[市場動向]
パートナーとの協業が生命線、Dell/EMCの統合はシナジーを生む
2016年11月11日(金)IT Leaders編集部
「PCのDellからITインフラのDellへ」、「直販のDell からパートナーの力を活用したソリューションのDellへ」――2015年8月にDell日本法人のトップに就いた平手智行代表取締役社長と松本光吉執行役員副社長兼パートナー事業本部長は、異口同音にこう語る。それは1年経った今、どこまで実現したのか。Dellにつきまとう、ある種の誤解をどう払拭するのか。2人のトップに聞いた。(聞き手はIT Leaders編集主幹:田口潤)
EMC統合のシナジー効果は大きい
――今回のEMCとの統合に伴う問題や負担はどうお考えでしょうか。
平手 DellのサーバとEMCのストレージの組み合わせは、良いシナジーを生むと思います。内蔵・外付け含めたストレージの出荷容量では、Dellが世界一位で、EMCがそれに続いていましたが、顧客企業の規模や性能面で重複する部分が少なく、階層別や用途別には組み合わせて使われていることも多いからです。
松本 実際、重複しているところはほんの僅かで、市場的に見れば補完関係にあります。具体的に言えばEMCは大企業に強く、当社は中小企業に強い。私自身はCompaqとHPの統合を経験しましたが、それに比べて圧倒的にシナジーを出しやすいと見ています。
加えて、DellとEMCにはHPやIBMの出身者が多く、旧知の人が多いのも強みです。経営統合へのアレルギーがないので人材面での融合も早いはずです。とはいえ自然に統合することはないので、課題解決に力を入れて統合を進めていきます。
――今後はどういう方向でDell日本法人を進化させていくのでしょうか。
平手 「アンゾフの成長マトリックス」に沿って言えば、横方向はパートナーとの連携も含めたカバレッジの拡大です。そして縦方向は新しいテクノロジーの強化です。当社の製品はもともとオープンで、OpenStackなどオープンな技術に対応しています。加えてSAP HANA、VMware、Microsoft Azureなどベンダー特有のソリューションとも相性がいいのも強みです。プラットフォーム製品としての基本性能の高さとオープン対応で、新しい技術を積極的に取り込んでいます。
例えば、通信機器のオープン化をもたらす次世代のネットワーク仮想化技術であるNFV(Network Functions Virtualization)に当社は積極的に取り組んでおり、私の古巣であるベライゾンでは当社の製品が採用されるなど、実用化されているNFVのベースのほとんどは当社の製品が占めています。今注目されているコンバージドシステム市場も当社が牽引してきました。
――その点を、いかにパートナーに浸透させるかが、課題ですね。
松本 ええ。新しい領域の先端技術を理解してもらうために、港区三田に検証センターを開設しています。お客様のユースケースの検証に対応したものですが、パートナー企業向けにも利用しています。世界のソリューションセンターと接続されているので、大規模な検証もできるようになっています。
日本市場は最優先投資国であり続ける
――Dell日本法人が潜在能力を全て顕在化した状況を富士登山に例えると、今は何合目でしょうか。
平手 ビジネスに勢いがあって、本社では日本は最優先投資国というアドバンテージもあるので、今は6合目という感じです。PCは前年比29%成長していて、マーケットシェアも3.3%伸びています。PCサーバーでも大手他社がシェアを落とす中、Dellはシェアを伸ばしています。
競合に勢いがないこともあるかも知れませんが、世界規模にクライアントからエンタープライズ製品まで手掛けているスケールメリットを活かして、開発投資をして品質の向上を図ってきたことが大きいですね。しかもマイケル・デル自ら年間2000人のお客様にあって、そのニーズを製品に反映させています。それがお客様視線での製品開発につながっているんです。
――市場の成長性という面では中国やアセアン諸国などもポテンシャルは大きい。なぜマイケル・デル氏は日本を最優先国に?
平手 創業当時、日本のメーカーやユーザに助けたもらったという想いが強いからです。デルモデルは多くの人に支持されましたが、問題もあった。品質が追い付かなかったんですよ。それを支えたのが日本の部品メーカーだったんです。マイケル・デルの日本好き、日本通はそれ以来変わっていません。だからこそ日本はDellにとって最優先される市場なんです。
――松本さんはいかがですか。
松本 課題という意味では、まだまだやることがあります。大企業向けでは存在感は低いですし、絶対額は大きくないにせよパブリッククラウドの台頭もあります。ソリューション力も早く期待に応えられるよう高める必要があります。
しかし課題は明確ですし、非公開会社である利点やIT業界では随一の製品ポートフォリオといった強みは多い。ぜひ、期待して下さい。