日立製作所は2021年9月14日、説明会を開き、同社が進める量子コンピュータ開発の最新動向を明らかにした。同社の研究開発ではCMOSアニーリングの開発が先行し、すでにユーザー事例もあるが、2020年からはシリコン技術を用いた量子ゲート型の量子コンピュータの開発に着手。同年9月時点で、同一チップ上に量子ドットアレイとCMOS回路を集積したシリコン量子チップの製造に成功している。
日立製作所は現在、量子コンピュータ関連の研究開発において、シリコン技術を用いる「シリコン量子コンピュータ」のアプローチに注力している(図1)。
同社が最初に手がけたのは、組み合わせ最適化問題を高速に解く量子アニーリングである。CMOSを用いたアニーリングマシンを開発し、2018年から商業提供を始めている(関連記事1:日立、10万パラメータまで扱えるアニーリングマシンを開発、2018年8月に公開)(関連記事2:日立、名刺サイズのCMOSアニーリングマシン、エネルギー効率は汎用PCの約17万倍)。
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日立のCMOSアニーリングには、すでにユーザー事例がある。例えば、損保ジャパン日本興亜は、損害保険の組み合わせパターンを最適化する用途でCMOSアニーリングを導入。対象契約数200~1万で、従来精度を保ったまま高速化を図れるを検証した。契約対象数10万の場合、従来手法で2.6年かかるところを5.5日で完了できるという。
2020年10月には、CMOSアニーリングを使って勤務シフトを作成するクラウドサービス「勤務シフト最適化ソリューション」の提供を開始した(関連記事:日立、数百人規模の勤務シフトを作成するクラウドサービス、量子コンピュータを疑似的に再現)。三井住友フィナンシャルグループのコールセンターで行った実証では、人手で作成する従来の勤務シフトと比較して余剰配置の発生を約80%削減している。
量子ゲート型の「シリコン量子コンピュータ」開発に着手
一方で、日立は2020年から、シリコンを用いた量子ゲート型コンピュータ「大規模集積シリコン量子コンピュータ」の開発を始めている。2027年頃に実験的なクラウドサービスの公開を目指すとしている(写真1)。
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「量子ゲート型コンピュータも、アニーリングと同様、問題を解く際に古典コンピュータ(ノイマン型コンピュータ)に勝たなければならない。量子ビットの大規模化が必要である」。そこで日立は、少ない量子ビット数から徐々に増やしていくアプローチではなく、最初から大規模量子ビットアレイを意識して開発にあたっているという。
●Next:シリコン技術を用いた量子ビットの実現手法
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