[ザ・プロジェクト]
グローバルレベルの資金効率向上の背景に15年がかりの全社ERP化─花王
2016年12月9日(金)佃 均(ITジャーナリスト)
花王(東証1部、証券コード:4452)の「攻めのIT経営銘柄2016」選定事由は「資金効率をグローバルレベルで向上させたこと」という。具体的には、キャッシュ・コンバーション・サイクルを10日~20日短縮し、決済手数料を削減した——というのだが、情報システム部門統括執行役員・安部真行氏は、「実はグローバル規模の全社ERP化の成果なんですよ」と言う。聞けば全社ERP化は15年がかりの取り組みだったという。
「豊かな生活文化の実現」の理念
花王グループの拠りどころとなる「花王ウェイ」には、「私たちは、消費者・顧客の立場にたって、心をこめた"よきモノづくり"を行ない、世界の人々の喜びと満足のある豊かな生活文化を実現するとともに、社会のサステナビリティ(持続可能性)に貢献することを使命とします」とある。お題目的な社訓や企業理念ではなく、「これを身につけずして社員にあらず」といわれるほど、花王のDNAとして全社員に浸透している。
その名称はともかく、EDI(Electric Data Interchange)が登場した30年ほど前にも同じ話を聞いたことがある。なぜ花王はEDIを採用するかについて、当時のシステム開発部長・小西一生氏は次のように説明した。
——花王の企業理念は日本国憲法の第25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」そのもの。どんな山奥にも離島にも、当社の石鹸や衛生用品を確実に届ける。EDIはそのためです。
当時は海外展開を始めたばかりだった。しかし現在は全世界で「洗う(汚れを落とす)」の事業に取り組んでいる。何を洗うかといえば、髪を、衣類を、食器を、電子・精密部品を、というわけだ。隅々に商品を行き渡らせ、店頭に商品を欠かすことなく、かつ在庫を最適化する。そのためには、原材料の調達から生産、物流、販売にいたるプロセスの統合的な管理が必須となる。
「その前にシステムの統一と標準化をしなければなりません。それが全社ERP化のプロジェクトでした」執行役員 情報システム部門統括の安部真行氏は言う。「取り組みがスタートしたのは2000年でした。5年刻み、3段階で進めたんですね」
安部氏はサクッと話すが、15年といえば情報システムの1サイクルに相当する。人事異動もあれば経済環境も変化する。それを乗り越えて、ブレなくプロジェクトを継続できた背景には、チーム全体に「花王ウェイ」が共有されたこと、そして開始当時のリーダーが明確な目標を設定したことがあるのに違いない。
きっかけはアジア通貨危機
プロジェクトのトリガーは何だったのか。Y2K(西暦2000年問題)がきっかけ、というケースが少なくないのだが、安部氏は「当社の場合、それはありませんでした」と否定し、「アジア通貨危機に伴うビジネス環境の変化」をあげる。1997年の7月、タイに始まった通貨為替レートの下落によって、タイ、マレーシア、韓国がIMF(国際通貨基金)の管理下に入ったほか、インドネシア、マレーシア、香港などが少なからず影響を受けた。
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