IoT(Internet of Things:モノのインターネット)を事業に生かそうと、全世界で多くのプロジェクトが動き出している。そうした中、日本発のプラットフォームとして注目を集めるのがTRON。発案者である東京大学教授の坂村健氏は今も、住宅やスマートシティを含め、今日のIoTアプリケーションの実現を推進している。東京大学医療社会システム工学寄付講座とベリサーブが2015年12月2日に開いた共同シンポジウムの基調講演に登壇した坂村氏の「IoTの可能性と課題」と題した講演から紹介する。
東京大学医療社会システム工学寄付講座とベリサーブが共同で開催したシンポジウムのテーマは「品質イノベーションの追求」。東大とベリサーブが長年、ソフトウェア開発における品質について共同研究したり、医療社会システム工学寄付講座では、医療現場における品質をテーマにした研究をベリサーブが支援したりしてきたことが背景にある。
同シンポジウムの基調講演に登壇した東京大学 情報学環ユビキタス情報社会基盤研究センター長である坂村健教授は冒頭、品質向上に向けては、「標準化と、テスト、そして開発手法の根本的な見直しの3つが重要だ」と指摘したうえで、自身が取り組んできたTRON(The Real-time Operating system Nucleus)についても「オープンにすることでデファクト(事実上の標準)を作る標準化のプロジェクトである」と口火を切った。
TRONは、1984年にスタートした組み込み用OSを核にしたマイクロプロセサや開発環境、その応用分野の確立を目指す日本発のプロジェクトである。現在も、TRONフォーラムがプロジェクトを牽引する。
海外勢が圧倒するIT分野にあって、TRONはグローバルなエコシステムを構築できている数少ない例の1つだろう。家電製品や車載製品、さらには探査機「はやぶさ」や宇宙ヨットの「イカロス」などにも搭載されている(図1)。最近は、「アフリカにおけるTRONへの期待が高まっている」(坂村氏)という。「“3000円携帯”といった安価なデバイスの開発ニーズが強いためだ」(同氏)。
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TRONで坂村氏らが実現しようとしたのは、いわゆる“ユビキタス(いつでも、どこでも、誰でも)”な環境だ。現在、ユビキタスといえば、スマートフォンやウェアラブル端末などハードウェアを指す言葉として使われることもあるが、本来は、人が何かしようとしたときに必要なIT環境が、いつでも利用できる状態を創り出そうというものであり、その考え方は今のIoT(Internet of Things:モノのインターネット)における各種のスマート化の取り組みと共通だ。
坂村教授は、TRONプロジェクトで作成したいくつかのプロトタイプを示しながら、「いずれも公表時には、まったく受けなかった」と話す。具体的には、2003年に開発した「UC(Ubiquitous Communicator)Prototype」や翌2004年に開発した「Wearable UC」などである。前者は今で言うスマートフォン、後者は時計型ウェアラブル端末だ。
しかし、坂村氏の功績は、海外では高く評価されている。2015年5月、国際電気通信連合(ITU)がジュネーブで開催したITUの150周年記念式典において、「ITU150周年賞」を受けている。TRONが掲げた「コンピュータを身の回りのあらゆる“モノ”に埋め込み、それらをネットワークで結び、互いに協調動作させることで、人間生活をあらゆる面から支援するコンピュータシステム」というコンセプトがIoTのルーツであり、IoTの最初の提唱者であることが受賞理由だ。
●Next:坂村氏が説くIoT/ユビキタスで最も重要なこと
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