プロセスマイニングは、業務システムのログを解析して、その企業における効率化の課題やボトルネックを可視化、改善に導く有効な手法だ。だが、それが万能と思うのはいささか気が早い。プロセスマイニングは主に基幹系データを扱うため、個々の社員単位の問題点までは把握できない。6月29日にオンライン開催された「プロセスマイニング コンファレンス 2021 LIVE」(主催:インプレス IT Leaders)に登壇したハートコア株式会社 代表取締役社長 神野 純孝 氏は、PCのデスクトップやアプリケーションの利用履歴までを網羅する「タスクマイニング」との合わせ技が有効だと事例を交えて解説した。
プロセスマイニングとタスクマイニング
この2つは何が違ってどう使い分けるもの?
ハートコア株式会社(以下、ハートコア)は、わが国のプロセスマイニングにおけるリーディングカンパニーとして数多くの実績を重ねてきた。同社ではDX を支えるさまざまなソリューションの開発・販売・保守を手がけているが、中でも大きな強みは、プロセスマイニングツールとタスクマイニングツールの両方を提供している点にあると、神野氏は強調する。
「プロセスマイニングだけでできることには、限界があります。日本企業の場合、根強くExcel文化が残っていて、たとえば SAPからデータを取得して加工し、それを Salesforce.comにアップロードするといった使い方も珍しくありません。つまり、基幹系のデータ分析だけでは、会社全体の業務プロセスにおける問題点の可視化が難しいため、社員が使用しているPCの業務・操作履歴を分析できるタスクマイニングとの組み合わせが必須です。この2つのツールを提供している点が、ハートコアの価値であり強みです」(神野氏)。
プロセスマイニングとは、基本的に基幹系のデータ(SAP)や Salesforce.com、または SCM(サプライチェーンマネジメント)のような基幹系のログを分析して、会社全体のプロセスを可視化する仕組みだ。
一方、タスクマイニングは社員一人ひとりのデスクトップやWord、Excel といったアプリケーション、さらにはチャットボットやブラウザの操作履歴をくまなく分析できる。この2つのツールを合わせてこそ、日本企業の業務の全体像を把握でき、そこに潜む課題を可視化~効率改善につなげることができるのだ。
「たしかにプロセスマイニングを使うと、企業のさまざまな業務プロセスの課題点の見える化は可能です。しかしそれを実際に解決・改善するためには、問題が見えただけでは不十分で、個人レベルの動きにまでフォーカスして具体的な対応を探らなくてはなりません。たとえば決裁書類のフローが特定の部署で滞っていることがわかっても、そこで誰が何をしているのかが見えなくては対処できません。その『誰が何を』を明らかにできるのがタスクマイニングです」(神野氏)。
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ハートコアが提供するツールの
機能的特徴とアドバンテージ
続いて神野氏は、ハートコアが提供しているプロセスマイニングのソリューションを紹介する。同社では2019年からプロセスマイニングツール「myInvenio(マイインヴェニオ)」の日本総代理店として、わが国におけるプロセスマイニングの普及活動に取り組んできた。
myInvenioの特徴の1つが、「複数のシステムのログを1つにまとめられる」点だ。たとえば基幹システムの中の、受注、販売、物流の各システムのログをまとめて1つのプロセスとして可視化できる。すべてのシステムをつなげて、エンドツーエンドで業務の全体を把握できるのだ。このため個別のシステムではなく、その業務プロセス全体にかかわる課題を、前後の関連の中で捉えながら理解し、解決方法を探ることが可能になる。
「さらに、デシジョンルールマイニングといって、イベントログから生成したBPMN(モデリング表記)上で、条件分岐のロールを自動生成する機能があります。これによってイレギュラーケースの分析が可能になる点がお客様に非常に好評であり、myInvenioならではの強みになっています」(神野氏)。
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加えて2021年からは、オープンソースのプロセスマイニング技術開発で知られるApromore Pty Ltd(以下、アプロモア社)と、日本市場における独占販売契約を締結。同社のソリューションである「Apromore(アプロモア)」の提供を開始した。
「Apromoreの大きな特徴としては、オープンソースのプロセスマイニングツールであることが挙げられます。このため、従来はプロセスマイニングを導入したくてもおもにコスト面で難しかった中小企業や教育機関が、気軽に導入できるようになります。またオープンソースでありながら、myInvenioと比較しても遜色がない非常に豊富な機能を備えている点にも、ぜひ注目いただきたいと思います」(神野氏)。
さらにサポートがすべて日本語で行われ、インタフェースやトレーニングコース、そしてオンラインマニュアルもすべて日本語化されている点も心強い。
もう一方のタスクマイニングツールが、「CONTROLIO(コントローリオ)」だ。このツールの特徴は、デスクトップのいろいろなログから、多彩な分析が行える点にある。たとえばその社員のPCのログを元に、生産性やアプリ利用のヒートマップ、また操作画面や勤怠管理とか生産管理まで、すべてをCONTROLIOのみで分析できるという。
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プロセス改善からコスト削減へ
マイニングによる効率改善効果とは?
神野氏は、ハートコアのプロセスマイニング/タスクマイニングツールを導入して、業務の効率化に成功した、2つの顧客事例を紹介した。
事例その1:自動車メーカーのコールセンター運用最適化
大手自動車メーカーA社では、コールセンターの運用でいくつかの課題を抱えていた。ひと口に問い合わせといっても、営業関連やサービスに関する質問が混在しており、オペレーション内容が多岐にわたり、これらの対応も属人的に行われていた。
そこでmyInvenioとCONTROLIOの組み合わせで、コールセンター業務の全プロセスおよびタスクを可視化。問い合わせの初期段階での内容のスクリーニングや、業務標準化・業務効率化の仕組みを構築し、顧客満足度と運用ROI の最大化を目指した。
「この結果、問い合わせ一案件あたりの対応コストが約3000円削減できました。年間トータルでは、2億3000万円のコスト削減という大きな改善が実現しています。これに加えて解約率を5%低減。営業活動で売上を5%上げるのは非常に大変ですが、プロセスとタスクの見直しだけで同等のコスト効果を実現できることがわかるでしょう」(神野氏)。
事例その2:自動車部品メーカーのテレワーク対応
大手自動車部品メーカーB社では、コロナ禍によるテレワーク運用体制の確立を模索していた。ここでもっとも大きな問題となったのは、テレワークに移行した結果、従業員の作業プロセスが見えにくくなったため、どこを改善すべきか判断しにくくなったことだった。
ここではCONTROLIOのみを用いて、テレワークに用いられているPC 5000台の作業ログを分析。各従業員に対して、自分が業務のどこでつまずいて、どのような改善点があるかをみずから気づき、改善できる仕組みを構築した。このように従業員に気づきのポイントを与え、自分で改善する機会を与える=意識改革を促すことができる点が、タスクマイニングツールの大きな特長だ。
「こうした仕組みを監視されていると感じる方は少なくありませんが、実は会社は監視などという手間をかけたくなく、従業員みずからが問題に気づき、改善できるセルフワークの仕組みが求められているのです。B社のケースでは、レポートをもとに改善を進めていった結果、1カ月で非効率作業時間を1人あたり10分削減できました。本質的な仕事をどこまで効率よくできるかという点に着目した成果です」(神野氏)。
DXを推進する上で、業務プロセスおよびタスクの見直しは必須かつ効果的な取り組みであり、プロセスマイニングとタスクマイニングを活用することが成功につながる。ハートコアには、そうした顧客事例を通じて得た豊富なノウハウが蓄積されている。「これから取り組んでみようと思われる企業の皆様は、ぜひお気軽にご相談ください」と神野氏は呼びかけ、セッションを締めくくった。
●お問い合わせ先
ハートコア株式会社
製品ページ
https://www.heartcore.co.jp/process-mining/
お問い合わせフォーム
https://www.heartcore.co.jp/contact/index.html
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