経営環境が大きく変化するなか、企業のITには、ビジネスに競争優位をもたらすためのイノベーティブな仕組みを短期間で実現することが強く求められている。半面、既存システムに加え、クラウドの利用が始まったITインフラは複雑化する一方であり、IT部門の担当者は多くの時間を運用上の課題への対処に費やさねばならないのが実状だ。こうした現状を打破し、イノベーションのための行動を起こすためには、ITインフラはどうあるべきなのだろうか。「ハイパーコンバージドインフラストラクチャー」と呼ばれるソフトウェア定義型のITプラットフォームを提供する米Nutanixの日本法人を預かるコーポレート マネージング ディレクター 兼 社長の町田 栄作 氏に聞いた。
ITがビジネスの競争力に直接影響する存在であることは以前から指摘されてきた。そのため企業のIT部門には、いかにビジネスに貢献できるITインフラとアプリケーションを実現するかが問われ続けてきた。しかし、ここに来て大きな課題になっているのがオペックス(OPEX = Operating Expense)のコスト、すなわちシステムの運用・管理・改修のための費用が突出する傾向が顕著で、改善の方向性が見えていないことだ。
サイロ化と“丸投げ”がITインフラコストを見えづらくする
平均的な企業におけるIT投資の内訳について、この20年の推移を見てみると、サーバー自体への投資額が3倍程度の増加であるのに対し、オペックスに関わる投資額は8倍にも膨らんでいる。構成比で見ても、ITコスト全体を100とすれば、そのうち実に80%がオペックスのために費やされている。これが多くの日本企業のIT投資の実態である。この点について、ニュータニックス・ジャパン合同会社 コーポレート マネージング ディレクター 兼 社長の町田 栄作 氏はこう指摘する。
「多くの企業ではこれまで、x86などオープン系のインフラで情報システムを構築してきました。それらが今、サイロ化してしまっていることが大きな要因の1つになっています。各サイロで使われているサーバーやストレージ、ネットワークといったツールがバラバラなため、必要なオペレーションも当然ながらサイロごとに異なっています。つまり、サイロ化されたシステムの複雑さが、最終的に人手によるオペレーションの負荷を増大させ、ひいてはコスト増へと結びついてしまっているのです」
システムのサイロ化は、日本企業に限らず、世界中の企業が抱えている課題ではある。だが町田氏は、日本企業ならではの別の問題がオペックスを増加さえているという。いわゆる“丸投げ”の体質だ。経営層や事業部門が求めるアプリケーションの要件に集中する余り、ITインフラのアーキテクチャーや使用する製品、さらには運用管理体制などを外部の事業者に委ねてしてしまうケースは決して珍しくはない。さらには、システムのすべてをアウトソースしてしまうこともある。
いずれもオペックスの削減につながるように思えるが、ITインフラがブラックボックス化してしまうため、「なんのために、どんな理由でコストがかかっているのか」の把握が困難になる。つまり、ITインフラにおけるオペックスがどれだけ発生しているのかが、そもそも見えなくなっているのだ。
海外のハイブリッドクラウドはプライベートが7割を占める
オペックスの増大に加え、複雑化するITインフラにまつわる種々の課題を解決するためのアプローチとして、ここ数年、企業が注目し利用を急速に進めているのが、IaaS(Infrastructure as a Service)をはじめとするクラウドサービスである。日本企業でも、従来型のエンタープライズデータセンターとクラウドサービスを併用している割合は高まっている。
ところが町田氏は、「欧米では、利用しているクラウドのうち7割は企業が独自に構築・運用するプライベートクラウドが占めています。これは、パブリッククラウド上に構築したアプリケーションについても、3カ月、半年と運用していく中でワークロード(システム負荷)が予測可能になれば、プライベートクラウド環境へ戻しコストの無駄を省くというITインフラの“適材適所”が考えられているからです」と説明する。
どういうことか。企業情報システムを考えたとき、受発注業務を支えるERP(統合基幹業務システム)や物流・在庫などを支えるSCM(サプライチェーン管理システム)といったアプリケーションのワークロードはその変動予測は比較的容易だ。これに対し、スマートフォンからVPN(仮想私設網)を経由して社内システムに接続するモバイルアプリケーションや、Eコマースといった場合には、アクセスが集中する時間帯や負荷などの予測が難しい。だからこそ後者のアプリケーションほど、リソースの確保が柔軟で、かつ安価だとされるパブリッククラウドへと、その動作環境を求めていく。