[麻生川静男の欧州ビジネスITトレンド]

エッジデバイスがオンラインで自己学習─人工ニューロンが拓くAIの理想:第17回

2020年9月24日(木)麻生川 静男

第3世代として進展したモダンなAIは、今や我々の生活のあらゆる面で活用されるようになったが、進展に伴ってさまざまな問題点がクローズアップされている。その1つは、AIの学習は基本的にオフラインで時間をかけて行う必要があるという点。エッジデバイス側でAIの実行はできても学習はできない。今回は、ドイツとオーストリアの2つの大学/研究機関がエッジ側でのAI学習を可能にするハードウェアを開発したという成果を現地の報道からお伝えしよう。

 エッジデバイスに搭載されたAIは、基本的に自らが学習を行うことができない。その状況を、「ルンバ(Roomba)」に代表される自走式ロボット掃除機で考えてみよう(写真1)。ロボット掃除機には、どのように掃除を行うかのアルゴリズムが組み込まれている。そのアルゴリズムに基づき、想定される運用状況であればスムーズに動作する。しかし、もし想定外の事態が起これば掃除をストップする。

写真1:自走式ロボット掃除機は想定外の事態に遭遇すれば、あえなく掃除を中断する

 ここでの理想は、ロボット自身がその場で、別の方法を自ら編み出して掃除を続行してくれることだ。それを可能にするためには、ロボットに搭載されているAIが自力で自身の置かれた状況を学習できないといけない。その際に問題となるのが、学習に必要となる膨大な演算やデータ格納のためのリソースだ。この問題に対する1つの解決策が、以下で紹介するハードウェア化された人工ニューロン(Artificial Neurons)である。

人工ニューロン─エッジAIデバイスが学習も実行可能に

 独Vogel Communications Groupが運営するWebメディア「Industries of Things」は2020年7月20日、独ドレスデン工科大学とドレスデン・ロッセンドルフ研究センター(HZDR)は共同で初めてニューロトランジスタ(Neuro Transistor)の開発に成功したことを伝えている(画面1)。

画面1:Industries of ThingsのWebサイトは、独ドレスデン工科大学とHZDRの研究成果を、ニューロトランジスタの模式図と合わせて伝えている
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 実現したのは、脳の情報処理機能と記憶を実行する半導体技術、人工ニューロンだ。同研究グループのラリサ・バラバン(Larysa Baraban)氏によると、同研究グループは化学分野のバイオセンサーを長らく研究。その過程で、脳を形成する神経細胞であるニューロンの性質をバイオセンサーで実現できるのではないかと考え、一般に用いられている電界効果トランジスター(FET)を使ってニューロトランジスタを組み上げた。この方式の特徴はメモリと情報処理を1つの部品で処理していること。それによってメモリ/CPU間のデータ転送が不要になり、処理速度を高めることが可能になったという。

 同研究グループのニューロトランジスタの製造工程はこうだ。まず、普通の半導体製造と同じようにシリコンウェハーに回路を焼き付ける。その後、表面にゾルゲル液と呼ばれる粘性の高い液状の薄膜形成剤を塗布する。ゾルゲル液が乾燥し硬化すると、多孔質セラミックが回路に付着する。イオンはこの多孔質セラミックの孔間を移動することになるが、イオンは電子より重いので、電圧がかけられ励起状態になっても、電子より移動速度が遅い。

 この移動速度差、つまり遅延のヒステリシス効果(Hysteresis Effect:履歴効果、履歴現象)によって情報が蓄えらえる。この仕組みによって、ニューロトランジスタは強化学習結果を獲得する。つまり学習することが可能となるという。

 もっとも、ニューロトランジスタは既存のコンピュータの演算精度には到底及ばず、小数点第1位程度のラフな計算しかできない。そのため実質的には、かつてのアナログコンピュータのニューロ版ということになろう。

●Next:オーストリア・グラーツ工科大学の「e-prop」が実現したこと

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