[CX(Customer Experience)デザインの基礎知識]
IoT/AIが変えるCXの未来、現場の“ヒーロー/ヒロイン”は消える!?【最終回】
2016年10月24日(月)飯塚 純也(ジェネシス・ジャパン コンサルティング本部 本部長 サービスデザイナー)
CX(Customer Experience:顧客体験)を最適化するための「サービスデザイン」。これまで、具体的な課題解決策を絞り込むための各種ツールや、そこから導かれたCXを実現するためのシステムのデザインについて紹介していきました。最終回となる今回は、アジャイルやリーンといったサービス開発手法や、AI(Artificial Intelligence:人工知能)をはじめとする最新テクノロジーが、これからのCXをどう変えていくのか、それは企業にどんな影響を与えるのかを考えてみます。
オムニチャネルの広がりはサービスの2極化につながる
こうしたトレンドに加え、企業全体を見ると、「オムニチャネルエンゲージメント」を実行できる環境が求められてくるでしょう。すべてのチャネルで共通のCXを提供し、顧客を含むすべてのステークホルダーと、より強固な信頼関係を構築するためです。そこでのCXは、製品品質要素の分類方法である「狩野モデル」にある「当たり前品質(スタンダード)」と「魅力的品質(スマート)」のように二極化していくことが考えられます。
狩野モデルは、顧客の反応から品質要素を大きく以下の3種類に分類しています。
(1)当たり前品質要素(スタンダード)
それが充足されれば当たり前と受け止められるが、不充足であれば不満を引き起こす品質要素。レストランであれば「料理が出てくる」ことが相当します。以下のような、どの顧客にも“平等に”提供されるサービスです。
●顧客認証
●スピーディーなサービス提供(待たせない)
●丁寧
スタンダードサービスは、高まる顧客の期待値に応えるために常にレベルアップしていく必要があります。
(2)一元的品質要素
それが充足されれば満足、不充足であれば不満を引き起こす品質要素。レストランであれば「料理がおいしい」といったことです。
(3)魅力的品質要素(スマート)
それが充足されれば満足を与えるが、不充足であっても仕方がないと受けとられる品質要素。レストランの例では、「何も言わなくても『いつもオーダーする』料理が出てくる」といったことです。以下のような、“他社と差別化する”サービスになります。
●顧客認証+パーソナライズサービス
●付加価値の高い(コンテクストを把握した高い共感を与える)サービス
●選ばれ続けること(ファン化)に影響するサービス
提供するサービスが顧客ごとにパーソナライズされ、顧客の期待値を上回り、使い心地がよく、「おっ、やるね(WOW)」と思わせるところがポイントです。こうした品質分類は、今後のCXをデザインするうえで考慮すべきポイントになるでしょう。
CXの最適化に向けては“ヒーロー/ヒロイン”をベースにしない
第1回で述べたように、CXを最適化するには、それぞれのタッチポイント(顧客接点)で部分最適を積み重ねるのではなく、最初から全体最適の視点で取り組む必要があります。これには、トップがコミットし、顧客と接触するすべての部門が関わらなければなりません。これが「CXが経営課題」といわれる理由でした。
不確実性が高い時代、業績は右肩上がりでは伸びません。製品(モノ)はコモディティ(日用品)化し、差別化が難しくなってきます。企業にとっての差別化ポイントは、顧客1人当たりの「LTV(顧客生涯価値)」を高めることになっていきます。では、どうすればLTVを高められるのでしょうか。
これまでは、顧客のタッチポイントごとに現場の担当者の対応力、すなわち「現場力」に依存する傾向がありました。そうした現場力を今後は、サービスデザインなどの手法によって標準化し、全体として底上げを図っていくことが重要になってきます。CXの全体最適のためには、ばらつきのない、均質なサービスの提供が欠かせません。そこで活用するのがITです。CX向上のためにはITの力が不可欠なのです。
逆説的ですが、限られたリソースの中でCXを高めていくためには、現場にいる「ヒーロー」や「ヒロイン」と呼ばれる人をベースにサービスを設計してはだめなのです。サービスにおいて「すべてを最高に」デザインするのには無理があります。その意味でCXの最適化とは、ITの力を借りて「ヒーローやヒロインに頼りすぎないための取り組み」といえるかもしれません。本連載が、みなさまのCXデザインの一助になれば幸いです。
筆者プロフィール
飯塚 純也(いいづか・じゅんや)
ジェネシス・ジャパン コンサルティング本部 本部長 サービスデザイナー。上質なCX(Customer Experience:顧客体験)を通じて企業が、より良い顧客サービスをいかに提供できるかを考え、その方法を提案している。コンタクトセンター業界で15年以上にわたり、システムエンジニア、エヴァンジェリスト、コンサルタントなどの職種を経験。多彩な経験を元に、コンタクトセンターやCX分野のサービス設計に注力し、企業における顧客価値向上に取り組んでいる。コンタクトセンター業界誌への連載や講演を通しても、分かりやすく解説している。
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