高度な専門性を持ってキャリアを築いてきた「IT一筋」の人にたくさん出会うが、なかには話していても話題が広がらない人がいる。それも、人の個性ではあるが、経営とITが不可分なものになった今、そうした人はかなり損をしている可能性がある。今回はタイトルのような提言をしてみたい。
「造詣が深い」という言葉がある。博識だとか薀蓄(うんちく)があるという言い方もある。晋書には「洽覧深識」(こうらんしんしき:見聞がきわめて広く博識である)という表現もある。いずれも広く深い知識を持っていることを表している。こんな表現ができる人たちとの会話は楽しい。話が多岐にわたり、興味深さや面白さのポイントをとらえているからだろう。
話の内容でその人の興味や関心を知ることもできる。宇宙、生物、物理、歴史、言語、文学、アート、音楽、スポーツ、政治、映画、芸能、工芸、産業、経営、医療、福祉などなど。どの分野でも深い話は興味が尽きない。
経営とITに関わるような仕事をしていると、必然的にITに深い知識を持っている人と会話する機会は多くなる。そのような人たちの中で、ITの領域から話が広がらないとか、ITのロジック思考だけしか感じられない人に出会うことがあって、「IT一筋」でキャリアを積んできた人に多いことに気づいた。
それはIT分野に限らず、専門化された領域で長く仕事をしていると関心事が狭くなり、思考構造が柔軟でなくなるのかもしれない。IT一筋でやってきた人は、思考の原点をITに置いてしまうせいか、発想や話の広がりがなく会話が面白くない。おそらくたくさんの現場を見て体で感じるような体験もあまりしていないのではないかと思う。
自社の現場ばかりでなく、異業種の現場を見ることによって、実事業のなかでのITの姿も見えてくるものだ。一方で、IT一筋の技術者でも、社会や産業に関心を持ち、アートや音楽や文学や書などに親しみ、感性豊かな人がいる。そうした人は話題も豊富で総じて技術レベルも高いように感じる。
文学、歴史、アート、映画鑑賞、スポーツ観戦……どんなジャンルであれ、仕事以外の何かにハマっている人との会話は楽しい。ITの力は大きいが、盲信しない客観視が必要だ
要するに、専門性は持っていても、多様な関心を持って思考している人とそうでない人の差が会話に出てくるのではないかと思う。IT一筋のロジカル人材はITを盲信していて、なんでもできるかのように誇張することがある。ITが経営や社会に及ぼす影響力は高いし、21世紀に入ってからの20年間は、高度情報通信技術による経営や社会の様変わりも著しい。しかし経営全般にとってITの影響力はいかほどだろうか?
経営にはいろいろな要素が影響を及ぼす。社員や株主、取引先などのステークホルダー、資金の調達と運用、資産管理と効率的な運用、製品開発、サービス開発、新しいビジネスへの投資判断、ITシステム、環境への配慮、経営ガバナンス、経営リスクコントロール、コンプライアンス、経営監査、人材の採用と育成、M&A戦略、営業戦略、マーケティング、広報、ブランディング、CSR、BCPなどなど、経営者が関与して判断しなければならないことは複雑雑多である。
ITシステムでは解決できない領域もたくさんある。事業や業態によって異なるが、経営者にとってはITシステムやそれらに対する投資も諸々の経営要素の一部にすぎない。ITによって補完やサポートができることも多いが、主役でないことも多いことを理解しておく必要がある。何でもITで解決できるわけではなく、ITのポジショニングをしっかりしておくことが重要である。IT技術者にはITを客観視するという姿勢が必要だ。
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