)。

 法制度も自動運転を考慮する必要がある。レベル3の自動運転に関しては、2014年にジュネーブ道路交通条約が「常時、人間の運転が必要である」から「人間によるオーバーライド(優先制御)と自動運転機能のオフが可能であれば規制しない」と変更されている。これに伴い、世界各国で法整備が進められている。日本でも警察庁が2015年10月15日、「ドライバーを必要とせずハンドルもない自動運転車が事故を起こした場合の責任の所在などについて法的検討を始める」と、レベル4対応の検討開始を発表した。

ソフトウェアが自動車の価値を決める時代に

 技術開発と法的整備によって、機能としての自動運転が2020年を目指して実用化に向かえば、人工知能の能力が自動車の価値を左右するようになる。そこでは、ソフトウェアの価値が高まり、ソフトウェアのアップデートや追加が必須になる。当然、それを受け入れる製品自体も変わらなければいけない。

 米Tesla Motorsは、「Software Defined Car(SDC)」すなわちソフトウェアによって変化する車を実現しようとしている。恒常的に進化するソフトウェアが、無線LANなど通じて車にダウンロードされ、車の機能を変える。Tesla用ソフトウェアの最新版である「Ver7」では、バージョンアップにより操舵と車線変更、速度変更などの自動運転機能を追加した。

 これまでも自動車に組み込まれたソフトウェアは、バクの修正や小規模な改善、セキュリティ対策の修正の時のみソフトウェアのアップデートが実施さてきた。しかしSDCでは、ソフトウェアがより大きな役割を持ち機能の変更や追加を可能にする。

 既に多くの自動車にはセンサーなど優れたハードウェアが組み込まれている。ソフトウェアアップデートが可能になれば、自動運転機能だけでなく、個人向けのカスタマイズや、高度なセキュリティ機能、リモートコントロール、エンターテイメントといった各種アプリケーションによって、自動車に新しい価値を与えられるようになる。

 SDCのアプローチは、スマートフォン同様、自動車のプラットフォーム化である。であれば、プラットフォームとしての自動車は走行の安心・安全のために、センサー等の新しいハードウェアだけでなく、故障による停止をなくすフォールトトレラントなハードウェアの実装と同時にソフトウェア検証の仕組みの強化も必要になる。

 加えて、常時接続の環境も不可欠になるだろう。ソフトウェアのアップデートだけでなく、走行のための情報収集、走行中の自動車の詳細データの収集、様々なセンサーによる環境に関するデータの収集も必要になるからだ。これらデータにより、自動車の予兆診断だけでなく、自動車や利用者に対するアプリケーションが生まれるだろう。それらの機能もソフトウェアのグレードアップや追加によって使用可能になる。

 自動運転を単に自動車の追加機能として考えるのではなく、ソフトウェアによる車の価値の再定義のきっかけだととらえれば、SDCのようなドラスティックなアプローチが有効になり、さらなる進化につながる。

ハンドルもペダルもない自動車が提供する価値とは

 ここまでは、自動車の機能変革、構造変革という視点で見てきた。だが、もう少し視点を高めると、別のアプローチが考えられる。その一例が米Googleの取り組みである。

 Googleは既に、完全自動運転(レベル4)のプロトタイプを発表。その試験車による米シリコンバレー地域の公道での試験計画も発表している。このプロトタイプは、DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:米国防総省高等研究計画局)が2004年から実施していた未舗装路/舗装路における完全自動制御のロボットカーレースで培った技術や経験者をベースに開発したものだ。

 同プロトタイプには 、ハンドルもアクセスペダルもブレーキペダルもない。これまでの自動車の概念とは異なる人やモノの移動手段を提供する。この変革は、自動車の形だけでなく、自動車の中での過ごし方も大きく変えていく。移動と情報が結び付くことで新しい価値が生まれ、その価値はソフトウェアのアップデートや追加によって実現される。

 この価値を実現するためには、自動車の変革だけでなく、プロセスやビジネスモデルの変革も起こる。新しい移動・運送手段を最もうまく利用できるビジネスモデルが必要になる。この分野でも、Googleだけでなく色々な企業が動き出している。

 タクシーの配車サービスで脚光を浴びる米Uber Technologiesも、自動運転に関して投資していると言われる。「自分の車を使ってお金稼ぎをしたい人と、車で移動したい人をマッチングするサービス」としてのビジネスモデルやプロセスを作り出してきた同社だが、移動と情報による価値をビジネスモデルで実現する会社に進化するかもしれない。

 日本でも2015年5月29日、ZMPとDeNA(ディー・エヌ・エー)が、自動運転技術を活用した旅客運送事業の実現に向けた研究・開発などを行う合弁会社の設立に合意したと発表している。移動・運送の手段として自動運転を見ると、その情報の活用やプロセス、ビジネスモデルが変革のターゲットになる。

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