[経営者をその気にさせる―デジタル時代の基幹システム活用戦略]
PDCAサイクルとOODAループ【第6回】
2018年1月26日(金)青柳 行浩(NTTデータ グローバルソリューションズ ビジネスイノベーション推進部 ビジネストランスフォーメーション室 室長)
グローバル化により企業活動の範囲が広がっただけではなく、競合相手が拡大(発展途上国企業の台頭や異種産業企業の参入など)し、よりきめの細かい企業活動(高頻度化/高速化)が求められるようになった。このきめの細かい企業活動を乗り越えために、低価格化が進み利用可能となってきたデジタル技術により、現場活動のデジタル化を進展させようとしている。しかし、現場活動のみをデジタル化してもこれからの企業活動に適応させることはできない。従来型のPDCAサイクルによる企業活動ではこれからの企業環境に対して先行するどころか追従することさえできなくなる。
前回「デジタル化によるその場での迅速で的確な判断に基づく活動をするためには遅すぎるのだ」と述べた。このデジタル化のための基幹システムでどのような業務オペレーションを行うかが企業をデジタル化するポイントになる。
業務オペレーションのポイントは「OODA」
例えば、Webによる販売を行っている企業では、Webのデザインを複数用意しておき、実際にWebからの販売が伸びてみるかをみる。そして、思ったように売れ行きが伸びない場合は複数用意した別のWebのデザインに入れ替える。P→D→C→AやC→A→P→Dではなく、C→A→Dの繰り返しだ。Pを行う時間などないのだ。例えば1年単位での売上計画を策定し、状況に応じてFORECASTの見直しを行い、単位期間内は現場での情報を分析して、改善策を策定し、即時に実行するというCADのループを回す。加えて、マネジメント部門/管理部門/業務部門は同じビッグデータ及び業務データの分析結果に基づいて意思決定を行うことで、部門間の齟齬を極小化することができるようになる。

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この考え方に似た手法としてOODAループがあげられる。OODAループはアメリカ空軍のジョン・ボイド大佐により提唱された意志決定の理論だ。PDCAサイクルが品質向上の手法であるのに対して、OODAループは適切な意思決定を行うための手法であることから経営の意思決定を行うための手法としてはより適合しているともいえる。OODAループは意思決定を行い、それに基づく行動を行うまでの一連のループを意味している。OODAループはPDCAと同じようにObserve(観察)、方向付け(Orient)、意思決定(Decide)、Act(行動)の4つのプロセスの頭文字から命名されている。この4つのプロセスを繰り返すことにより、適切な意思決定と行動を行うということを意味している。
Observe(観察)
敵を発見し、追尾するプロセス(空軍においては、パイロットの目視、機体の各種センサーやレーダー、早期警戒機からの情報により、敵機を探知・追尾するプロセス)。デジタル情報や経営情報を観察し、現在の外部/内部の状況を把握するプロセスになる。
Orient(方向付け)
観察で収集した情報を基に敵味方の識別・リスクの判定を行うプロセス(空軍においては、パイロット自身の技量、知識や経験により、現在の情勢を判断するプロセス)。把握した外部/内部の状況から現在どのような状況にあるかを判断するプロセスであり、各部門(マネジメント部門/管理部門/業務部門)もしくは担当者の資質の違いにより判断が分かれてしまう可能性がある。ビッグデータ分析やAIによる状況判断により改善される可能性が高い。
Decide(意思決定)
方向付けで判定された現在の状況からの採るべき方針を決定するプロセス(空軍においては攻撃の可否、攻撃する場合には攻撃する場所、順序及び手段、攻撃しない場合には撤退方法、回避方法等を決定、最終命令を行うプロセス)。「方向付け」での方針に基づき具体的な行動を意思決定する。ビッグデータ分析における処方的分析(Prescriptive Analysis)が実現できれば短時間での意思決定が可能になる。
Act(行動)
意思決定で採択された方針に基づき実際の行動を実施するプロセス(空軍においては実際の攻撃/撤退/回避を行うプロセス)。この「行動」を行ったのち、直ちに「観察」のプロセスへもどり、行動の状況を「観察」することになる。
PDCAサイクルとOODAループの大きな違いはPDCAサイクルでは最初に「計画」を決めて「事業活動」を行うが、OODAループではまず「観察」、それに基づき「方向付け」、「意思決定」し、「行動」を行うという固定的な「計画」があるかどうかだ。脱予算経営においても戦略目標を固定化しないがそれに似ている。但し、OODAループを回す前にこのOODAループのミッションを定めなければならない。軍隊では命令に従うための手法だからだ。ここでは、大きなPDCAサイクルで個々のOODAループに対して命令を与えるというのが本稿での考え方だ。

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OODAループにおいての重要なポイントは実際の「行動」の前に「観察」を正確に詳細に実施し、「方向付け」で実際の取り得る「行動」パターンの抽出との評価を行い、最適な「行動」パターンを意思決定するという一連の流れを詳細、適切かつ迅速におこなわなければならないということだ。そして、次の基幹システムではデジタル化により、これらを統合していくことになる。
筆者プロフィール
青柳 行浩(あおやぎ・ゆきひろ)
NTTデータ グローバルショリューションズ(NTTデータGSL)ビジネスイノベーション推進部 ビジネストランスフォーメーション室 室長。大手システム開発会社から外資系コンサルティング会社を経て、現職。戦略・システム化構想から経営・業務改革まで幅広く支援。現在は業務改革の観点(経営管理、SCMなど)からIT(特にSAP関連)戦略やシステム化構想と導入展開支援を実施している。
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