[ベテランCIOが語る「私がやってきたこと、そこから学んだこと」]
MITに留学、しんどいことこそリターンも大きい
2016年5月13日(金)寺嶋 一郎(TERRANET代表/IIBA日本支部代表理事)
前回は、入社間もない頃の経験や体験と、そこから学んだITの可能性とチャレンジの大事さをお伝えした。今回は入社数年して、仕事を任されるようになった頃の出来事や感じたこと、そして苦労も多かったが、貴重な経験をさせてもらったMIT(マサチューセッツ工科大学)に留学した経緯を記したい。何かを読み取っていただければ幸いである。
積水化学に入社して最初の数年間、筆者はマイコンを使った制御システムの開発に従事した。当初はアセンブラ言語がなく、16進数の機械語でプログラムを作り、直接ROMに書き込んでいた。勉強にはなったが、さすがに生産性が悪かった記憶がある。その後、大学の先生にアセンブラを作ってもらい、「タイピュータ」と呼ばれる紙テープの穿孔機でプログラムを作った。それでも編集は大変だし、紙テープは下手に扱うとちぎれてしまったりした。
ちなみに大学時代のコンピュータの実習では、パンチカードでプログラムを書いていた。カード穿孔機を使うために長い行列に並び、やっとの思いでコンパイルしたらエラー発生!それも、たった一語の綴り間違い。再度、長い行列に並び直さなければならなかった。ところが進んだ研究室ではTSS端末でプログラムを作成できる環境があり、それが羨ましかったものだ。
やはり開発環境が劣悪だと、良いシステムは作れない。考えた末、上司に掛け合ってパソコンの走りであるif800(http://museum.ipsj.or.jp/computer/personal/0005.html)を買ってもらった。Wordstarというワープロでプログラミングができるようになり、プログラムの作成は格段に楽になったほか、紙テープからフロッピーディスクになったので、すごく便利になった。
大事なことは、いかに楽をするかを考え、そのためにいろいろと工夫をすることだと思う。開発環境を整えることはもちろん、ルーチンワークはプログラムを作って自動化する。楽をするために知恵を使う。そうすることで工数のかかる力仕事を減らせ、より創造的な仕事に時間を使うことができる。その結果、仕事の質は向上し、好循環が始まるからだ。
ただ少し矛盾するが、便利になると良くないこともある。あるときマイコン開発の世界にインサーキット・エミュレータ(ICE)という機器が出現した。その名の通り、マイコンボードのCPUの代わりにプローブを装着し、CPUの動作をつぶさに把握できるデバッグ装置である。任意のアドレスで実行を停止させたり、プログラムの特定の命令を実行する度に、指定したメモリーの内容を見ることができた。
ICEを導入する前、リアルタイム系の制御システムではデバッグが大変だった。割り込みのタイミングなど様々な可能性を考えながら、試行錯誤しなければならない。まさに脳みそに汗をかきながら、格闘した。そうやって鍛えられることにより、より良いソフトが書けるようになってくる。ICEのような便利なデバッグ装置が出てくると、それに頼ってしまい、考える力が養われない。開発環境を整備して効率を上げることは大歓迎だが、考える力を削がないようにしたいものである。
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