[木内里美の是正勧告]

積極的な「情報開示」がIT部門にもたらすもの─そのスタンスがDXを推し進める

2020年12月21日(月)木内 里美(オラン 代表取締役社長)

最近、デジタルトランスフォーメーション(DX)がうまくいかないとか、“デジタル疲れ”とか、そんなことを聞く機会が増えた。しかし企業は、どこまで情報開示=透明性の確保や可視化、に注力しているだろうか? 情報開示を追求すれば自ずとデジタル化を進めることになるし、そうすればさらなるデジタル化のテーマが自ずと浮かび上がってくる。デジタル疲れを嘆く前に、情報を徹底的に開示する取り組みをしてみることを薦めたい。それは筆者の経験からも言えることである。

情報を開示しない、隠蔽する体質の裏側

 まず、情報開示は制度として定められている。典型例は会社法や金融商品取引法である。会社法では、上場、非上場に関わりなくすべての株式会社がステークホルダーに対して定められた情報を開示すると決められている。開示内容は対象者によって異なるが、会社の登記情報や定款、貸借対照表、損益計算書、株主資本、株主名簿などが、公告されたり開示されたりする。

 金融商品取引法では投資家が適正な判断をできるように、上場企業に情報開示を義務づけている。物事を判断するためには情報が必要で、必要な情報は開示されなければならないという基本が、商取引の世界では法制化されているのである。制度上の情報開示だけでなく、IR(Investors Relations)と呼ばれる任意の情報開示もあり、総称してディスクロージャー(Disclosure)と呼んでいる。

 国や行政機関においても、公文書を開示するなど情報公開制度が定められている。行政機関や独立行政法人等の職員が組織的に作成し、保有している文書、図画、電子データは、開示請求があれば開示を義務づけられている。

 例外はある。例えば国や公共の安全に関する情報、審議・検討に関する情報、個人に法人に関する情報、事務・事業に関する情報の一部は開示すると支障が生じるものがあるため、黒塗りや空白になっていることがある。国会の審議でもよく見る、野党が開示請求した文書がほとんど真っ黒に塗り潰された、「のり弁」と称されるものだ。

 しかし、資料や議事録などそれほど機密度が高いとは思えない情報を公開しない、そのような文書はないと虚偽の答弁をする、文書を改竄しているなどの事実が後から判明したりすると、黒塗り文書の内容も隠蔽したいのではないかと疑義を持ってしまう。情報を開示しないことは、すなわち不信感に直結するのだ。開示・非開示以前に、通常から積極的に情報を公開する姿勢があるか否かで、信頼性は大きく変わってくる。

 隠蔽には必ず邪(よこしま)な思いがある。評価をされたくない、判断の誤りを隠したい、責任を追求されたくない、上位者を傷つけたくないなど、多くは保身に基づく。入手した情報を自分だけのものにして隠蔽し、手柄にしたいというのも保身と変わりない。営業現場ではよく耳にすることだ。また多くの匿名投稿も同じ心理だろう。そこには潔さや責任感などない。

IR(Investors Relations)などの各種ディスクロージャーはその企業の信頼の証となる

情報システム部門で実践した情報開示

 筆者が事業部門から情報システム部門の統括者として異動した際に、積極的に情報を公開する姿勢がないことに気づいた。何かを隠蔽しようとしているわけではないのだが、部外からは考え方も活動も予算の執行も見えない。放置すれば何をやっているかわからないというブラックボックスを作ってしまい、システム部門の孤立を招き、事業部門からの信頼性が薄らいでしまうと考えた。システムの全面的な再構築と運用コストの大幅な圧縮をやっていこうというときに、これでは事業部門の理解も支援も受けられない。そこで積極的な情報開示をすることにした。

 最初は部門内の議事録の公開から始めた。毎週部門の管理者クラスで投資方針や開発計画などを決める会議を行っていたので、議事録を社内に公開するようにした。最も閲覧しているのが情報子会社の社員であることを知り、いかに情報の共有ができていないかも気づかされた。

 続いて予算や投資計画、情報コストなど開示をしようとしたのだが、これはすぐには出来なかった。IT費用の会計費目が適切に設定されていなかったからだ。事業部門にも一定のIT予算が配賦されていたので、限度額まで使い切ろうとして事業経費をIT予算で処理するようなことも行われていた。

 どうするか? 事業部門、経理部門とも相談し、すべてのIT費用を開示することを条件に、すべてのIT予算をシステム部門に預けてもらうことにした。事業部門から抵抗があるかと思いきや、必要な開発が申請・審査でできるなら管理しないで済むので預けたいと言ってくれた。厳正な審査で開発計画を進めなければと、心が引き締まった。経理部門とIT予算の費目を明確にし、月次の会計システム情報からIT費用を社内に開示できるようになった。これで費用の妥当性を全社員で監視してもらう体制が整った。

 残るはシステム部門の活動の情報開示だ。イントラネットに、「ビジョンの見える化」「組織の見える化」「業務の見える化」「人の見える化」の4つのカテゴリーで詳細に情報開示することにした。

 人の見える化については、当時の先端技術だったAjax(Asynchronous JavaScript+XML)で社員がオンラインの座席表を構築した。在籍か離席か休暇かもリアルタイムで確認でき、仕事の繁忙度も見えるようにした。業務の見える化では、ITカレンダーという業務予定表を開示し、当日の業務(例えば「12時から13時までAシステムのメンテナンスがあります」など)がテロップで流れるようにした。カレンダーには作業に伴うリスクも書かれている。ここまで徹底して情報開示すると、風土が変わってくるのがわかった。

●Next:なぜ情報開示の徹底がデジタル化を推し進めるのか?

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