[CX(Customer Experience)デザインの基礎知識]
IoT/AIが変えるCXの未来、現場の“ヒーロー/ヒロイン”は消える!?【最終回】
2016年10月24日(月)飯塚 純也(ジェネシス・ジャパン コンサルティング本部 本部長 サービスデザイナー)
CX(Customer Experience:顧客体験)を最適化するための「サービスデザイン」。これまで、具体的な課題解決策を絞り込むための各種ツールや、そこから導かれたCXを実現するためのシステムのデザインについて紹介していきました。最終回となる今回は、アジャイルやリーンといったサービス開発手法や、AI(Artificial Intelligence:人工知能)をはじめとする最新テクノロジーが、これからのCXをどう変えていくのか、それは企業にどんな影響を与えるのかを考えてみます。
現在、様々な企業が、顧客中心でCX(Customer Experience:顧客体験)を重視した新しいサービスモデルの創出に取り組み始めています。CX自体は、古くからビジネスの中にも存在していました。ですが今後は、「モノかサービスか」の二分法ではなく、「モノもサービスも」と包括的にとらえ、企業がいかにして顧客と共に価値を創造していけるかが問われることになります。
環境変化に柔軟に対応できる開発手法が必要に
加えて、市場環境は不確実性を増しています。こうした状況下で企業が採れる施策は、「CXデザインのなかに自社戦略に基づいたシナリオプランニングを取り入れ、自分たちの未来を創出していくこと」だと言えるでしょう。具体的には、環境変化に柔軟に対応できるようなスピーディーなサービス開発手法、いわゆる「アジャイル」や「リーン」といった手法が求められてきます。
アジャイルとは「素早い」「敏捷な」といった意味です。アジャイル開発は、「イテレーション」と呼ばれる期間が短い開発単位を反復することで、リスクを最小化しようとする開発手法です。従来の開発手法である「ウォーターフォール」の反対概念として提唱されました。ウォーターフォールの基本的な考え方は、「区切られたすべての工程が正しい」ことを前提に進めることです。当初の要求仕様通りに進むというメリットがある一方、途中で要求に変更があった場合などに、柔軟に対応しにくいというデメリットがあります。
アジャイル開発では、「プロジェクトは変化する」ことを前提にイテレーションを何度も回し、プロダクトをリリースする時点で「最大の価値」が提供できることをゴールにします。アジャイルの一種であるリーンは、「顧客視点で」価値を定義し、可視化された価値の実現が「エンドツーエンド」で速く進むように、現場で実際に仕事をしている人々が改善に取り組むという考え方です。
アジャイル、リーンという考え方は、まさにCXの最適化に向けた「サービスデザイン」のプロセスそのものだといえます。CX最適化の取り組みは、従来のウォーターフォールのような考え方による実現が難しいことを認識する必要があります。
開発のスピードを高めるにはIT部門の役割も変わる
CX最適化の取り組みを、スピード感を持って進めていくためには、企業のIT部門や運用部門においては、システムの開発や運用への関わり方を変えていかねばなりません。これまでのような「数年に一度の大規模更改と、次期更改までの運用・保守」といったスタイルではなく、アジャイル/リーン方式で常にサービスを改善していくようになります。現場で働く人々が“全員参加”でCXの最適化に取り組むために、IT部門は「自分たちでシステムをデザイン/設計していく」ためのスキルが不可欠になるのです。
一方、CXによるビジネス上の価値を提示していく運用部門にとっては、「ES(Employee Satisfaction:従業員満足)なくしてCS(Customer Satisfaction:顧客満足)なし」と言われるように、従業員との強い関係づくり(エンプロイーエンゲージメント)を実現できる環境が必要になります。
そこでは、従業員の労働負荷を分析して人員配置を適切に行う「WFM(Work Force Management)」はもちろん、コンタクトセンター業界が先行して取り組んでいるようなスキルの精査と対応品質を向上させるためのトレーニングの提供が、定常的に行われるような仕組みが重要性を増すでしょう。個別のシステムを組み合わせ、全体最適でさらなる価値を生み出していくためには、担当者の意識改革だけでなく、IT部門をもっと強くしていくための組織改革が欠かせないからです。
Uber化やAI/IoTによるサービタイゼーションがもたらすもの
では、これからのCXはどこに向かうのでしょうか。2020年を1つのマイルストーンに見立て、現在影響力を持っているトレンドを軸に、今後生まれる可能性が高いサービストレンドを2つご紹介しましょう。
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