[オピニオン from CIO賢人倶楽部]

認知バイアスがシステム開発に与える影響は大きい─その状況を避けるべく、ユーザーには主体性が求められる

プロメトリスト 代表 野々垣典男氏

2020年9月9日(水)CIO賢人倶楽部

「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システム/IT部門の役割となすべき課題解決に向けて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見共有を促し支援するユーザーコミュニティである。IT Leadersはその趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加している。本連載では、同倶楽部で発信しているメンバーのリレーコラムを転載してお届けしている。今回は、プロメトリスト 代表 野々垣典男氏のオピニオンである。

 原告(ユーザー企業)側の弁護士が、被告(ITベンダー)側のプロジェクトマネジャーにこう質問した。
 「多数のバグにより総合テストを中止せざるをえない状況でしたが、あなたはこのシステムを計画どおりに稼働できると考えていましたか?」

 それに対してプロマネは、次のように応じた。
 「そのときのプロジェクト関係者はみな、予定どおり稼働できるものと考えて作業していました」

 これは実際にあった、ある情報システム開発プロジェクトの裁判における証人尋問の一場面です。筆者は自身が所属していたユーザー企業がベンダーを訴えたシステム訴訟を経験したことがあり、加えて東京地方裁判所のIT専門委員として裁判に関わったり、第三者として裁判で意見書を求められたりするなど、いくつかのシステム訴訟に直接、間接に関わってきました。

 その経験から言えば、システム開発プロジェクトが頓挫し、ユーザー企業がベンダーを訴えるようなケースにおいて、ベンダー側は「中止などせずに、がんばれば完成できた」と主張するケースがほとんどです。裁判の中で、当初計画したスケジュールに対し遅れている/バグが多くて収束しない/機能の齟齬や不足が目立つといった客観的事実や資料が示されても変わりません。プロジェクトに直接関わりを持たないベンダーの経営者でさえも、「何とかなるだろう」と考えがちであり、これはプロマネの個人的な“想い”というよりも、ベンダーの総意だと考えられるほどです。

 一体なぜ、こうなってしまうのか? 大きな要因に、人は得られた情報を冷静に分析して合理的な意思決定を行うのではなく、固定観念や生活習慣に起因する「考え方の癖」が身についていることがあります。

システム開発プロジェクトが頓挫する──大半のケースでユーザーとベンダーの間で大きな認識のズレが起こっている

 社会心理学ではこれを「認知バイアス」と名づけており、非合理的な判断や意思決定のことを言います。具体的には、何か異常な事態が起こるかもしれないと判断するよりも、無意識に何も起こらないと楽観的に問題が起こっていない部分のみに注目してしまう「楽観主義バイアス」、論理の妥当性ではなく、結論が自分の信念と一致しているかどうかによって結論の妥当性を判断する「信念バイアス」、異常な事態から認知した危険予測を信じようとせず、危険を過小評価し状況を楽観的にみなす傾向に陥る「正常性バイアス」などが、代表的な認知バイアスです。

 人間は、一般に、自分にとって都合の悪い情報を過小評価し、都合のよい状況を重視する傾向があります。機械やコンピュータよりも柔軟で広汎な考え方ができる一方で、人間がヒューマンエラーを起こすのは、そんなところから来ています。それは意図したものではないし、まして悪意があるわけでもありません。そこには人間の認知特性が強く影響していると考えられており、認知バイアス (認知癖、認知的不協和)が重要な役割を担っているのです。

●Next:スルガ銀行・日本IBM訴訟の判例と、ユーザー企業に求められる姿勢

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